ちょっと一言: 2010年2月

感染症学術セミナーを開きました

2月6,7,13,14日と2週間続けて、土曜日曜の全日を通して、一般人向けの学術セミナーの企画運営を行った。主催者であるNPOりすシステムさんから「新型インフルエンザ騒ぎに際して、我々一般人はもとより、町の行政担当者や多くの人と関連する仕事である学校やホテルなど、またご遺体を扱う葬儀関連の人などが、あまりにも感染症のことに無知であることに気付いた。勉強会の企画をしたい。」と相談に来られた。このNPOの代表の松島如戒さんが私どもの主侍医倶楽部のメンバーでもいらっしゃるからでもある。松島さんは、ユニークなお仕事をされているが、この場では説明しきれない。興味ある方は、朝日新聞の過去の記事の検索をして、2008年11月のフロントランナーをご覧頂くとよい。ともかく、何事にも積極的でリーズナブルな基本理念の元に自由な発想で行動する。周りはたいへんであろうが、本人が自ら動くから仕方ない。今回のセミナーの話しに際しても、松島さんがあまりにも熱心なので、知らぬ間に引き受けてしまっていた。話しはだんだん大きくなり、半日のセミナーが本格的なカリキュラムに変わっていき、結局は90分講義が15単位のものとなった。インフルエンザだけでなく、解剖学や精神神経免疫学を含み、感染症も寄生虫からプリオン病までのまるで医学部の講義を思わせる内容である。講師陣も、僕の交遊だけでなく、スタッフがあちこち適任の人を探して、各分野の専門家10名と僕とスタッフのドクターの総勢12名で担当した。 カリキュラムを載せたパンフレットを改めて眺めると「これは素人にはきついなあ。居眠り族が増えるかもしれない」と心配していた。 受講生は50名前後と予想していたが、当時は100名を超える賑やかさとなりこれにも驚いた。それにも増して驚いたのは、受講生の熱心さであった。誰一人として居眠りをしている人はいない。受講票の感想や、直接の声を聞いてみると「こんな本格的な勉強は退屈するかと思ったが、聞いているうちに、医学の奥深さや、人や自然の力を感じた」というような感動に近い言葉が多い。事実、僕自身も医学生に戻った気分になり楽しかった。 「料理の味と同じで、激辛や濃い味はすぐに美味しく感じ、きちんとしただしの味は最初は物足りなく感じても奥深いものです。こういった医学の知識もインターネットやテレビのバラエティ番組のようなものは興味を引きやすいが、薄っぺらだと言うことは認識できたと思います」と閉会の挨拶で話すと、聴衆からは「その通り」という反応があり、このセミナーをやってよかったなあ、としみじみ思った。 今回のセミナーで面白かったのは、講師陣の先生方もおおいに満足したことだ。主催のNPOりすシステムさんは、スポンサーシップをきちんととっていただき、講師の方にも内容を準備するのに余裕ができる相応の費用の拠出をしていただいた。 講師陣は、「一般のひとには難しすぎないかなあ」という共通の不安があったようだが、終わった後「こんなに熱心に聞いて頂き安心し嬉しかった。お役に立てたんだという実感があった」と口を揃えて言って頂いた。本当に善良な医師、医学者たちだなあと僕もいちいち感激した。 これは医療の日常でも言えることだ。医師の懸命の努力と患者の感謝の気持ちのどちらが先かであるが、「そちらが先なら、、、」というのではなく、「双方が先」というのがいい。最近の僕のテーマとして「患者中心の医療を叫ぶ」から「人間中心の医療への復活」を改めて認識した。このことは別段でゆっくり書いてみたいと思っている。

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