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温故知新⑦ ヴァーチャルリアリティーの落とし穴
1997.3~1998.3 温故知新⑦ ヴァーチャルリアリティーの落とし穴 |
ばんぶう 1997.9 日本医療企画 |
二人息子のうち、次男が今年中学生になり将棋部とテニス部にはいった。将棋は駒の動かし方も知らない程度。少し覚えては「お父さん、将棋やろう」と相手を迫ってくる。かくいう私も、駒の動かし方をかろうじて覚えている程度なのである。面倒だから、なんとか逃げ回るのであるが、5回に1回はつかまって相手をさせられる。最初の内は、簡単にこちらが勝つ。負けん気の強い次男は、涙をこらえてひきつり笑いをしている。「負けて泣いたり、怒ってしまうのだったら、二度とやらないよ」とあらかじめ念を押しているから、無理して笑っているのである。しかし、一触即発状態なのである。
そんな彼が、ある日「お父さんお願い!」とすり寄ってきた。彼は人に頼み事をするときと、用事を頼まれたときの態度は、人間こんなにも変われるものかと思うほど、その差は大きい。何のことかと聞けば「コンピュータ将棋」のプログラムを買って欲しいという事である。わが家では、テレビゲームは卒業させていた。というのも息子たちは学校でも有数のテレビゲームの達人であったぐらいであり、視力の低下は遺伝的要素だけではないと私が診断したからである。だから、テレビゲームの一種である「コンピュータ将棋」の許可を求めてきたのである。結論的には、その日秋葉原に行ったのである。なんと甘い父親!
その日よりコンピュータから「お願いします」と何度も聞こえてくるようになった。彼はコンピュータに負けそうになると、涙ぐんでいるかというとニコニコ笑いながら「リセットボタン」をポンッと押すだけである。2週間ほどして、彼と対局することになった。いつものごとく甘く見て、私は半分テレビをみながら相手をした。途中から苦戦を強いられ、真剣にやるも、時既に遅くついに惨敗。くやしまぎれに「お父さんがテレビを見ている隙に、あの王手飛車取りを打たれたからや!」と叫んでしまった。妻はそれを横目にみてにやりとしている。息子は得意満面。コンピュータゲームでは味わえない快感なのであろう。ヴァーチャルリアリティーには感情を移入できない。逆に考えれば、ビデオやテレビゲームのなかに閉じこもると、あの「酒鬼薔薇」や幼児虐殺の「宮崎事件」のような無感情犯罪が起こるのかもしれない。そう思って息子に負けた悔しさを鎮めるのであるが、テニスまで負けるようになると笑っていられるだろうかと不安である。