吹っきりのち復活⑫  ボーダーレスとけじめ

 

2002.5~2003.4

吹っ切りのち復活⑫

ボーダーレスとけじめ

ばんぶう

2003.4

日本医療企画


一年間「吹っ切り」ということを考えてきたが、いかに吹っ切ることが難しいかが、我ながら返って身にしみてきた。考えてみれば、今の世の中「ボーダーレス時代」といわれ、物事や場所などに境界が存在しないことを良しとする風潮がある。航空機事情が発達し、異国の間が短くなった。むしろ、「異国」という言葉自体がエキゾチックではなくノスタルジックな言葉に聞こえる。さて、このボーダーレスだが、文明の発達の証だと手放しに大歓迎するべきものであろうか。確かに、多くの分野で、ボーダーレスの概念は人間に幸せという価値を与えてくれている。バリアフリーやユニバーサルデザインという考えがその代表であろう。一方で、「けじめ」という、日本古来の考え方がある。日本中、いや世界中どこでも同じコンビニがあり、ハンバーガーショップがあることは安心で便利かもしれないが、「ここには絶対にコンビには無い」という町や国があってもよいと私は思っている。そんなことは、都会人や文明国のエゴだという御仁もいらっしゃるであろうが、ただ闇雲に、商売、ビジネスという名のもとに、世界中の片隅まで便利文明を「今やビジネスはスピード」とごり押しするのはどうであろうか。
 「けじめ」の辞書の説明の一つに「節度ある態度」とあった。私自身、自分で言うのもおこがましいが、どちらかというと「マルチ人間」で、境目の無い広い視野が必要だ、と日頃から主張している。その結果、私自身、医師であったり、作家であったり、医療ビジネスコンサルタントであったり、教師であったりと、多彩と言えばかっこよいが、ジプシーのような生活を送りほとほと疲れている。実は、これからの人生、少しけじめをつけてみようと密かに考えている。「ばんぶう」のこのコラムエッセイは、読者の方へのメッセージでもあるが、言うまでも無く自らへの警鐘なのである。

    

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