温故知新⑧ 風と雨と太陽の話

 

1997.3~1998.3

温故知新⑧

風と雨と太陽の話

ばんぶう

1997.10

日本医療企画


人の心とは難しいものである。多くの患者さんのカウンセリングをしていると、いかに我々の心というものは微妙な動き方をするかということが身にしみて理解できるようになる。心の方程式みたいなものがどうやらあるようだ。どういう言い方をすれば、相手はどんな反応をするか、ということが意外と公式的な図式で表されそうなのである。
 最近の新聞をみると、毎日のように殺人事件やいじめや不正など、「性悪説」を否定したい私にとって不利になるような事件が満載されている。こんな世の中の傾向をどういうふうにすれば改善できるのかと、総理大臣でもないのに憂慮している自分が滑稽にも思えるのだが、同じように感じている御仁も多いと思う。話を、自分の子供や仲間に置き換えてみれば分かりやすくなる。まわりには人間関係のストレスが多いと嘆いている人はたくさんいるのではないだろうか。人間関係が原因のストレスで私のクリニックを訪れる人は多いが、そのほとんどの原因は「信頼関係の欠如」である。要するに「誰々に裏切られてから、脳裏を離れない…」的な訴えである。人を説得するときに、お金の力や権威や力ずくでしようとする癖が最近の日本では定着してきたのではないか。そのことに対する心の中の副作用がストレスという形で湧き出てきたのではないだろうかと私は思っている。
 子供の頃読んだ童話で、人の服を脱がすのに雨や風で、無理矢理すると上手くいかないが、太陽のやさしい力で上手くいったというような話があったのを、最近、思いだした。人を本当に説得するには、やはり「太陽」の心なのかもしれない。これは即ち「人を信ずる心」である。「あなたは人をすぐ信じるから騙されるんだ」とよく言われるが、これからは「それこそが私の信条であり快適に生きるコツなのだ」と 誇りを持ってうなずきたい。昔の童話が私を勇気づけてくれた。 

    

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