「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉が、昔のテレビの歌謡番組で司会者の決まり文句となっていました。「スマホネック」という言葉を聞き、「病気は世につれ世は病気につれ」と思わず口ずさんでしまいました。病気も世情を反映するものですね。
(概説)
「スマホネック」は、現状では医学的病名ではなくて、一般用語として使われているようです。言葉から推察される通り、「スマホ画面を見ながら操作する姿勢を連続して長時間続けることにより、首周りの筋肉が硬くなり、慢性の肩こりや頭痛、めまいなどの症状が出現する状態」と定義して良いでしょう。
(原因)
その姿勢を続けることにより、「ストレートネック」と呼ばれる状態を自ら人為的に作ってしまうことが原因と考えられています。人間の脊椎は、頭の方から7個の頚椎(けいつい)、12個の胸椎(きょうつい)、5個の腰椎(ようつい)と仙骨(せんこつ)から成り立っています。頚椎は前方に凸、胸椎は後方に凸、腰椎は前方に凸の状態に湾曲(わんきょく)することにより、体全体の重さをバランスよく分散して受け止めています。
スマホを見る姿勢は前かがみで頭を前下方に向けた状態で、この姿勢が常態化すると頚椎の本来の前湾(前方向への湾曲)が消失し、まっすぐ伸びてきます。それが「ストレートネック」です。その結果、近辺を通る血管や神経を圧迫し、様々な不快症状を引き起こすことになります。なお、「ストレートネック」は従来の医学でも知られている病態です。
(対策)
スマホを長時間使い続ける、いわゆる「スマホ依存」の状態を避けるよう生活習慣を改めることに尽きます。スマホ依存は、スマホネックだけでなく、薬物やアルコール、ギャンブル依存症に近い精神障害を引き起こす可能性もあるということをしっかり認識したいところです。スマホは使いようによってはとても便利な道具ですが、諸刃の剣となりえます。
NKH「健康ライフ講座」日本機械保線株式会社社内報 №105
2015/4/27
「坐骨神経痛」は病名というよりも、いろいろな原因による症候名として使われています。本来は「なになにという病気が原因の坐骨神経痛」というふうに使用されるべきなのですが、原因が特定されない坐骨神経痛症状が出現することが多く、慣習として病名のように使われます。「神経痛」という言葉自体が症候名であり、痛みの起こる神経の部位により、「三叉神経痛」「肋間神経痛」などというふうに使用されます。
「坐骨神経痛」の原因としては、席椎間板ヘルニアや変形性脊椎症や外傷など脊椎の多彩な病気があります。まれに癌の骨転移などが原因のこともあります。原因が特定されるもの以外は「特発性」と呼ばれます。
〇症状〇
主に、椅子に座った時に座面と接するお尻の部位に痛みが発生することが多く、その痛みは太もも背部まで放散することもあります。またその部位をおさえると痛みがまします。ひどくなると歩行にも影響を及ぼします。立っているだけでも痛かったり、長時間座ることも辛くなります。
〇診断〇
特徴的な症状と、専門医の診察による圧痛の確認などで診断がつきますが、その原因の特定には、MRIなどによる脊椎の検査が必要となります。
〇治療〇
原因となる疾患が特定できれば、その治療が根本的であるのですが、痛みに対する対症療法も重要となります。最近では、単なる消炎鎮痛剤以外にも抗鬱剤や神経障害性疼痛専用の薬剤が使われるようになり、効果が確認されています。また、症状が強く持続する場合は、ペインクリニックや麻酔科、整形外科などで、対症療法の一環として、神経ブロックなども行われます。
〇生活上の注意〇
運動不足や肥満やストレスが、原因となったり、症状を悪化させる要因となることもありますので、医師と相談して生活習慣の改善にも努めましょう。
カルテ40<整形外科>テニス肘(使い過ぎ症候群)
2011/4/20
○解 説○
上腕骨(いわゆる二の腕の部分にある骨)の肘に近い部分に付着する筋肉(正確には腱と呼ばれる)に慢性のストレスがかかることにより、長期にわたり継続する運動痛を生じる疾患です。テニスを日常的に行う人に多く見られたことから「テニス肘」と呼ばれますが、ゴルフによる肘のストレスから生じる「ゴルフ肘」などもあります。しかし、最近では、テニスもゴルフもしない中高年者に同様の症状を来すことも多く、いわゆる「使いすぎ症候群」とも考えられています。特にコンピュータのマウスや携帯電話の使い過ぎ等が原因になりやすいようです。
○症 状○
テニス肘に代表される、右腕(利き腕)の外側(上腕骨外側上顆と呼びます)に起こることが多く、痛みは肘の外側(親指側)から前腕部にかけての動作時に生じます。ゴルフの場合は、内側(小指側)や左腕の肘に起こることがありますが、テニス肘に比べると頻度は少ないようです。長時間のマウスの使用や不慣れな動作を継続して行うと本症を発症することがあります。
○診 断○
症状経過から診断は推定されることが多いですが、肘の特定部分に圧痛(押して痛むところ)があり、手関節伸展試験などと呼ばれる誘発試験で要請が出れば本症と診断されます。
○治 療○
痛みが出る動作を行わず、腕の徹底的な安静が最も大切な基本となります。初期の痛みが強い時期は、鎮痛消炎剤の服用や湿布を行う場合があります。また、どうしても行わねばならない日常動作をサポートするために、テニス肘専用のバンドをするのも勧められます。症状が激しい場合は、ステロイドの局所注射をする場合もあります。また、回復期には、ストレッチや筋力を増強するためのトレーニングも重要です。
○生活、予防上の注意○
本症が疑われるような痛みが出現した場合は、早めに患部の安静に努め、痛みが持続する場合は整形外科に相談に行きましょう。すっかりよくなるまでには半年から1年程度かかることが多いようです。