少数精鋭主義⑫ 迷う楽しみ、選択する苦しみ

 

2000.5~2001.4

少数精鋭主義⑫

迷う楽しみ、選択する苦しみ

ばんぶう

2001.4

日本医療企画


少数精鋭主義のテーマで書くのも今回が最後になった。一年は早いものである。人類の何十万年もの歴史から見たり、ビッグバンで宇宙ができてからの気の遠くなるような歴史から見ると、人生なんて一瞬であると表現される。その一瞬の人生に悩んだり、喜んだりと様々な出来事を体験するのである。そしてその一瞬の人生を、自ら半分に縮めたり他人から縮められたりしたニュースが連日のように新聞やテレビを賑わしている。
また、終末期の医療の選択ということが今世紀の医療の一つのテーマにもなりつつある。少なくとも、人生最後は無用な苦しみや悩みを抱きながら過ごすのは誰しも嫌であろう。患者さんをみていたり自分の周りを見ていて、70歳80歳でも悩み苦しみが多いことに気付く。悩み苦しむ晩年くらいなら、元気で楽しい短い人生のほうが良い、といういわば人生の少数精鋭主義的な発想も生まれかねない。そうなると医学の根底の目的の一つである「寿命を長く」というテーマがかすんでしまうような気がする。
 これからの医療のあり方について、私は二つの相反する解答を持っている。
一つは「医療はできるだけ痛みなど不快な症状が無く、できるだけ寿命を長く保てるように助力する技術」という考えに徹する方向性である。もう一つは「単なる科学的技術の追求だけではなく総合人間科学として、幸福論にまで介入した上で『人間の総合的快適性、長寿』をサポートすることが医療の新しい役割」とする考え方である。このどちらかをはっきりと認識しながら、新しい医療のあり方を研究、実行するべきであろう。
今日、いろいろな分野で多様化がみられ、それゆえに選択する必要性が生じている。「迷う苦しみ、選択する自由」という考え方ではなく、「迷う楽しみ、選択しなければいけない制約」ということがヒントにはならないだろうか。「少数精鋭」といっても、選ばれた少数精鋭なのか、もともと少数なのとでは随分違う。情報開示が実行され、様々な選択肢が我々の目の前につきつけらることになるであろう今世紀、「選択可能はむしろ制約であり、迷うのも楽しみの一つ」という考えが人生快適術のキーワードである、と私は考えている。

    

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