性善説ルネサンス⑤ 職業人としての「良心」「使命感」が必須となる

2006.4~2006.11

性善説ルネサンス⑤
職業人としての「良心」 使命感が必須となる

ぱんぷう

2006.8

日本医療企画


慶應義塾大学医学部の4年生を対象に、「医師としての判断・行動の際の心構え」をテーマとした3日間連続の集中講義と全員参加型の実習を11年間続けている。その実習では、実践さながらのきわどい決断のシミュレーションを行っているのだが、実習が進むにつれて医学生たちの目も真剣になる。講師の私だけでなく教室や私の事務所のスタッフも熱くなり、決して手を抜くどころではない。講義が終わると、主任教授らとともに反省会を開き、翌日の講義に備える。そんな熱心さが学生たちにも伝わるという好循環を生んでいる。

学生たちには講義ごとに感想文を提出していただいており、それを小冊子にまとめている。「決断できない自分を発見し、医師になるのが怖くなった」「医師の重圧とともにやりがいを再認識した」「早く医師になって今の気持ちを高めていきたい」「医療は不確実だからこそ、医師の良心が必要だと痛感した」など、率直な感想が多くて読みごたえがある。ベテラン医師向けに「初心忘るべからずバイブル」として売り出したいくらいだ。

医師の心構えの基本として「良心を持て」とよく言われるが、実際そのとおりである。学生たちとの実習を進めていくうちに感じるのは、彼らの多くが何らかの使命感を持って医師をめぎしているということだ。職業人としての良心を考えるとき、この「使命感」は必須である。受験勉強で成績が良かったから医学部へ進む学生が多い、と批判されがちだが、まんざらそうでもないと安心する。「医者になりたいから勉強したんだ」と言える医学生も多い。

先日テレビで、「ホスピクルクラウン」(病院内で患者さんに笑いを提供する道化帥)というボランティアのことを知った。アメリカの病院では多いらしいが、日本のプロの道化師が国内でその活動を始めたという。「どうして始めたのですか?」という質問に、「理論や具体的な計画というものはなく、人から命じられた使命とでも言うべきものに動かされたのです」と答えていた。私はそのような無計画な自然さにとてもリアリティーを感じ、日頃の私自身の活動に対しても勇気を与えられた気がした。

医師のみならず教育者や政治家などにも、それなりの使命感が行動の根幹にあるはずである。とは言っても人間は弱いもので、つい他人の眼や個人・所属団体の利害を中心に動いてしまう。しかしそこからは、決して他者の幸福どころか自身の幸福も生まれてこないことに、本当の知恵者たちは気づき始めたようである。利他の心こそ本物の利己につながるという、大きな哲学が生まれつつあると私はみている。

    

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