難病の根治をめざして

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難病の根治をめざして

塾 WINTER 2003 No.237

2003.1.15

慶應義塾


臨床応用に直結する基礎研究として、根治薬開発に向け、主にアルツハイマー病とがんの分子機構の解明、制御法の同定、モデル細胞および動物の作成に取り組んでいる。

西本征央にしもと いくお 医学部教授

薬理学教室では、神経変性疾患とがんに焦点をあて、生化学、薬理学、そして、分子生物学や遺伝子組み換えマウス作成術を駆使して、根本的な原因の解明と治療法の開発に全力で取り組んできました。現在、世界中で1400万人の患者さんがアルツハイマー病 (以下ア病) に苦しめられています。 これら難病の根治法を見いだしたい。それが私たちの心からの願いです。
 現在は4つのプロジェクトチームが、各リーダーの細心のスーパービジョンの下に研究を進めています。サイクリンチームは、細胞周期の分子機構を新規サイクリンという切り口で解明するがん治療の可能性を探っています。ターゲティングチームでは、脳萎縮を発症するア病モデルマウスの作成という大目標に迫りつつあります。実は21世紀になった今も、脳萎縮を発症するモデル動物は存存しません。したがって、脳萎縮というア病の中心病態の治療薬のための動物実験すらできないのが現状です。
また、ア病の愚者さんの脳内の神経細胞は細胞が生きた状態で観察ができないので、脳内の神経細胞で実は何が起きているのか分かりにくいのも実状です。得られなければ作り出そうと、ES細胞分化チームでは分子生物学と発生工学を駆使して、この難題に取り組んでいます。神経細胞死制御チームは、ア病の各種遺伝子が神経細胞死を誘導することを世界に先駆けて見いだした後、最近発見した新規分子ヒューマニンをはじめ、神経細胞死を制御する分子の同定により、根治薬開発に挑んでいます。
 教室では自由な雰囲気の下に活発な研究が展開されています。これを支えるさまざまなものの中で最も重要なのは、人材、特に、若き発展途上の研究者であると信じます。人間の活動の中で、研究とは、割に合うことの最も少ないものの一つです。したがって、割に合うことを人生の中心に置く人に研究は向きません。逆に、方に一つでも誰も知らないことを知る体験ができたら良いと思い、自分の利益を度外視して課題と取り組める研究者に成果が訪れるように思います。こんな話があります。今年卒業する一人の大学院性は、入学後一日も休みをとらずにきたので、心配して昨年は夏休みをとるように言ったところ、4日休みたいと、言ってきました。 急に4日は変に思いましたが、その4日はすべて土日でした。このように、非常に熱心な若き研究者たちと仕事ができる教室を誇りに思っています。
 病気に苦しむ人々を救いたいという情熱を持って取り組む私たちを北畠医学部長をはじめ陰に陽に支えてくださる多くの皆様方に、この場を借りて厚くお礼申し上げます。

(教員のプロフィール)

  • 1980年東京大学医学部を卒業後、全国各地で内科医として勤務。
  • 1989年スタンフォード大学内科臨床薬理学に留学。
  • 1992年よりハーバード大学医学部MGH内科準教授。
  • 1996年より現職。
世界初を目指した発想と肉体の勝負

川澄正興かわすみ まさおき  医学研究科博士課程4年

アルツハイマー病は進行性痴呆を引き起こすヒトの脳の病気です。患者さんの脳から神経細胞を取り出すことはできず、病態の解明や治療薬の開発に向けた研究を展開する上で大きな制約がありました。そこで私たちは、アルツハイマー病に見られる遺伝子変異を持つマウスを、最新の遺伝子改変技術によって作り出すことに成功しました。このマウスを使えば、アルツハイマー病を根治させる薬を開発することも夢ではありません。このような先進的な取り組みができ、患者さんの役に立てる研究を押し進めることができるのも、西本研のすばらしいところです。早朝から深夜まで、平日も休日もなく研究が続けられています。週に-度開かれるミーティングでは、研究者一人ずつ実験結果が報告され、西本教授を始め、研究者たちの卓越した発想に基づく議論で、研究が一歩一歩進んでいきます。私たちは世界初のアルツハイマー病根治薬の開発を目指し、真摯に研究に取り組んでいます。

    

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