NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №115
2017/10/23(月)
2017年7月3日、ニュースで「東京都大井埠頭で猛毒を持つアリが発見された」と報道され、身近に存在するアリに対して恐怖を感じている方も多いと思います。「知識は最強のワクチン」を合言葉にしている私としても、この欄をご愛読の皆様に、東京都の環境局などで発表している内容を簡単にまとめてみます。
(日本での存在、生息地)
2017年5月に兵庫県尼崎市で国内で初めて発見され、その後立て続けに東京、愛知、大阪、神奈川、福岡、広島など(9月1日現在)全国各地で確認されるに至っています。もともと南アメリカに生息していましたが、アメリカや中国、オーストラリアなどでも生息しています。
(形態)
体長は2~6mmで、赤茶色から褐色。
(毒)
主にアルカロイド系の毒素で、刺されると激痛とともに患部が水ぶくれを起こします。毒素に含まれるタンパク成分によりアナフィラキシーショックを起こした場合は命に関わることもあります。スズメバチに近いイメージを持っていただけると理解しやすいでしょう。
(治療)
スズメバチの場合と同様に医師の受診が必要です。特に呼吸困難や意識低下など重度の障害と思われたときは、虫刺されによるショック状態かもしれないということを救急隊に告げて、その対処ができる病院での治療を受けることが必須です。
(国内での蔓延の可能性)
現状では、水際での駆除を徹底していますので、心配は少ないですが、一旦広まると駆除は大変困難になります。在来のアリがヒアリの繁殖を阻害してくれることもあり、「対象を特定しない広範なアリ退治」を安易にできません。今後の報道にも注目しておいてください。
NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №104
2015/1/5
◯概説/症状◯
現状では正式な医学用語とされていませんが、「急激な温度変化が原因となり、心臓や脳血管に重度な障害を起こすこと」を便宜的に総称しています。医学用語としては、細胞レベルで熱による障害を受けることをヒートショックと呼び、その時に身体を守るヒートショックプロテインと呼ばれるタンパク質が合成されることを指しますが、日本では、通常、前者の意味で使われます。
日本では、入浴に関連した死亡数は年間1万数千人と推計されています。その多くは、冬場に起こります。日本家屋の特徴でしょうが、風呂場の脱衣室などはまだまだ十分な暖房が設備されていません。暖かな居間などから移動して寒い脱衣室で裸になり、寒い風呂場に入り、急に温かな湯船につかることになります。この間は、どんどん血圧が上昇します。ところが身体が温まり落ち着いてくると、血圧は下降し始めます。こういった急激な血圧変動に伴う血管の収縮や弛緩が引き金となり、脳血管障害や心筋梗塞を引き起こすことをヒートショックと呼んでいます。
◯診断/治療◯
いずれにしろ発作を起こしてしまうと、意識障害が伴う重症であることが多いので、患者を安静にし、タオルケットなどで保温をし、いち早く救急車を呼ぶことです。心筋梗塞の場合は激しい胸痛、脳血管障害では麻痺や意識障害が主な症状となります。
◯予防/対策◯
上記のように、発症してしまうと危険な状況に陥ることが多いので、何よりも予防対策が大切です。冬場に温度差がでやすい脱衣室やトイレなどを穏やかに暖める暖房の用意をしましょう。風呂場は脱衣の前に、温かいシャワーなどを出しっ放しにして暖めておいたり、湯船のふたを早めに開けておくなどして風呂場全体を暖めておきます。お湯はぬるめにして、ゆっくりと出入りするように心掛け、飲酒後や過剰な長湯を避けることです。半身浴などもよいでしょう。また入浴前後の水分補給も有用でしょう。深夜の寒い時の入浴よりも、夕食前の早めの入浴もお勧めです。老年者がいる家庭では、風呂場から家族人へ連絡する「緊急ボタン」もできれば設置したいものです。
カルテ46<救急>アナフィラキシー
2012/10/15
特定の原因物質により引き起こされた全身性のアレルギー反応をアナフィラキシーと呼びます。専門的になりますが、アレルギー反応にかかわるIgEという抗体を介して生じる即時型アレルギーに加えて、原因物質が肥満細胞と呼ばれるアレルギー関連細胞などに直接作用して生じるアナフィラキシー様反応も含めてアナフィラキシーとして同様の治療を行なう必要があります。しばしばショック状態を起こし、命にも関連する致命的な病態です。原因物質としては、抗生物質や鎮痛解熱剤、造影剤などの薬剤や輸血、食物、ラテックスなど様々ですが、最近問題になっているのはハチ(特にスズメバチ)に刺されて起こす場合があります。また運動により誘発される場合もあり、この場合は診断が難しくなります。
(症状)
数秒から数十分以内に症状が出現することが特徴です。ほとんどの場合、紅斑(こうはん)や蕁麻疹(じんましん)のような皮膚症状が現れます。かゆみもあることが多いです。血圧も下がることが多く、気分不良、めまい、耳鳴り、冷や汗、唇のしびれ、胸の苦しみなどショックを思わせる症状が出現します。また、死因の一つである気道の狭窄(きょうさく)による息苦しさやゼーゼー感、更に重症になると意識障害も生じます。
(診断)
症状経過から迅速に診断しなければなりません。たいていの場合は診断がつきますが、心筋(しんきん)梗塞(こうそく)や肺(はい)塞栓(そくせん)などと見分けないとならない場合もあります。
(治療)
とにかく救急治療が第一です。原因となる物質を避けて、ショック症状に対処しなければなりません。状況にもよりますが、気道確保、輸液とともに、アドレナリン(ボスミン)を投与します。1度軽快しても、数時間後に悪化する場合もありますので、最低でも24時間の厳重な観察が必要となります。
(予防、その他)
アナフィラキシーを起こしたことのある人は、自己注射用のアドレナリン製剤を携帯する事が急場をしのぐ方法となります。いずれにしろ、本疾患が疑われた場合はすぐに救急病院へ搬送する事が大切であると、知っておくことが重要です。
カルテ44 <内科、救急診療科> 尿路結石
2012/4/20
○概 説○
腎臓で作られた尿が排出される尿管→膀胱(ぼうこう)→尿道までの経路を尿路といい、その経路上に石が生じると尿路結石となります。臨床的に問題になることが多いのが、腎臓の出口から膀胱までの間の尿管と呼ばれる部分に石が詰まった状態で、その状態を尿管結石と呼びます。比較的頻度の高い病気の中で、胆石や痛風とともに痛みの強い代表的病気の1つです。腎臓の出口付近の腎盂(じんう)と呼ばれる部分で生じた石が、尿管の狭い部分に詰まり、尿の流れが止まった時に激しい痛みの発作が起きます。石ができる原因は、ほとんどの場合はっきりせず、時にカルシウムの代謝をコントロールするホルモン機能の障害が認められます。
○症 状○
突然襲ってくる背中や腰や下腹部の激痛発作が典型的です。あまりに痛くて、どこが痛いのかさえ分からないこともあるくらいです。また、石が尿管の狭いところを通過してしまうと、嘘のように痛みが消失してしまうことも本症の特徴です。一般的に尿管には狭い個所が2か所あります。運が悪いと1つの石で2度痛むことになります。また、尿が濁ったり、血尿になることもあります。
○診 断○
症状と血尿の存在でほぼ診断がつきます。超音波で石を確認できる時もあります。<
○治 療○
痛みを抑え、水分を補給して石の自然排出を待つことが原則です。しかし、長時間にわたり石が詰まって腎臓の腫れる水腎症(すいじんしょう)の状態が続くと腎臓の機能が障害されますので、すみやかな対処が必要です。身体の表面から特殊な装置を用いて衝撃波を当て、石を細かく粉砕する治療が開発されており、今では一般化されています。それでもだめな時は、内視鏡や手術により石を取り出すことが必要になる場合もあります。
○その他○
本疾患は、比較的頻度が高いのですが、原因がわかっていないので、特別な予防対策はありません。偏った食事をせず、十分な水分を日頃から摂取し、適切に運動を継続することが大切です。
カルテ41<救急救命科、内科>熱中症
2011/7/22
(概説)
人間の身体は、いろいろな環境に適応できるように自動調整する機能を持っています。その一つに体温管理があります。外気温にかかわらず、体温を36度から37度程度に維持しようとする仕組みが備わっています。こういった機能を総称して「ホメオスターシス(恒常性)」と呼びます。しかし、異常な高温環境下にさらされることによりこういった体温の恒常性機能に支障が生じることがあり、それを熱中症と呼びます。
(症状)
程度により、様々な症状が見られますが、軽度の場合はこむら返りや、立ちくらみなどが生じ、中等度になると、強い疲労感、めまい、頭痛、吐き気、体温の上昇などが見られるようになり、さらに進むと、意識障害や全身けいれん等の脳神経の症状が出現するような重症となります。
(診断)
症状が起こった状況から専門医が判断します。頭部外傷や脳卒中、心因性のものなどとも鑑別が必要な場合がありますが、主には症状経過から診断がつくことが多いでしょう。
(治療)
軽症の場合は、涼しい場所で、安静にし、ナトリウムの含んだスポーツ飲料等の水分補給で改善します。中等症になると、病院での輸液等が必要になり、重症では、致死率が高くなる重症では、早急な救急救命処置を含んだ対処が必要な場合も多々あります。
(生活、予防上の注意)
高温多湿環境での長時間、強度の運動、作業中に生じることが多いので、まめな休憩と水分補給が大切です。直射日光下だけでなく、夜間でも高温で風通しの悪いようなところでの長時間作業には注意が肝要です。身体が順応していない作業の開始初日などは特に慎重にした方がよいでしょう。睡眠不足や不規則な食事や二日酔いなどは避けるようにしたいものです。予防、対処法ともに「FIRE」と呼ばれる処置を覚えておきましょう。FはFluid(フルイド)の略で水分補給、IはIcing(アイシング)で冷却、RはRest(レスト)で休息、EのEmergency(エマージェンシー) は緊急事態で、救急車を呼びましょうという意味です。
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カルテ33 救命救急・循環器内科 心室細動 |
NKH「健康ライフ講座」№81 2009/01/20 日本機械保線株式会社 社内報 |
最近、公共の場所などで見かけることの多くなった「AED」。
一刻を争う心臓のトラブルに、一般の人でも応急処置ができる装置です。
でも、まずそれがどんなときに必要になるのか、知っておきましょう。
○解 説○
心臓突然死のほとんどがこの心室細動という不正脈が最終的な原因として起こります。心室細動を引き起こす原因で、最も多いのは心筋梗塞です。心筋梗塞は、日本人の死因ワースト3に入るもので、欧米では最大の死因であることから、日本でもこれからの増加が気になる病気です。そのほかに心筋症という病気が原因にもなりますし、胸を強打するという衝撃でも心室細動を起こすことがあり、原因不明のものも少なからずあります。
○症 状○
突然心臓がけいれんを起こし、ポンプとしての機能を失うことになります。脳をはじめとする全身への血流が途絶えますから、意識を失いいわば仮死状態になります。
○診 断○
正確には心電図により判定が必要になりますが、突然の意識消失、呼吸停止、脈拍の触知不可(手首や頸の動脈の脈拍を指で感じることができないこと)などにより判断することになります。
○治 療○
緊急時は、心マッサージ、電気ショックによる蘇生術がなによりも優先されます。その上で、原因となる疾患に対処することが必要です。心筋梗塞なら、動脈カテーテルにより詰まった血管をバルーンという風船のようなものやステントというストローのようなもので広げたり、ときにはバイパス手術をします。不整脈そのものに、薬物治療をしたり、ペースメーカーを使用することもあります。
○AEDなど○
本症は、発作が起こってから電気ショックによる治療を行うまでの時間が、一番の決め手となるために、救急隊や病院搬送が間に合わない場合があります。そのために一般人でも間違いなく使えるような、オートマチック仕掛けの電気ショックの器械が普及し始めました。自動体外式除細動器(英語で略してAED)と呼ばれるもので、駅構内や空港、スポーツ会場などにも設置されるようになりました。この機会に使い方を学んではいかがでしょうか?
カルテ2 内科 ・救急診療部 熱射病 |
NKH「健康ライフ講座」 2001.7 日本機械保線株式会社 社内報 |
暑いい夏を迎えました。こんな厚い時でも皆さんは、炎天下や熱帯夜に働くことがあると思います。そこで気をつけたいのが「日射病」です。
俗に「日射病」と呼ばれるものは、比較的軽度な「熱疲労」と、ときには致命的な「熱射病」「熱けいれん」などに分類されます。
今回は、主に「熱射病」について説明しますので、勉強して予防しましょう。
高温の外気に長時間さらされると、効率的に汗をかいて放熱する機能が追いつかず、体温調節機構が破綻します。その結果、40度を超える体温の上昇となる状態をいいます。非常に致命的な病態といえます。
自覚できる初期症状に頭痛、めまい、倦怠感などがあります。汗の量はむしろ減少し、脈拍は増加します。血圧は低下し、筋肉のけいれんを起こしやすく、意識障害が生じます。体温は急速に40度から41度くらいに上昇します。
状況からほとんどの場合、診断は容易です。
すみやかな診断と治療が生命予後(生きるか死ぬか)を大きく左右します。身体の冷却と輸液による電解質の管理が重要です。水やアルコールで濡らした布で体をくるんだり、扇風機や氷により冷却します。数分ごとに体温を測り、体温が急激に38度以下に降下しないよう注意します。けいれんに対しては、安定剤の注射などを行います。治療が遅れ、長時間、脳障害や腎障害が続くと、永続的な障害が残ることになります。
対策としては、高温多湿のところでの激しい運動を避けることにつきます。そういった状況では帽子や日傘、スポーツドリンクなど継続的摂取等の対策を十分行い、疲労、脱力、びっしょりの汗といった「熱疲労」の段階で十分な休息と塩分、水分摂取を心掛け、急に汗の量が減ったり、体温上昇、意識の低下が見られたら、すぐに病院に連絡を取れるようにすることが大切です。