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「戦中・戦後子育て日記」を読んで

先日、いとこの一人から本が送られてきた。亡き母のお姉さんの三男にあたる方である。その叔母は昨年95歳の長命で亡くなった。その遺品の中に古びたノートがあり、子育て日記だと分かったらしい。兄妹4人で相談した結果、その日記を本にしようと考え、標題の本が生まれた。象の森書房というところからの自費出版である。その伯母さんには、僕が小さい頃から可愛がってもらい、いとこ達もみんな年上で兄貴分、姉貴分でよく面倒を見てもらったことを記憶している。僕の母は末っ子特有の甘えん坊で、人見知りをよくする息子の僕がいうのもなんだが、「とても気の弱くて優しくて可愛い」人だった。叔母は、学もあり、教師をしていたというだけに、気品と知性があり、「けんぞー、、、、、、したほうがいいわよ」なんて言われると、背筋がびしっとするような威厳があったように記憶している。 その伯母さんの、子育て日記というからには、よほど厳しい指導書みたいなものかなあ、と丁度実家の和歌山に向かう途中の車中で読み始めた。 1日目「たあちゃん(長男のたかしさん)、大きくなってこれを四でちょうだい。そして父ちゃんと母ちゃんがどんなにあなたを愛したか、それを考えてどうか曲がった道に入らないようにしてちょうだい」という言葉を読んで、何故か胸がつかえてしまった。あの利発で冷静な伯母さんの言葉に驚いたのか、早く亡くなった僕の母に思いが重なったのか、自分の子供のことや、妻が息子に対して感じているだろう気持ちとだぶったのか?恐らく、それらが複合体を作ってこころをえぐったに違いない。 そのまま、一気に読み切ってしまった。 ただの日記の文章だけだが、昭和16年から昭和28年までの世相が、すごくリアルに伝わってくる。これは僕の母のお姉さんの特殊な日記ではない。当時の親たちの平均的な状況を表している。子育ては、子供の病気との闘いでもあった。今だったら、抗生物質ですぐに治るのになあ、など仕事柄気になる部分もある。 その伯母さんが長男を生んだ頃、東京にいたことを初めて知ったが、長男のたかしさんが、長患いしたときに、僕の母(まさこ)からの電報が届いた。「マサコイコウカ。ヘンマツ」という単純な一文。その時の母は、まだ十代であったろうから、僕などは影も形もない運命にひらひらしている頃である。 しかし、この電報の一文のリアリティといったらすごい。心配性で優しい母の顔が浮かんだ。勿論、そんな若い頃の母は知らないのだが。 こんな私的な日記であるが、子育て中の皆さんにもチャンスがあれば是非見て欲しいなあと思う。アマゾンで購入できるらしい。 僕の最近のテーマである「命よりこころ」を、ものの見事に再確認させて頂いた本である。

作成:2010/06/17

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