一生懸命足るを知る⑧  50歳寿命説

 

2003.5~2004.4

一生懸命足るを知る⑧  50歳寿命説

ばんぶう

2003.12

日本医療企画


つい先日、親友でもあり医学医療の道の戦友といっても過言でない大切な仲間をがんで亡くした。
西本征央慶應大学医学部教授。アルツハイマー病の世界的な研究者であった。彼とは十数年来の付き合いであるが、特にこの7年間は慶應大学の研究室での医療判断学という新しい講座の開設と、アルツハイマーの防御因子ヒューマニン(彼が命名した)に関する研究仲間として密接な関係にあった。同じ和歌山出身の2年後輩でもあったこともあり、最後の6ヶ月の闘病生活や告別式に際しては兄弟として過ごさせていただいた。彼は幼い頃、父親から鍛えられた頑強な体の持ち主で、小柄な私と並ぶと2倍くらいありそうにも思える感じであった。だから、寝食忘れて研究していても元気で、さすがに頑丈にできているものだと感心していたくらいだった。実際、この7年間を振り返ってみると、彼とは仕事の話しかしていないことに気づいた。
 亡くなる2週間前頃、病室に伺った時「元気になって、寺下先生と何というか、たわいもない雑談をしたいなあ」とぽそっと彼が言ったことがとても印象に残っている。彼の研究テーマであったアルツハイマー病は50歳頃に発症のピークを迎える。がんなどもそうであるが、大体の病気に対して、50歳頃を境にして人間の防御力は落ちるものだと私は感じている。神様は人間の寿命をとりあえず50歳とセットしたと推察している。それを人間の叡智により、延長させてきているのである。
 前を向いて行動することしか知らなかった西本征央兄弟。亡くなる1週間前、意識が薄れていくなか「実験の用意をしろ」「なになにの反論の論文を書くぞ」とつぶやいていた。もういいよ。ご苦労様。
君の発見したヒューマニンはきっと人類の大きな役に立つと確信している。享年47歳。神様のセットした50歳までも足りなかった。冥福を祈る。後にあの世であった時に恥をかかないよう私ももう一ふんばりする。

    

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