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自分自身の医療判断 2014/8主侍医通信より

今年は、もしかしたらここ数年来の暑さはやってこないのではと7月前半までは根拠の無い期待をしていましたが、やはり猛烈な暑さがやってきそうな気配濃厚な日々となっています。みなさま体調はいかがでしょうか?無理をせず、十分な睡眠とともに、こまめな水分補給と規則正しい食生活が夏バテ予防の基本となります。

この数ヶ月で、私自身と家族の2度にわたり、「医療判断」が必要な事態を体験しました。いつも主侍医倶楽部のみなさまを始め、私が相談助言をする時の心構えは「もし自分自身や家族だったらどう判断するか」ということを念頭においています。それが返って弱気な判断になったり,迷いの原因になったりしてしまうことも少なからずあるのですが。

今回は、私自身の体験をお話します。こちらはあまり命にも関係しない「虫歯」の話になります。「たかが虫歯、されど虫歯」だからこそ「医療判断」の大切さがクローズアップされるような気がします。

私は、親のお陰で歯は丈夫な方で、比較的厳密でない歯磨き習慣にもかかわらず虫歯の体験が少ないのですが、20代のまだ若き脳外科研修医だったころ、虫歯の治療を時間がないという理由で、虫歯の治療を調べもせずに気軽に近くの歯医者さんで行ないました。それがきっかけでその歯は、その後10年以上も何度も痛みを繰り返すことになりました。10年後に山王病院勤務時代の同僚の信頼する歯科医I先生に診て頂き「初期治療が削り過ぎによるもの」でそれが取り替えしのつかない事態になっていることが判明しました。I先生から「応急的に処置しますが、いずれ抜歯になるかもしれませんね」と言われましたが、それから20年、なんとか持ちこたえています。その時のI先生の応急処置には随分時間をかけていただいた記憶があります。きちんとした治療は、応急処置でもレベルが高かったわけです。

それ以来、あまり歯のトラブルはありませんでしたが、今回、妻が定期検診で通う近くの歯科医院になんどかクリーニングのために通っていましたが、ある時、「奥から2番目の歯の横に怪しい部分があります。レントゲンでみても虫歯の可能性が高いです。横からの治療が出来ないので、コの字型に大きく削り金属をかぶせる必要があります。今日と、あと1、2回で済みますよ」と言われて、今にも削られそうになりました。

歯科治療では「なるべく削らない、抜かない」、外科治療では「なるべく切らない」、内科治療では「なるべく薬を使わない」を基本スタンスにして十分検討を加えた上で、やむを得ない場合は最善最小限の侵襲を考える、というのが私の基本ポリシーです。当然、いきなり大きく削られたくはありません。治療する側からみれば大きく削る方が病巣を残さずきちんと治療ができるわけだし、それが歯科での標準治療だということは理解しています。

「まっ、待って下さい!」なんとこの一言が言いにくいことでしょうか?患者の立場で目の前の医師に言いづらい気持ちはよく分かります。だから意を決して言うときは返ってけんか腰になってしまうのかもしれません。

「来週姪の結婚式でハワイに行くものですから、もう少し経過をみさせてください」理由になっていない理由です。「それでは3ヶ月後にまたみましょう」とその場は切り抜けました。

「なるべく削らない」「虫歯も自然治癒する可能性がある」ということを徹底して実践している信頼できる歯科医阿部修先生に診てもらおうと決めました。「虫歯の可能性が怪しい、と言っているが、もしかしたら虫歯病変は存在しない可能性もある。それだったら結果は大違いだ。もし病変が存在し,阿部先生も同じ意見で削る必要があると診断されたら、削ろう」と決めました。阿部先生には、契約者の皆様もなんどかご紹介しましたし、和歌山にいる弟の嫁の総入れ歯になりかけたのを一本も抜かずに助けて頂いたこともあり、破折という抜歯が基本の治療方針という状態になった妻の歯も、(抜歯を予定していると言う妻に、その前に阿部先生の意見を聞いて抜かずに済ませる方法を考えようと助言をして)阿部先生の見立てとアドバイスで抜かずに済ませることが出来た経緯があります。

同僚のよしみで早く予約を取って頂き、吉祥寺のクリニックを訪れることになりました。どんな判断が下るのだろうかと、恐る恐る阿部先生に診て頂きました。1時間にわたる綿密な診察のあと、「確かに虫歯病変はあります。コの字型に削るのが一般的です。しかし、歯の横の部分の表面まで病変が進んでいないので、顕微鏡下で、歯の上から穴を掘るように病変を削り取り、最新の硬い素材で埋めるということも可能です。金属の被せの必要なく、噛み合わせも変わりませんし、横の部分の表面は自分の歯が全部残ります。」

「そっ、それをお願いします!」

翌週のハワイ出発の前日2時間近くかけてその処置を行なって頂きました。理屈が分かるだけに、相当面倒な作業であることは想像がつきます。

「長時間お疲れでしょう。大丈夫ですか?」とはこちらからではなく阿部先生からのお言葉。「先生こそ根気のいる治療をありがとうございました」

翌日からのハワイ旅行の間もその後も歯は何の問題もありません。

このような丁寧な作業を中心にした治療を実践するために、阿部先生も保険診療は一切行なっていません。当然だと思います。患者にとっては十二分な対費用価値があると思います。

「たかが虫歯、されど虫歯」大きく削って金属をかぶせるか、今回の治療のようにほとんど噛み合わせや見た目も分からない治療で済むかは雲泥の差です。

手前味噌にもなりますが、事前の医療判断において十分に時間と労力をかけて、それで決まったらお任せするという手順は得心のいく治療となることを体験しました。

今回は、治療法が違いましたので、どちらがよかったか明白なのですが、いくら医療判断に手間ひまをかけても、場合により同じ治療法になるかもしれません。それでも、なるべく削らないポリシーの阿部先生が言うのだからと結果は同じでも得心の具合が違ってきます。

 

「たかが虫歯の治療」の話で、長くなりましたが、医療判断のための作業で随分運命や納得度合いが違うということと、虫歯の治療という些細なことのように見えることでも日常生活においてそのクオリティーは随分と違ってきます。日常的な病気に丁寧に対応することの重要さを再確認しました。

 

皆様も、歯の治療の判断でお困りなことがあればご相談ください。 

 

作成:2014/08/04

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