糖尿病は『静かなる殺し屋』

さわやかけんぽ

インスリンの働きが弱まることがその原因

糖尿病は『静かなる殺し屋』

さわやかけんぽ

1998.2

ジェイアールグループ健康保険組合


高血糖状態を放置すると、糖尿病はどんどん進行し、さまざまな臓器を障害する
  

糖尿病という病名は読んで字のごとく、「糖が尿に出る病気」を意味している。

確かに糖が尿に出ることは糖尿病の特徴の一つであり、かつては尿糖試験紙などで糖が尿に出ていることを確かめて、糖尿病と診断していた時代もある。しかし、糖が尿に出ていても糖尿病でない場合もある。そこで、最近は血液中の糖の濃度から糖尿病を診断する。
 では、「糖尿病」とは一体どのような状態を指し、どうして発病するのだろうか。
 私たちの脳や筋肉そして内臓を動かし、生命を維持していくためには、当然エネルギー源が必要となる。三大栄養素と呼ばれるタンパク質・脂質・糖質が、私たちの主なエネルギー源であるが、中でも最も利用される割合の高いものが、糖質である。糖質はご飯・パン・芋などのデンプンのほかに、果物・牛乳・砂糖にも含まれている。これら糖質を含む食物を食べると、消化酵素の働きで、ブドウ糖や果糖などに分解されて、小腸から吸収される。吸収された糖は血液に溶け込んで肝臓に送られ、多くはグリコーゲンとなって、肝臓に貯蔵されるが、一部は筋肉に送られ、エネルギー源となったり、グリコーゲンとして貯えられる。
 特に、脳と中枢神経系は、そのほとんどのエネルギーをブドウ糖に依存しているため、ブドウ糖が不足すると、生命を維持できなくなる。そこで、血液の中には常に一定のブドウ糖が溶け込んでおり、血液中のブドウ糖が少なくなると、肝臓や筋肉に貯えられたグリコーゲンが分解され、ブドウ糖となって血液中に送り出される。
 血液中の糖の濃度を[血糖値]と呼ぶが、この値は常に一定に保たれており、健康な人では空腹時に、約90~100mg/dl(正常値は空腹時で110mg/dl未満)である。一定に保たれているはずの血糖値が150mg/dl、200mg/dlと高くなる場合がある。これが糖尿病である。なぜ、一定に保たれるはずの血糖値が上がっていくのであろうか。それは、インスリンというホルモンの働きが弱くなるからである。
 ブドウ糖がエネルギー源になるためには、膵臓すいぞうのβ細胞から分泌されるインスリンが必要となる。インスリンは細胞がブドウ糖を取り込むときに助けたり、筋肉や肝臓でブドウ糖をグリコーゲンに換える働きをもっている。つまり、インスリンは血液中の余分なブドウ糖を組織に取り込み、血糖値を下げる働きをしているのである。したがって、その分泌量は、血糖値にあわせて、増えたり減ったりする。血糖値が低い空腹時には、インスリンの分泌量は減り、食事によって血糖値が上がると、インスリンの分泌量は増える。
こうしたインスリンの働きで、血糖値は一定の値に保たれているのである。
 このインスリンの働きがさまざまなメカニズムで弱ると、血糖値は上がる。これが糖尿病の病態である。つまり糖尿病とは、膵臓でつくられるインスリンの働きが悪くなることが原因なのである。インスリンの働きが悪くなると、大量のインスリンが必要となる。膵臓のβ細胞はフル稼働してインスリンを分泌する。しかしこうした状態が長い間続くと、膵臓のβ細胞は疲労し、やがてインスリン分泌量は極端に少なくなる。つまり、血糖値の高い状態を放置すると、糖尿病はどんどん進行していくのである。


適切な治療を行わないと、神経障害・腎症(じんしょう)・網膜症など死につながる合併症を起こす

血液は私たちのからだの隅々まで流れているため、余分なブドウ糖(高血糖)は、単に血管だけでなく、さまぎまな臓器に悪い影響を与える。
 余分なブドウ糖は、体内のタンパク質に作用し、その機能を劣化させるだけでなく、タンパク質そのものも変質させる。この劣化・変質したタンパク質が組織にたまり、さまぎまな障害を惹き起こすのである。例えば、血管の壁に作用して、動脈硬化を起こすのも余分なブドウ糖の影響なのである。
 余分なブドウ糖の影響で起こる病気は、糖尿病の合併症と呼ばれる。糖尿病はそれ自体直接死につながる病気ではないが、死につながる恐ろしい合併症の原因となるのである。

糖尿病の代表的な合併症としては、神経症・腎症・網膜症がある。

現在人工透析を受けている人の約二人に一人は糖尿病による腎症であり、また、成人の失明原因の第一位は糖尿病による網膜症である。この他、動脈硬化や高血圧も合併しやすく、心筋梗塞・脳梗塞・感染症になりやすいといわれている。
 糖尿病を発症しても初めは自覚症状はない。したがって、健康診断などで糖尿病といわれても実感はなく、放置されている例が多い。しかし、自覚症状のないまま静かに進行するため、サイレントキラー[静かなる殺し屋] とも呼ばれているのである。適切な治療を行わないと、まず動脈硬化や高血圧がゆっくりと進行する。そして3~5年ぐらい後に、まず神経症が起きる。具体的には手足のしびれ感や無感覚、消化器の異常などである。さらに放置すると、網膜症、腎症を発症し、発症から20年後には、失明や腎不全を起こす可能性が高いのである。

    

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