(概説)<今回は内容の関係上、概説のみとなります>
「血栓症」という言葉は、一つの病名を指すのではなく、身体に生じうる一つの病態を示す言葉です。医学を勉強するときも他の分野と同じく、総論的なことをきちんと理解しておくと、各論の理解がたやすくなります。この機会に「血栓症」の勘所を理解しましょう。
「血栓」とは、その字のごとく「血液が血管の中で固まり、血管を栓のように塞ぐようになる状態」という意味合いです。動脈にも静脈にも生じ、身体のいろいろな場所に発生し得ます。主なものに、脳の動脈に生じる「脳血栓」、心臓に起こると「心筋梗塞や狭心症」、下肢に起こりやすい「深部静脈血栓症」(これは「エコノミー症候群」として有名ですね)、肝臓の重要な血管に起こる「門脈血栓症」など、いろいろな「血栓症」があります。
血液は、血管の中ではサラサラとして固まってはいけないのですが、血管が何らかの理由で破れて、血液が血管外に漏れ出た場合は、なるべく早く凝固し、それ以上の出血を防がないといけません。つまり血液は、この相反する二つの役割を状況に応じて使い分けなければならないのです。その仕組みが、「血液の凝固系」と呼ばれるもので、生命維持システムの基本の一つでもあり、医学生を悩ますような、とても複雑な仕組みを通して我々の身体を守ってくれています。
通常は、血液はそのようにうまく機能してくれていますが、生活習慣病や加齢、長時間の同じ姿勢などの要因で、凝固系のバランスが悪くなると、血管内で血液が固まり小さな血栓が生じ、それが次第に増大する悪循環に陥り、血管の狭窄や閉塞が起こり、その関連の臓器障害が発生します。また小さな血栓が、血管壁から剥がれて、血流に乗って流れ、脳や肺など離れた重要な臓器への血管を詰まらせることがあります。そういった場合を特別に「塞栓」と呼びます。
血栓症の予防には、凝固系のバランスを乱す原因ともなる高血圧、脂質異常症など生活習慣病の改善がまずは肝要です。場合により「血液サラサラの薬」などと呼ばれる一連の抗凝固薬が処方されます。血管が詰まった場合の治療は、その部位により異なってきます。
NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №102
2014/7/28
◯概説◯
突然のけいれんや意識消失で自動車事故を起こし、社会問題として報道されることがあり、「てんかん」という言葉を知っている方も多いと思います。脳に明らかな病変が特定できる「症候性てんかん」と、原因がはっきりしない「突発性てんかん」に大別できます。人口の0.5%から1%くらいの有病率と言われ、比較的頻度が高い病気です。症候性の原因として、頭部外傷、脳腫瘍、脳血管障害、髄膜炎、代謝障害などがあります。突発性は大体20歳前に発症することが多いようです。脳の神経細胞の過剰興奮により症状が出ることは共通した現象です。
◯症状◯
部分発作、全般性発作、それ以外などに大きく分かれ、さらに細かく分類されていますが、けいれんと意識障害が主な症状となります。突然けいれんや意識消失が起こるので、周囲にいる人は驚くことが多く、また、交通事故などにつながることが少なからずあり、病気の認識自体が大切となります。軽い意識障害から完全な意識消失、部分的なけいれんから全身のけいれんまで多彩であり、また症状継続時間も異なります。
◯診断◯
特徴的な臨床経過ですので、経験豊富な専門医はそれだけでおおよその診断がつきます。脳波検査によりほぼ確定しますが、症候性てんかんの原因については、MRIやCT検査などの画像検査が有用です。
◯治療◯
症候性てんかんの場合は、まず原因疾患の治療が基本となります。それとともに各種の抗けいれん薬を使用します。突発性の場合は、薬物が治療の中心となります。いずれの場合も、薬物はかなり有効で、ほとんどの場合、発作は抑制された状態を維持できます。問題は、服薬の中止や減量のめやすをたてることが困難なことです。急に薬をやめると、発作をぶり返すことがよくあります。主治医と相談しながら長期的にゆっくり減量することが望まれます。また、あまり一般的ではありませんが、脳神経外科的治療もあります。
◯生活上の注意◯
発作を抑制することが治療の目的ですが、過労や睡眠不足、アルコール、光刺激などが誘引となることが多いので注意が必要です。基本的には自動車の運転は禁止されています。抗けいれん薬は、催奇形性があるので妊婦の場合は注意が必要です。発作そのものは命に直接関わることがありませんが、併発する事故には注意が必要です。長期間にわたる主治医との共同作業が重要です。
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カルテ37 脳神経外科 くも膜下出血 |
NKH「健康ライフ講座」№86 2010/7/21 日本機械保線株式会社 社内報 |
人一倍健康に留意し、体を鍛えているはずの元プロ野球選手が突然、くも膜下出血で前途を絶たれたニュースはショッキングなものでした。前兆を見逃さず、慎重に対処することが重要となる病気です。
○解 説○
急激な脳血管障害の発作を脳卒中と呼びますが、その1割程度を占めるのがくも膜下出血であり、命を脅かすとても怖い病気の代表といえます。外傷や動静脈奇形というものが原因の場合もありますが、たいていは動静脈の破裂が原因となります。日本では、年間に10万人中10~20人が発症すると推計されています。また、動静脈は人口の2%~3%の人がもっていると推定されていますが、その大きさなどにより破裂の危険性は異なってきます。
○症 状○
突然の激しい頭痛で、たいていの場合は「今まで体験したことのない、金づちで殴られたような頭痛」というように表現されます。まれに軽い頭痛のみで来院されることもあります。重症の場合は、意識障害を伴い、即死ということもあります。
○診 断○
診断は症状から推定されることが多いようですが、確定診断としてX線CT検査が用いられます。軽症の場合は、腰椎穿刺という方法で髄液を採取し血液が混入されているかどうかで診断される場合もあります。くも膜下出血が診断されれば、動脈瘤の場所を調べるために、血管造影を行います。従来からのカテーテル検査に加えて、MRIを使った方法も進歩してきています。
○治 療○
治療が極めて困難な病気ですが、最近の医療技術の進歩により、救命率が上昇してきています。全身管理と再破裂防止の手術の両輪が治療の中心となります。開頭して、動脈瘤の付け根の部分にクリップをかける方法が標準ですが、血管内治療といって、動脈からカテーテルを通じて、動脈瘤の中に詰め物をして再破裂を防ぐ方法も場合により選択されます。
○生活、予防上の注意○
高血圧の管理が基本となりますが、脳ドックなどにより、破裂前の動脈瘤を発見し、予防的治療をすることが可能になってきました。2~3㎜の小さな動脈瘤は破裂の危険性が低いので経過観察となりますが、5㎜を少し超えている程度の場合の判断が難しく、専門医と納得のいくまで相談する必要があります。
カルテ1 神経内科・脳神経外科 偏頭痛 |
NKH「健康ライフ講座」 2001.5 日本機械保線株式会社 社内報 |
頭痛は日常的に感じる症状のなかでも代表的なものです。
原因は千差万別で、くも膜下出血や脳腫瘍、髄膜炎など緊急な治療を要する致命的な病気もあります。でも、たいていは「慢性頭痛」といって、頭の中に器質的変化(形態的な変化があること)を伴わず何らかの原因で頭痛が慢性的に生じるものです。その代表が、偏頭痛と緊張型頭痛です。
春~初夏は、偏頭痛の誘因の1つである日光に当たる機会が増えるので注意しましょう。血管の収縮や拡張により生じますが、その原因は不明です。痛みの程度はかなり強いので適切な治療が快適な生活を蘇らせます。
緊張型頭痛は肩こりを伴ういわゆる疲労型の頭痛で、偏頭痛よりもさらに高輝度にみられます。
発作的で、数時間から2~3日持続し、通常は頭の片側に集中するズキンズキンという拍動性の頭痛です。吐き気や嘔吐、眼がまぶしく感じたりする症状を伴うことが多いようです。
前兆として、眼がチカチカしたり視野が一部欠損したり、麻痺が起こったり、時には意識をなくしたりするような、いわゆる脳神経症状が一過性に生じることもあります。
医師による治療として、旧来から工ルゴタミンという薬が発作の特効築として使われてきました。最近では、日本でも認可されたトリフタン系の薬剤が発作の治療薬としてとても有効で、現在は注射薬ですがまもなく経口の薬としても使えるようになる予定です。また、予防薬としてカルシウム拮抗薬等が効果的ですので、何はともあれ専門医に相談するのがよいでしょう。
偏頭痛発作の誘引として、チョコレートやチーズ、高脂肪食やたまねぎ、オレンジ、赤ワインなどのとり過ぎ、強い光刺激などがありますので、それらに注意する必要があります。発作が起こったときは、暗い静かなところで休むのが症状を和らげるコツです。