NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №117
2018/4/24
(総論、原因)
心臓は、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれています。全身から心臓に戻ってくる血液は、右心房、右心室を経て、肺に送られ、酸素を取り入れ左心房、左心室を経て、再び全身に送られます。この4つの部屋のうち、右側、特に右心室の機能が低下している状態を右心不全を呼びます。一つの病態を指し、肺疾患や弁疾患などにより、肺高血圧という状態になることが原因であることが多いです。多くは慢性の経過をたどりますが、急性肺塞栓症(エコノミー症候群で有名)などにより急激に右心不全症をきたし、致命的になることもあります。
(症状)
下肢に多く見られる浮腫、腹水貯留による腹部膨満感、全身倦怠感、悪心、息切れなどが慢性的、進行性に見られます。肺塞栓症の場合は、いきなりショック状態となり、意識の低下、呼吸困難など致命的な状況となります。
(診断)
専門家による病状聴取と特徴的な理学的初見(頸動脈の怒張、肝臓の腫大、右室拍動の亢進、下肢の浮腫など)、血液のBNPの上昇などにより、本病態を推定し、その原因探索のための検査が組まれます。
(治療)
安静、酸素吸入、減塩などを行いながら、重症度に応じて、利尿薬、強心剤などの薬物療法を考慮します。重症の場合は、体外循環による補助が必要になることもあります。原因疾患がはっきりしている場合は、心不全に対処しながら、その治療を行います。
(生活上の注意)
原因となる疾患を持病としている場合は、心不全の初期の段階で治療が開始できるように定期的な検査が望まれます。また、エコノミー症候群で有名になった肺塞栓症予防の注意事項は、飛行機搭乗時のみならず、足を動かさない状態が長時間続くときなどには、普段から励行するように心がけましょう。
NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №104
2015/1/5
◯概説/症状◯
現状では正式な医学用語とされていませんが、「急激な温度変化が原因となり、心臓や脳血管に重度な障害を起こすこと」を便宜的に総称しています。医学用語としては、細胞レベルで熱による障害を受けることをヒートショックと呼び、その時に身体を守るヒートショックプロテインと呼ばれるタンパク質が合成されることを指しますが、日本では、通常、前者の意味で使われます。
日本では、入浴に関連した死亡数は年間1万数千人と推計されています。その多くは、冬場に起こります。日本家屋の特徴でしょうが、風呂場の脱衣室などはまだまだ十分な暖房が設備されていません。暖かな居間などから移動して寒い脱衣室で裸になり、寒い風呂場に入り、急に温かな湯船につかることになります。この間は、どんどん血圧が上昇します。ところが身体が温まり落ち着いてくると、血圧は下降し始めます。こういった急激な血圧変動に伴う血管の収縮や弛緩が引き金となり、脳血管障害や心筋梗塞を引き起こすことをヒートショックと呼んでいます。
◯診断/治療◯
いずれにしろ発作を起こしてしまうと、意識障害が伴う重症であることが多いので、患者を安静にし、タオルケットなどで保温をし、いち早く救急車を呼ぶことです。心筋梗塞の場合は激しい胸痛、脳血管障害では麻痺や意識障害が主な症状となります。
◯予防/対策◯
上記のように、発症してしまうと危険な状況に陥ることが多いので、何よりも予防対策が大切です。冬場に温度差がでやすい脱衣室やトイレなどを穏やかに暖める暖房の用意をしましょう。風呂場は脱衣の前に、温かいシャワーなどを出しっ放しにして暖めておいたり、湯船のふたを早めに開けておくなどして風呂場全体を暖めておきます。お湯はぬるめにして、ゆっくりと出入りするように心掛け、飲酒後や過剰な長湯を避けることです。半身浴などもよいでしょう。また入浴前後の水分補給も有用でしょう。深夜の寒い時の入浴よりも、夕食前の早めの入浴もお勧めです。老年者がいる家庭では、風呂場から家族人へ連絡する「緊急ボタン」もできれば設置したいものです。
NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №101
2014/4/28
◯概説◯
心臓から体中に血液を運ぶ最初の太い血管を大動脈と呼んでいます。大動脈を含めて動脈の壁は内膜、中膜、外膜の3層構造でできており、弾力を保ちながらも強度も高く保たれています。動脈硬化や高血圧などの影響や、遺伝的に中膜が弱い場合に内膜に裂け目が生じて、中膜内に血液が入り込むことがあり、この状態を動脈解離と呼びます。主に大動脈に起こることが多く、それが大動脈解離です。本来の血液が流れる腔(真腔)以外に
内膜と中膜の間に血管腔ができることになり、そちらを偽腔と呼びます。放置しておくとその偽腔が広がり、各臓器への血流に障害が起きたり、動脈瘤になったりし、破裂の可能性が高まる危険な状況に陥ります。
◯症状◯
突然の激しい胸痛や背中の痛みが最も多い症状です。場所により腹痛となる場合もあります。時には意識を失ったりする反面、まれに痛みが少ない場合もあります。破裂などを起こすとショック状態となります。急性の心筋梗塞と似た症状と言えます。
◯診断◯
心筋梗塞や肺梗塞との鑑別診断が重要になります。心電図などだけで診断がつかない場合は、CTやMRIなどにより偽腔を確認することが確定診断となります。治療法の選択上、どの場所まで偽腔が広がっているかの確認が重要となります。
◯治療◯
非常に致死率の高い病気で、初期の診断と対処が運命を分けます。偽腔の場所が限定されている場合は内科的に血圧を低めに管理し、偽腔内が血栓で固まる時期を待ちますが、緊急手術が必要となることも少なくありません。極めて専門性の高い手術となりますので、対応できる病院を選ぶことも大切です。偽腔の場所や広がりで手術方法が異なりますが、基本的には人工血管に置き換える手術となります。
◯生活上の注意◯
自然に、または手術により偽腔が閉じれば死に至る危険性は低くなりますが、偽腔が存在している場合は厳重な血圧管理が必須です。
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カルテ33 救命救急・循環器内科 心室細動 |
NKH「健康ライフ講座」№81 2009/01/20 日本機械保線株式会社 社内報 |
最近、公共の場所などで見かけることの多くなった「AED」。
一刻を争う心臓のトラブルに、一般の人でも応急処置ができる装置です。
でも、まずそれがどんなときに必要になるのか、知っておきましょう。
○解 説○
心臓突然死のほとんどがこの心室細動という不正脈が最終的な原因として起こります。心室細動を引き起こす原因で、最も多いのは心筋梗塞です。心筋梗塞は、日本人の死因ワースト3に入るもので、欧米では最大の死因であることから、日本でもこれからの増加が気になる病気です。そのほかに心筋症という病気が原因にもなりますし、胸を強打するという衝撃でも心室細動を起こすことがあり、原因不明のものも少なからずあります。
○症 状○
突然心臓がけいれんを起こし、ポンプとしての機能を失うことになります。脳をはじめとする全身への血流が途絶えますから、意識を失いいわば仮死状態になります。
○診 断○
正確には心電図により判定が必要になりますが、突然の意識消失、呼吸停止、脈拍の触知不可(手首や頸の動脈の脈拍を指で感じることができないこと)などにより判断することになります。
○治 療○
緊急時は、心マッサージ、電気ショックによる蘇生術がなによりも優先されます。その上で、原因となる疾患に対処することが必要です。心筋梗塞なら、動脈カテーテルにより詰まった血管をバルーンという風船のようなものやステントというストローのようなもので広げたり、ときにはバイパス手術をします。不整脈そのものに、薬物治療をしたり、ペースメーカーを使用することもあります。
○AEDなど○
本症は、発作が起こってから電気ショックによる治療を行うまでの時間が、一番の決め手となるために、救急隊や病院搬送が間に合わない場合があります。そのために一般人でも間違いなく使えるような、オートマチック仕掛けの電気ショックの器械が普及し始めました。自動体外式除細動器(英語で略してAED)と呼ばれるもので、駅構内や空港、スポーツ会場などにも設置されるようになりました。この機会に使い方を学んではいかがでしょうか?
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カルテ26 内科、循環器科 高血圧 |
NKH「健康ライフ講座」№74 2007/5/15 日本機械保線株式会社 社内報 |
血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈の壁を圧迫する力のことで、心臓の収縮時にその圧力が最も高くなった時を収縮期血圧(最高血圧、上の血圧などとも呼ばれます)、拡 張時に圧力が最も低くなった時が拡張期血圧(最低血圧、下の血圧)といいます。一般にカルテなどには、2つをまとめて「130/80」のように記載されるととが多いようです。この2つの血圧がある程度以上高い状態(高血圧)が長年続くと、動脈の壁が厚くなったり硬くなったりする動脈硬化と呼ばれる状態になりやすいということが分かっています。高血圧は、生活習慣病の代表格でもあります。
特有の症状がないことが特徴といえます。たまに頭痛や肩こりなどを訴える方もいます。時間をかけて動脈血管を傷害することが一番の問題であり、心筋梗塞や脳卒中の原因となります。「静かなる殺し屋」と呼ばれる所以です。
判定基準は、時代や国によって変化します。現在のところ、日本高血圧学会の2004年度に定めたガイドラインでは、最高血圧が140、最低血圧は90がボーダーラインとなっています。血圧は常時変動し、就寝中の午前3時ごろ最低となり、起床後しばらくして最高になるというのが一般的ですが、この日内変動にも個人差があります。診察時は正常だが、職場などで高くなるような「仮面高血圧」や逆に診察時に緊張して高くなる「白衣高血圧」などもあり、診断にはある程度の期間を観察する必要があります。
肥満があれば減量や減塩、適度な運動などの生活習慣の改善がます基本となりますが、中等度以上の高血圧が認められる場合は薬物治療が中心となります。現在は長期服用を視野に入れ、糖尿病や高脂血症を合併している患者にも使いやすい降圧剤が開発されています。また、1日1、2回の服用で済むことも多く、生活への負担も少ないので、きちんと医師に管理してもらうことをお勧めします。
メタボリツクシンドロームが注目されていますが、高血圧もその仲間と考えています。糖尿病や高脂血症、肥満、高尿酸血症などとセットにして治療を考えていくことが大切です。