質実剛健⑦  景気回復ケーキ

 

1999.5~2000.4

質実剛健⑦  景気回復ケーキ

ばんぶう

1999.11

日本医療企画


先日、大学時代の仲間のゴルフ旅行の帰り、新幹線の中でアナウンスがあった。「縁起のいい新幹線特製“景気回復ケーキ”はいかがでしょうか?」
その日はゴルフの成績もすぐれず、仲の良い先輩のドクターと悲嘆に暮れながら「あの時のパットは云々」と反省していたのであったが、このアナウンスを聞いて思わずニヤリとしてしまった。これはもしかして、そんなケーキを実際売っているのではなく、さすが元国鉄JR‘洒落と元気付け’でアナウンスしているのではとも思ったが、確かめはしなかった。
 バブルの崩壊とその後の不景気、そして景気回復に向けて、国民の価値観は大きく変わろうとしている。今はまさにその混迷期である。この変化を個々の国民の精神状態から言及してみると、「ブランド盲信主義」から「疑心暗鬼」の状態を経て、「質実剛健」なる心の芽生えの状態になりつつあると言えるのではないだろうか。
 身の回りを見渡してほしい。もう既に一部の人たちは、物事の本質を見分けて「品質のよいもの」「人格者」を支持する行動を示している。勿論大半の人々はまだまだ疑心暗鬼状態で、何が本質かも分からない代わりに、かといって過去のバブル時代のようにブランドだけで判断することも出来ないでいる結構苦しい状態に置かれているわけである。
そういう思いで考えると、かの“景気回復ケーキ”は、もし、本当に存在するなら、飾り立てた豪華絢爛なケーキでなく、品質の良いクリームとスポンジを使った一見質素な(つまり質実剛健な)ケーキであってほしいと願っている。そういうものが売れる状態を本当の意味での景気回復というのだと思う。
 相対的価値観ではなく、絶対的価値観を各人が持つことが大切なのである。

    

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