一生懸命足るを知る⑫ 品質の良い日用品

 

2003.5~2004.4

一生懸命足るを知る⑪  品質の良い日用品

ばんぶう

2004.4

日本医療企画


ウイリアム・モリスという芸術家は、大量生産でつくられる手作り感のない安っぽい日用品で生活環境が埋められていく現状を憂い、「美術館に飾られるような芸術作品ではなくて、日用品や部屋の装飾として使われるようなものとして、手作りで品質の良いものをつくりたい」とカーテンや壁紙などをデザインすることにしたという。
 私は「質実剛健」ということが好きだが、単に生活を質素にするために、お金をかけずに100円ショップですべてをまかなうのが「質実剛健」の権化というわけではないと考えている。ある建築家の著書のなかで「あまり高価なグラスや食器を買うと割れるのが怖くて使えず、結局使い捨て的な食器を使うことになり生活がかえって貧しくなる。自分の経済力で可能な範囲の気に入ったものを手に入れて、日常的に使うことこそ生活の豊かさの演出だ」と書かれてあったことが印象的だった。
 世の中には似て非なるものが多いし、その逆も多い。「贅沢と豊かさ」、「贅沢と吝嗇りんしょく」「浪費と倹約」もその一つの例であろう。私の仕事は「医療決断支援医」「医療判断医」「主侍医」と自ら命名し、クライアント(患者)の重病時の水先案内役を任務としている。ところがこの仕事をしていて驚くことは、車や家や食事やゴルフや銀座のクラブや宝飾品や化粧品などに細心の選択とふんだんなお金を費やすのに較べて、まじめな医療そのものへの投資に関しては随分と意識が低いということだ(そんななか、私の事務所と長年主侍医契約していただいているクライアントには頭が下がり感謝している〉。
日本では、医療と水とライスお代わりは無料だという名残がまだうごめいているようだ。この傾向は高所得者に多いから、問題だ。そのくせ、医師への裏の謝礼は結構多額であり、有名病院では高額な個室が満床であると聞く。この矛盾を解決しないと日本の医療は良くならない。医療こそ「手作りで品質の良い日用品」の代表だと私は思う。

    

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