吹っきりのち復活⑥ 悪い「吹っ切りと復活」

 

2002.5~2003.4

吹っ切りのち復活⑥

悪い「吹っ切りと復活」

ばんぶう

2002.10

日本医療企画


人間の慣れ現象とは恐ろしいものである。一部上場の(いわば有名な大きな)会社の倒産の記事を見ても驚かなくなったし、そのような記事を日経新聞でさえ一面記事に取り上げない場合もあることに気付いた。殺人事件の記事が日常茶飯事化していることと同様の悲しい時代の変化である。最も大昔、人間同士の殺し合い(恐ろしい言葉である)がそれなりに日常的であった時代もあっただろうから、時代の輪廻といったほうが正確な表現かもしれない。
 話を元に戻して、企業の倒産やら会社更生法というものは、まさに「吹っ切りのち復活」を目指そうというものである。今や、倒産やら個人破産やら社長更迭やらに慣れっこになり、それらはそんなに恥ずかしいことでもないような気がするのも時代の風潮である。私自身は、何を隠そうこの現象に憂いを感じている一人なのである。企業が一旦倒産宣言をして、借金を棒引きにして、一部の人事を変えて、再度復活しようということが連日のように見受けられるのは「倒産、みんなでやれば怖くない、恥ずかしくない」的であり、「悪い吹っ切り」の代表例といったところではないだろうか。
 多くの人に迷惑をかけながら、責任を取るべき中心人物たちは、倒産後も意外と優雅な生活をしているという事実はなんだか美しくないなあと私は違和感を感じる。私の勧める「吹っ切り」は「勇気ある撤退」ということである。つまり、撤退することに伴う大きな責任をきちんと受け止める覚悟が必要なのである。会社を倒産させて、借金を棒引きにしたり、多くの従業員を路頭に迷わせた経営者(陣)は、その従業員が一人残らず無事、次の職につくまでは自ら禁治産者の名を享受するくらいの覚悟が必要だと言いたい。それでも会社清算の道を選ぶなら、それはそれなりに立派な吹っ切りと評価できよう。

    

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