性善説ルネサンス⑦ 扇動と洗脳

 

2006.4~2006.11

  性善説ルネサンス⑦  扇動と洗脳

ばんぶう

2006.10

日本医療企画


テロのニュースが世界中で相次いでいる。「物騒な話だねえ」と彼岸の話では済まされなくなっている。そもそも彼岸の話だからどうでもよいという類の話でもない。特に近年起こった「自爆テロ」は、全世界の人々を恐怖と不安に落とし入れた。他の動物もそうであろうが、人間にとって最も嫌なことは「不安」なのである。不安の余り、最後の選択肢である「自殺」をする人が後を絶たないのであるから間違いない。

自爆テロを実行する人を想像してほしい。それが正しいと信じ切っているのであろう。まさか脅かされているのではあるまい。自爆テロを実行した人は位が上がるというから、家族へのなんらかの補償などもあるのかもしれない。いずれにしろ本人は自分の行動が正しいと信じているのである。一般に他人に信じてもらうために、人はどのような行動をするであろうか?自己犠牲をしてでも人のために尽くす、誰が見ても誠意ある利他行動をする、あきらめずに熱心な説得をする---このような行動の前には、多くの人は納得し信ずるようになるであろう。一方、最近巷に溢れているような「人を納得させるテクニック」的なもので人を信じさせることもできるかもしれない。嘘をついて人をだますことも詐欺の手口であるが、信じ込ませることには違いない。「赤信号みなで渡れば怖くない」的に人を誘導するのは「扇動」と言えるかもしれない。

扇動とよく似たものに、扇動は一時的なものであるのに比し、洗脳は半恒久的な価値観や思想の強制的改造と言えるかもしれない。自爆テロという、想像するだけで恐ろしい行動も、洗脳により可能になるのである。扇動は大衆的なものであり、洗脳はそれよりも若干ソフィスティケートされた響きがあるかもしれないが、より深刻である。

心理医学の世界で「トラウマ」という現象がある。酷く嫌な体験をすると脳の一部に固定記憶されることである。覚えたいことはすぐ忘れるのに、皮肉なことである。トラウマはいわば自己体験による洗脳と考えると理解しやすいかもしれない。洗脳の怖さを垣間見るたびに「我、扇動されず、洗脳されず、他人を扇動せず、洗脳せず」とつくづく思う。さまざまな医療相談を仕事としている私は、誠意ある説得で何よりも大切な「安心」を提供することを心がけたい。

    

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