寺下謙三の病気解説

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心因性発熱

2024/05/23

(概説)

発熱は最も多くみられる症状の一つです。発熱で来院される患者さんのほとんどは、何らかの感染症が多くを占め、次に膠原病を代表とする非感染性炎症疾患、内分泌疾患などが続きます。それらの診断がつかない場合に、いわゆる除外診断として本症を疑い、ストレス状況などの問診を深めることになります。一線の診療現場では、感染症や膠原病などの症状や検査結果の異常もなく、また、解熱剤の効果もない発熱が続く患者さんを診ることは少なくありません。その発熱のメカニズムは特定できませんが、体温中枢のセットポイントが一時的にずれたり、自律神経の失調によるものなどが推定されています。昔から「知恵熱」と言われているのも本症の一つでしょうが、それこそ先人の知恵でしょうか?

(症状)

多くは37℃台程度の微熱のみがみられることが多いですが、時には38℃を超える高熱が出ることもあります。熱以外の症状は乏しいことがむしろ特徴で、全身状態も良好なことが多いです。詳しい問診をすると、環境の変化や、生活上のストレス要因が疑われることが本症のポイントとなります。

(診断)

概説で述べたように、感染症やそのほかの炎症性疾患や甲状腺機能亢進症などを除外することにより、本症を疑います。血液検査でも炎症反応がなく、解熱剤が効かないことも診断の目安になります。生活上のストレス要因などの詳細を聴取することも大切です。時に薬剤性の発熱もありうるので、服薬内容のチェックも重要です。

(治療、対策)

発熱以外の症状がなく、上記の除外診断がなされたら、過度の心配をせず、1、2ヶ月やそれ以上の長期的観察をしましょう。その間に、ほかの症状が出現し、診断がつく場合もありますので、内科などで経過観察の診療を受けましょう。半年、1年後に気がついたら平熱に戻っていたということもよくあります。体温は個人差もあり、1日に1℃くらいの変動はありますので、日頃から自分の体温状況も把握しておくことが基本的な心がけと言えましょう。

低血糖症

2024/01/04
(概説)
文字通り、血液の中の糖分量(血糖値)が少なくなり、そのための症状が出現する場合の症候群のことを指します。一般的には、血糖が高くなる糖尿病の治療中の患者さんが、飲み薬やインスリン注射などによる血糖のコントロールが不安定で、一時的に血糖が下がりすぎたために起こる症状です。しかし、高齢者、膵臓の腫瘍、特殊な体質などや、何らかの事情で食事などの摂取が極度に制限された場合にも起こり得ます。糖尿病の治療では、原則的には高血糖を抑える治療をしますが、コントロールが不良の場合は、高血糖よりも低血糖の方が致命的になることが多く、医療側も神経質に対応することになります。
 
(症状)
70mg/dl程度の低血糖になると交感神経症状として、動悸、発汗、不安、頻脈、手指振戦(ふるえ)など、更に50mg/dl程度になると頭痛、脱力、目のかすみ、眠気など中枢神経障害の症状が出てきます。更に低血糖が進むと、異常行動や意識障害や痙攣などが起こり、命も危険にさらされます。高齢者や、頻繁に低血糖を起こす方は、自覚症状が少ないまま低血糖が進む場合があり周囲の方は注意が肝要です。
 
(診断)
医療機関では、血糖値の測定により診断がつきやすいのですが、急に血糖値が下がった場合は、70mg/dl以上の血糖値でも症状が出ることがあり、経過観察が必要です。
参考までですが、血糖値は、食事などで常に変動していますが、正常ではおよそ80〜140mg/dl程度に収まるといった数値です。
 
(治療)
まずは経口的に、ブドウ糖を摂取します。意識がないなど経口摂取が無理な場合は、点滴にてブドウ糖を投与します。素早く適切な処置が行われた場合は、比較的速やかに症状は回復しますが、低血糖に至った原因を徹底的に検索し、再発防止に努めることが大切です。
 
(生活上の注意)
糖尿病の治療をされている方は、自宅でも血糖を測れる機器を備えておくことがよいでしょう。また、最近の夏場は熱中症になることが多く、そのために水分や糖分の摂取が足りなくなり低血糖も併発することがあります。
 
(余談ですが)
筆者の経験では、飛行機の中で意識が混濁した患者さんのことで医師が呼び出され、ご家族から、「持病に高血圧があるが、本日は孫との旅行が嬉しくて、朝から半日以上何も食べず飛行場に乗った」というお話をお聞きしました。もしやと思い、飛行機の備品の点滴チューブを使って糖分を補給したら元気になり、脳梗塞や脳出血でなくてよかったという印象的でヒヤリな思い出があります。

自律神経失調症

2023/10/25
(概説)
「自律神経失調症」という言葉は、耳にすることが多いのではないでしょうか?しかし「自律神経」とはなんですか?と聞かれるとはっきりとは説明つきにくいかもしれません。我々の身体の神経は全て脳から始まり、身体中に張り巡らされていて、筋肉を動かす命令を脳から端々まで運び、五感と呼ばれる感覚の信号を脳まで伝える役割があります。もう一つ重要な役割は、様々な臓器の働きの調整を行なうことで、こちらは自分の意思と関係なく自動的に働いているため「自律神経」と呼ばれます。活動を促進する「交感神経」系と抑制する「副交感神経」系が絶妙なコンビを組んで生命活動のバランスをとっています。これらの働きが、なんらかの原因でバランスが悪くなった状態を「自律神経失調症」と呼びます。本来は、病名というより「症候群」という位置づけにある言葉ですが、原因疾患が不明不詳である場合などに病名として使われることがあるようです。また、小児では、不登校の原因の一つともなる「起立性調節障害」と呼ばれる病態もありますが、詳細は他書に譲りたいと思います。
 
(原因と症状)
ストレスや過労、不眠などが原因となったり、女性の更年期障害などホルモンが関与するもの、またうつ病や神経症など他の精神疾患が原因となる場合があります。自律神経は様々な臓器と関与するので、症状も、めまい、動悸、ふらつき、のぼせ、頭痛、頭重感、肩こり、食欲不振、吐き気など多彩で、総称して不定愁訴と呼ばれます。
 
(診断)
原因となる疾患を検索することが重要です。専門医による面談の上、検査計画を立てることが大切です。
 
(治療)
原因疾患が判明した場合は、その治療を優先します。不安が強い場合や不眠などがある場合は薬物療法も勧められます。自律訓練法と呼ばれる、リラックスや自律神経を鍛えるという手法は治療や予防的にも全ての方にお勧めしたいです。
 
(生活上の注意)
普段からストレスを溜めない工夫を生活に取り入れ、規則正しい生活を心がけることが何よりです。前述の自律訓練法も日頃から実行することもお勧めです。不定愁訴が長く続くときはためらわず専門医を受診することも肝要です。v

適応障害

2023/07/25
(概説)
就職や結婚や進学などの社会環境上のストレス要因が生じると、誰しもなんらかの心理的(ストレス)反応が出現します。これは、外界からのストレスに対して適応するための必要な反応です。しかし、ストレス要因が過剰であったり、個人のストレス対応力が低かった場合に、通常予想される以上の心理的反応のために、それぞれの社会環境に応じた行動の障害が生じます。このような状態を適応障害と呼びます。
 
(症状)
不安、抑うつ、焦燥、イライラなどの精神症状、不眠、食欲不振、頭痛、腹痛、便通異常などの身体症状、朝起きられない、遅刻、欠勤や不登校、過剰飲酒や喫煙などの行動異常が生じます。その結果、引きこもりやうつ状態にまで進展することがあります。
 
(診断)
上記症状が、明らかなストレス要因が発生してから、3ヶ月以内に出現し、予測以上のストレス反応が見られ、欠勤や不登校などの社会的行動障害が見られることが特徴です。原因となるストレス要因が解消されれば6ヶ月以内に改善されることが多く、他の精神疾患が存在しないことも診断のポイントとなります。
 
(治療)
まずは、原因となっているストレス要因を軽減することが重要です。患者さんが適応しやすいように環境調整することが望ましく、場合により休職や休学も検討します。また、できれば、そのためのカウンセリングも行います。精神症状や身体症状に対して、必要に応じて精神安定剤や抗うつ剤などの薬物を使用する場合もあります。
 
(家族や同僚などへのアドバイス)
普段から、ストレスを溜めないような環境作りを心がけ、いつもと違うと感じた時は、気軽な相談相手となってあげることが予防的に肝要です。日頃から良好な人間関係を幅広く有しておくことが専門医以上に価値あり、と言っても過言ではないと思います。とは言っても、異常を感じた時は早めの専門医受診が、こじらさないためにも重要です。

複雑性PTSD

2023/04/25
(概説)
災害や身体的、性的暴力、虐待を含む犯罪被害、深刻な事故などにより引き起こされた心身の様々な症状をPTSDと呼びます。原因事件の直後より生じる場合もあれば、一定の期間が経ってから出現することもあり、生活活動の大きな障害になることがしばしばです。特徴的な症状としては、フラッシュバックや、原因事件を想起させるような場所や状況を過度に避ける回避症状、原因事件体験の記憶を消してしまおうとしたり、過度な警戒心やびくつきなどの過覚醒症状などがあります。
2018年公表された新しい診断基準には、本稿である複雑性PTSDの項目が追加されました。それによると、長期的かつ反復性の心的外傷により、より強い根源的な症状が出現するとい言う意味で、特別に分類されたPTSDと言えます。継続的なトラウマが注目されてきた世相に応じた新しい分類と言えるでしょう。
(症状)
自己組織化の障害(DSO)が発生するとされています。難しい概念ですが、自己のアイデンティティーがうまく形成されないということになります。具体的には、感情のコントロールがうまくいかず、他者への暴力行為や自傷やアルコール依存などの自己破壊行動、自責自己否定感情、対人関係困難などがあり、長期にわたり生活障害が続きます。
(治療)
PTSDに対する様々な心理療法を強力かつ持続的に行う必要があります。複雑性PTSDの障害特徴である、感情制御や対人関係の調整を優先することが有効だと言われています。専門性がとても高い領域ですので、治療経験の豊富な専門医を探すことが肝要です。
(家族などへのアドバイス)
本人にとって「確実に安全で自分の味方である」という人がいることが、専門家の治療に負けないくらいの症状改善効果があることを報告している研究者もいます。予防的効果もあると言えます。

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