「脈が乱れている」と思ったとき

 

メディ スコープ

「脈が乱れている」と思ったとき

はいたっく

1998.6

日立製作所 発行


  1. 致命的な不整脈(心室細動など)
  2. 安全な期外収縮
  3. 心房細動
  4. 危険な徐脈性(脈拍数が少なくなる)不整脈

1.致命的な不整脈(心室細動など)

◆症例

内科医のKさん(30)は、以前より不整脈を先輩の医師から指摘されていた。しかし多忙、ストレスのため睡眠不足、喫煙も止められず、ある日、受け持ち患者さんの資料の検討のための徹夜明け友人と食事中に倒れ、大学病院の救急部に運ばれたが、そのまま帰らぬ人となった。

◆病気の説明

不整脈と聞いただけで怖いのに、いきなりショッキングな症例をとりあげた。実はこの患者さんは、私が大学病院勤務時代の後輩のドクターであった。不整脈といってもいろいろの種類がある。脈が速くなったり、遅くなったり、不規則になったりするという分類。
 また、心臓に問題があって(例えば心筋梗塞や心筋症など)発生する不整脈と原因ははっきりしないが不整脈だけ生じるもの。治療の必要があるものないものという分類。不整脈のうち、期外収縮は正常の心拍以外の心拍が生じるものだ。一般的には、期外収縮は安全なものが多い。Kさんの場合は多巣性期外収縮といっていろいろな形の期外収縮が複合した危険な不整脈の持ち主だった。医者の不養生を絵にかいたように詳しい検査をせず、勿論治療も受けないばかりか、不整脈にとって悪い「疲労」、「睡眠不足」、「喫煙」が重なった状態で発作を起こしてしまった。適正な抗不整脈薬を服用し、生活のリズムを守り、禁煙していればこのようなことにならなかったはずで残念だ。

◆治療,予防
 突然死の原因の多くは心臓病である。その中でも心筋梗塞が半数以上を占める。しかし、この症例のように原因がはっきりしない不整脈による突然死も多い。ところが、こういう症例をよく検討してみると、発作以前から何らかの症状があることが多いものである。そのひとつに、元来危険なタイプの不整脈がある場合は、その治療をしておくことで致命的な発作の確率を下げることができる。いずれにしろ循環器の専門医の判断が必要である。

 


2. 安全な期外収縮

◆症例

会社員のAさん(40)は、人間ドックで不整脈(期外収縮)を指摘された。いままで自覚症状はなかったが、不安になり夜も動悸がするようになった。このままではいつ心臓が止まるかと不安な毎日である。

◆病気の説明

不整脈の代表である期外収縮は、普通の脈以外に不規則な脈が出現することである。ときには心臓にドックン!という自覚症状も伴う。多くの健康人にも少量の期外収縮はみられるものである。1分間に一、二回以内であり、同じ形の期外収縮(心電図で判定される)が単発で出現するようなものは、たいてい放置しても大丈夫である。できればホルタ[心電図(24時間心電図)で期外収縮の頻度や種類を調べたほうが安心である。

◆治療,予防

検査の上、心配ないと医師から言われれば、過労を避け、十分な睡眠をとるように心掛け、喫煙や過度な飲酒は控えるようにする。自覚症状が強ければ投薬も受けることが必要だが、症状がなければ別段治療はしなくてもよい。同じ不整脈でも緊急に治療が必要なものと、このようにむしろあまり気にしない方が良いものまでさまざまである。普段、自分の脈拍の状態を掴んでおくことが早期診断への近道となる。手首の親指寄りのところに、他方の手指の2、3本を軽く当てて脈拍数(1分間)とリズムをみる習慣を付けておくとよい。


3. 心房細動

◆症例

会社を経営しているMさん(52)は、ときどきめまいがして気持ちが悪くなる発作が起こる。そのとき脈をみると全く不規則、病院で発作性の心房細動といわれた。

◆病気の説明,治療

これは、心臓の心房というところが、一分間に数百回の細かい波うち(細動)状態となり、その一部の刺激が心室に伝わり心臓の収縮となる。そのために脈は全くの不規則になってしまう。心臓弁膜症や心筋症でも起こるが、明らかな心臓病がなくても、加齢とともに発生頻度が増える。これ自体は致命的な病気ではないが脈拍数が増加しすぎると心不全になることもあるので緊急的治療を要することがある。
 また、心房細動を放置しておくと心臓の中に血のかたまり(血栓)が出来やすくなりこれが脳梗塞の原因となることがある。この病気になった人は心臓の超音波検査が必要である。正常の脈拍と心房細動を繰り返すものと心房細動の状態が固定してしまうものがある。心房細動の治療は、薬物が主流で電気ショックなどを使うこともある。
 他によくみられる頻脈性(脈が速くなる)不整脈として「上室性頻拍症」というのがある。突然脈拍が一分間150以上にもなり、不快な気分や動悸、めまいなどが起こる。この場合、脈拍数が徐々に増えるのではなく、突然増加し、しかもその脈は規則的であるのが特徴。これも良性の不整脈で命に別条がない場合がほとんどだが、定期的な専門医のチェックを受けた方が良い。


4.危険な徐脈性(脈拍数が少なくなる)不整脈

◆症例

学生のFさん(20)は、従来から脈拍数が遅かった。ある日友人と話しをしていたら突然意識を失ってしまい救急車で病院に運ばれた。数分以内に意識は戻った。本人の話では以前にも同様のことがあったらしい。

◆病気の説明

難しい名前であるが、洞(どう)不全症候群または高度房室ブロックによる脈拍数低下による急性の脳虚血が疑われる。このような失神発作をまたまた難しくて恐縮なのだがアダムス・ストークス症候群といい、危険な不整脈を示唆する徴候である。いずれも心臓の拍動のリズムを司っているところやその電気信号を伝達する路が機能低下していることが原因である。よく間違われる診断に「てんかん発作」があるが、脳波と心電図により大体鑑別はつく。いずれにしろ意識をなくすような不整脈は要注意である。

◆治療

薬物による根本的治療は難しく、現在最も信頼出来る治療法は人口ペースメーカーの装着である。これは心臓の収縮のための信号を人工的に発生させる小さな機器を心臓の内部に植えつける方法である。いまはこういった技術が進んで足の血管から細いチューブを通してペースメーカーを挿入して設置できる。電池の寿命も長くなり、電池交換も生涯で数回程度で済む。ただ、近年いろいろな医療エレクトロニクス技術が進み、MRIという磁力を使った検査機器が日常的に使われつつある。これは大変な磁場を発生するため人口ペースメーカーに影響を与える可能性があるので注意を要する。こういった注意が必要になったのは科学の発達のうれし悲しといったところであろうか。

    

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