メディスコープ

「胸が痛い!!」

 

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「胸が痛い!!」

はいたっく

1998.2

日立製作所 発行


  1. 狭心症、心筋梗塞
  2. 帯状疱診(ヘルペス)
  3. 肋骨骨折
  4. 自然気胸

1.狭心症、心筋梗塞

◆症例

営業マンのMさん(50)は、最近、階段の昇降時やジョギング中に胸部を締め付けられるような圧迫感を認めている。いずれも二、三分間でケロッと治ってしまうが心配で診断を受けた。体格は1m70cm、80kgで1日40本のヘビースモーカーだ。

◆病気の説明

不典型的な狭心症の発作である。狭心症とは、心臓自身に栄養を与えている冠動脈という血管の内腔ないくう)が狭窄(きょうさく)するために起こる。主として、動いた後などに生じる労作狭心症と夜間や早朝に生じることの多い安静狭心症がある。 Mさんの様な労作狭心症は、もともと動脈硬化により冠動脈の内腔が70%以上もつまってしまっていることが原因している。運動により心拍数が増え、血圧が上昇して、心臓により多くの血液を送らなければいけないのに、血管がつまっているため心臓が虚血(きょけつ-血液が足らない)状態になり発作を生じる。安静狭心症は寝ている時などに、冠動脈が痙攣(攣縮)状態となるために、やはり血管が狭窄して発作を生じる。
 この冠動脈が完全に閉塞(へいそく)してしまうと「心筋梗塞(こうそく)」といって、心臓の筋肉 が壊死(えし)という状態になり命が危険にさらされる。

◆原因

肥満、ストレス、喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などがあり、日本人の間でも増加の一途である。日頃の日常生活の改善によりかなりの予防が期待できる。

◆治療法

軽度な場合は薬物療法でよいが、高度になるとバイパス治療といって手術により人工的な冠動脈を作成する方法がとられる。
 また、最近では、足の動脈よりチューブを入れて狭くなった血管を風船のようなもので広げる方法が盛んに行われ、成功している。


2.帯状疱疹(ヘルペス)

◆症例

インストラクタ-のOさん(40)は数日前より右側胸部の付近にピリピリする痛みが出現。その間を振り返っても思い当たる外傷などはない。今朝より痛みのあるところの皮膚にポツポツとした水疱(すいほう)が数個出てきた。

◆病気の説明

帯状疱疹(たいじょうほうしん)による肋間(ろっかん)神経痛である。帯状ヘルペスともいい、いわゆる“水ぼうそう”の原因となるウイルスによって発症。子供の頃“水ぼうそう”をした場合、そのウイルスが神経の一部に潜伏感染する。そうした状態の人が、体調を崩して免疫能力が弱くなった時に、このヘルペスウイルスは再活性化されて神経に沿って病変を及ぼしていく。Oさんの場合も、生活が不規則で疲労がかなりたまっていたようである。その他、カゼや悪性腫瘍、結核など全身の体力が弱っている桙ノ発病しやすいといわれている。診断には、専門医の視診、問診及び血液の抗体価などが有用である。まれに重症例では、脳炎や脊髄炎を発症することもあり、またかなり強い神経痛の後遺症を残す可能性もあるため、なにより、早期の治療が重要である。湿疹が広汎だったり、他の全身症状を合併している場合、日常生活が困難なほどの神経痛を伴う場合、あるいは高齢者では、入院の可能性もあるので、できれば内科の受診が望ましい。

◆他への感染

まれに水ぼうそうにかかった事のない人に水ぼうそうが発症することがあるが、ヘルペスになることはほとんどない。

◆治療

抗ヘルペスウイルス剤の局所塗布と内服または静脈内投与が有効である。また、ビタミン製剤が神経障害に有効とされ、その内服が広く用いられている。原因のウイルスに対してかなり有効なウイルス薬が開発されているが、おそくとも発病5日目ころまでの治療開始が後遺症予防のためにも望ましい。

◆日常生活の注意

可能な限りの安静、十分な睡眠、栄養補給を基本とする。入浴、石鹸の使用は、皮膚症状が強い場合は注意が必要であるが、かさぶたになってしまえば特に制限はない。


3.肋骨骨折

◆症例

会社員のMさん(35)は、職場内の野球大会に備えて素振り練習をしていたところ、およそ三日後から右側胸部に痛みが出現。深呼吸をしたり、寝返りをうつのも痛くて困難。痛みを自覚する前に、特に重い物を持ったり、体をぶつけたりなどはしていない。

◆病気の説明

野球の素振りが原因と思われる肋骨(ろっこつ)の疲労骨折である。骨折なのになぜ時間がたってから痛くなるのかと不思議がられることが多い。肋骨は側胸部から前胸部にかけては肋軟骨といって、軟らかい骨となっている。この軟骨の部位や硬い骨との境界部位の骨折の場合は、ポッキリと折れた感じにはならず、ちょうど若木が折れたような感じになる。各肋骨の下のふちを神経や血管が走っているので、骨折部位の炎症が拡がってくると痛みが増長してくるのである。診断にはレントゲンが役立たない場合もあるが、経験を積んだ医師の診察で比較的容易に判断ができる。

◆治療法

局所の湿布とバストバンドというガードルのようなもので固定をすることである。他の部位の骨折のように、完全には固定できないので安静が大切。一か月程度で痛みは完全になくなり、軽度な運動も可能となってくる。ゴルフ、テニスやスキー、長期の激しい咳も原因となることが多い。


4.自然気胸

◆症例

20歳の男性Yさんがある朝大学に行く支度をしていたところ、突然右側胸部に刺すような強い痛みを認めた。呼吸困難も伴ったためベッドに横になってみたが一向に改善せず来院した。 1m80cm、62kgのやせ型。胸のレントゲン撮影の後、すぐに入院となった。

◆病気の説明

「突発性自然気胸(ききょう)」という肺がいわばパンクしてしぼんでしまう病気である。難しい話になるが、肺が収まっている器である胸腔(きょうくう)は陰圧といって大気圧より低い状態になっているために、肺はふくらんだ状態を保っている。ところが肺の一部が破れることにより、この陰圧が保てなくなり肺がしぼんでしまうのである。

◆原因

ほとんどが誘因のはっきりしない特発性自然気胸で、Yさんのようなやせ型の若い男性に特に多くみられる。体格や年齢的に当てはまらない場合、まれに、タバコの吸いすぎでなりやすい肺気腫や、肺癌、肺結核などに続発していることもある(続発性自然気胸)。

◆症状

突然の胸痛、痰のからまない咳。しぼみ方の程度が強いと肺の機能が失われるので、呼吸困難を起こすが、軽い息切れのみのこともある。診断は、胸のレントゲンと聴診などにより比較的簡単である。

◆治療

軽症の場合は、安静だけで数週間の内に治癒するが、中等度以上では、胸腔内にチューブを入れて人工的に陰圧をかけたり、肺そのものの手術を行うこともある。いずれにしろ、専門家の一刻も早い判断が必要である。

◆予後

再発しやすいこともこの病気の特徴であり、約30%に再発が認められるが、通常は1~数日で再膨張する。両側に発症したものや、元々の肺機能が悪かった症例は予後不良である。

肥満に関するコメント

 

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肥満に関するコメント

はいたっく

1998.2

日立製作所 発行


◆標準体重の求め方(BMI法)

標準体重はBMI法を用いたらどうでしょうか?
身長(m)の自乗 × 22のことです。

例えば身長168cmのひとは…1.68×1.68×22 = 62.1(kg) となります。

この標準体重に対する体重の比率(%)で、下表のようになります。

やせ

~89

適正体重

90~109

過体重(太り気味)

110~119

肥満

120~129

危険肥満

130~

◆過体重(太り気味)

過体重は肥満への警告ゾーンとして考えて良いでしょうが、10~20才代の健康なときの体重の5%増以内なら健康ゾーンと考えてもいいと思います。逆に、ここ数年のうちに適正ゾーンから過体重のゾーンに入ってきたかたは、今のうちに適正ゾーンに戻るように努力しましょう。

◆肥満

肥満は医学的に見て減量が必要とされます。肥満はいろいろな病気の引き金になります。高血圧、糖尿病、痛風、動脈硬化など放置しておくと命取りにつながる「生活習慣病」との因果関係が濃厚です。食事と運動のバランスをみつめ治す必要があります。無理をせずゆっくりと減量しましょう。

◆危険肥満

危険肥満は、上記の病気の危険性が倍加する状態です。減量に際しては医師の指導の元に安全に留意して行うべきです。日頃の食生活、運動習慣も見直しましょう。内科のドクターに相談に行きましょう。

「やせてきた」という症状を主訴とする病気あれこれ

 

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「やせてきた」という症状を主訴とする病気あれこれ

はいたっく

1998.2

日立製作所 発行


  1. 拒食症
  2. バセドー病
  3. 結核
  4. 糖尿病

1.拒食症

◆症例

OLのEさん(22)は入社して2年になるが、入社時は身長155cmで体重55kgと、ややふっくらしたかわいい容貌であった。半年前頃より急にやせ始め、最近では30kg台という。生理もとまり、見るからに異常な印象である。ダイエットをしているのかと思えば、急にたくさん食べたりもする。たまりかねたおかあさんが病院の心療内科へつれていき「神経性食思不振症」の診断が下された。

◆病気の説明

やせ願望による節食に端を発する摂食障害である。若い女性に多く、周囲からの「でぶ」などというささいなことばを気にすることから始まり食べることへの恐怖感が進行していくことにより食事を拒否することになる。E子さんの場合も同僚の男子社員から「ふっくらさん」とからかわれたことが最初のきっかけらしい。

◆症状

拒食、体重減少を主体としてその結果、無月経となる。
また、拒食の反動として時に大食いやかくれ食いをしたあと意識的に嘔吐をするようなことがある。本人の自覚がなかったり、少ないのが特徴である。

◆治療

時には致命的な栄養障害を起こすこともあり、慎重かつ根気良い治療が必要である。極度の栄養障害に対しては点滴などで栄養補給をする必要もある。精神的背景まで十分に考慮し、綿密なカウンセリングなど心理療法が必要である。時には精神安定剤や抗うつ剤などの薬物も併用する。本人に自覚が少ないために家族ぐるみの治療が望まれる。

◆予防

普段から物事をまじめに考えすぎる傾向の人が本症になりやすい。悩みを内向させずに、気軽に相談できるような友人を持ったり、何でも話ができる家族の雰囲気作りが大切である。


2.バセドー病

◆症例

会社員のDさん(30)は2、3ケ月前より動悸がして、汗をよくかくようになった。比較的よく食べているのに体重も減ってきた。精神的なものかと思っていたが、念のため病院に行って検査したら「バセドー病」といわれ驚いた。

◆病気の説明

バセドー病は頚の全面にある甲状腺という器官の機能が亢進する病気である。甲状腺では甲状腺ホルモンというからだの新陳代謝を促すホルモンがつくられる。そのためこの病気ではからだの新陳代謝が亢進することによる症状が出る。原因ははっきりしないが、自己免疫異常といわれている。比較的若い人に多く、女性は男性の4倍程度といわれる。

◆症状

からだの新陳代謝がさかんになるため体重減少、頚脈や動悸、息切れ、汗が多くなり、手がふるえたりする。また微熱や眼球突出もみられることがある。甲状腺は大きくなるため、頚の全面がはれてくる。

◆診断

血液中の甲状腺ホルモンを調べればほとんど診断がつく。
また、甲状腺ホルモンに関するいろいろな抗体などもしらべる。

◆治療

大きく分けて3種類ある。抗甲状腺薬治療と手術治療、放射線治療がある。抗甲状腺薬の服用が一般的だが、最低でも1、2年の服用が必要なので、妊娠を希望する女性や社会生活上早い治療を望む人などは、手術が選択される場合がある。もちろん患者さん本人の希望が優先される。

◆予防

原因がはっきりしない病気なので、これといった予防法はない。なるべく早期に治療が始められるように、こういった症状があれば、早く医師に相談して診断を受けるようにするべきである。
 また内科的治療は長期戦なので根気よく治療を続けることが大切である。


3.結 核

◆症例

会社経営のCさん(55)はこの1年で知らぬ間に5キログラム体重が減少した。他に症状といってもなんとなくから咳がする程度である。仲間の会社が倒産する中で、経営を立て直すために日夜走り回っている状況であった。友人の紹介で訪れた病院で、胸のレントゲンを撮り、「肺結核」の診断に愕然とした。

◆傾向

肺結核は戦前は死亡原因のトップとなるほどの病気であった。しかし、日本では予防措置の普及で絶滅するかに思われた。ところが、現在も、頻度こそ少ないが、ときどき見受けられる。免疫力の落ちた老人や癌などの全身衰弱性の病気と合併することが多い。まれに若者でも生活の乱れなどから、肺結核になることもある。

◆症状

咳、喀血、血性痰、疲労感、体重減少など。症状は強くないが、長期間風邪症状が長引いているときなどには本症の存在も考えて検査するほうがよい。

◆原因

結核菌による肺の感染症である。結核菌は比較的感染力が弱く、普通なら簡単には感染しないが、何らかの原因で体力が弱っている場合に感染し発症する。

◆診断

昔なつかしいツベルクリン反応や痰の中の結核菌の検査や胸のレントゲンや血液検査などを行い総合的に診断する。

◆治療

抗結核薬の組み合わせによりほぼ完治する。しかし、粟粒結核といって重傷のタイプのものもあり、手遅れになると死亡することもある。普通、抗結核薬は1年以上服用する必要がある。

◆予防

予防接種としてはBCGが知られている。ツベルクリン反応が陰性の人はBCGの接種を受けることになる。また、結核に感染する人は、体力が弱っているわけであるから、日頃の生活のリズムを規則正しくして、食生活のバランスに気をつけることが、肺結核の予防につながる。


4.癌

◆症例

病院勤務の薬剤師さんのBさん(42)はこの2、3ケ月で4キログラムの体重減少に気がついた。毎年の院内検診で胃のバリウム検査も受けているし、糖尿病もないようだ。そういえば最近右下腹部に何となく違和感がある。同じ病院の院長先生に相談し、血液のCEAという検査値の高値を指摘され、大腸癌を発見された。

◆原因,傾向

大腸癌は最近日本でも増加してきている。食事内容の欧米化が原因とされている。日本の大腸癌の特徴は肛門に近いところ(左下腹部)に発生することが多いことであるが、最近欧米型とされる右側の大腸の癌も増えている。右側の大腸癌は初期の症状が少なく、検査主技も難しいので発見が遅れることが多いので注意が肝要である。

◆症状

下血(便に血が混じる)、腹痛、便秘、下痢。右側の大腸の場合、こういった症状が少ないことが多い。

◆診断

便潜血といって便のなかのわずかな血液を調べることにより早期発見をしようとしているが、診断率はまだまだ低い。肛門からバリウムを注入してレントゲン撮影をしたり、ファイバースコープで検査する方法 がかなり進んできました。40歳を越えたら一度調べてみるのもよいかもしれない。

◆治療

外科的摘出術を基本とするが、ポリープ型のもので、先端のみが癌化している場合は、ファイバースコープによる摘出術で治療が完了する場合があり、比較的治癒しやすい癌のひとつといえる。進行した癌の場合は人口肛門になることもある。

◆予防

最近の研究発表では肉食や動物性脂肪の取りすぎが大腸癌の原因のひとつといわれている。注意すべき点である。また、便秘も癌の発生を助長するようである。注意すべき点である。日頃、便通を整えることも大切だ。


5.糖尿病

◆症例

外科医のAさん(48)は、30歳頃より肥満傾向であったが、この半年で5キログラムもやせてきたので、癌がどこかにあるかもしれないと、胃や大腸の検査をしたが正常であった。父親が糖尿病であったので、糖負荷テストを受けたら糖尿病の診断が下された。

◆症状

糖尿病は高血圧などと同じく軽症のうちは症状が少ない。長い目で見て動脈硬化などを引き起こし、脳卒中や心筋梗塞を招くことになる原因のひとつなので、「静かな殺し屋」と言われる。主な症状には、口渇、多飲多尿、体重減少、疲労感などがある。

◆原因

糖尿病にはインスリン依存型とインスリン非依存型の2種類がある。一般に言う糖尿病は後者であるが、その原因としては、遺伝的に糖尿病の素因がある人が、暴飲、暴食、運動不足、肥満などの誘因を引き金として発症する。インスリンは摂取された糖分(ブドウ糖)を有効に利用するために働くホルモンであるが、糖尿病ではこのインスリンが何らかの機序でその働きが低下する。そのために血液中に利用されない糖が過剰になり(血糖が高くなる)、尿中にも漏れだしてくる(尿糖)のである。

「脈が乱れている」と思ったとき

 

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「脈が乱れている」と思ったとき

はいたっく

1998.6

日立製作所 発行


  1. 致命的な不整脈(心室細動など)
  2. 安全な期外収縮
  3. 心房細動
  4. 危険な徐脈性(脈拍数が少なくなる)不整脈

1.致命的な不整脈(心室細動など)

◆症例

内科医のKさん(30)は、以前より不整脈を先輩の医師から指摘されていた。しかし多忙、ストレスのため睡眠不足、喫煙も止められず、ある日、受け持ち患者さんの資料の検討のための徹夜明け友人と食事中に倒れ、大学病院の救急部に運ばれたが、そのまま帰らぬ人となった。

◆病気の説明

不整脈と聞いただけで怖いのに、いきなりショッキングな症例をとりあげた。実はこの患者さんは、私が大学病院勤務時代の後輩のドクターであった。不整脈といってもいろいろの種類がある。脈が速くなったり、遅くなったり、不規則になったりするという分類。
 また、心臓に問題があって(例えば心筋梗塞や心筋症など)発生する不整脈と原因ははっきりしないが不整脈だけ生じるもの。治療の必要があるものないものという分類。不整脈のうち、期外収縮は正常の心拍以外の心拍が生じるものだ。一般的には、期外収縮は安全なものが多い。Kさんの場合は多巣性期外収縮といっていろいろな形の期外収縮が複合した危険な不整脈の持ち主だった。医者の不養生を絵にかいたように詳しい検査をせず、勿論治療も受けないばかりか、不整脈にとって悪い「疲労」、「睡眠不足」、「喫煙」が重なった状態で発作を起こしてしまった。適正な抗不整脈薬を服用し、生活のリズムを守り、禁煙していればこのようなことにならなかったはずで残念だ。

◆治療,予防
 突然死の原因の多くは心臓病である。その中でも心筋梗塞が半数以上を占める。しかし、この症例のように原因がはっきりしない不整脈による突然死も多い。ところが、こういう症例をよく検討してみると、発作以前から何らかの症状があることが多いものである。そのひとつに、元来危険なタイプの不整脈がある場合は、その治療をしておくことで致命的な発作の確率を下げることができる。いずれにしろ循環器の専門医の判断が必要である。

 


2. 安全な期外収縮

◆症例

会社員のAさん(40)は、人間ドックで不整脈(期外収縮)を指摘された。いままで自覚症状はなかったが、不安になり夜も動悸がするようになった。このままではいつ心臓が止まるかと不安な毎日である。

◆病気の説明

不整脈の代表である期外収縮は、普通の脈以外に不規則な脈が出現することである。ときには心臓にドックン!という自覚症状も伴う。多くの健康人にも少量の期外収縮はみられるものである。1分間に一、二回以内であり、同じ形の期外収縮(心電図で判定される)が単発で出現するようなものは、たいてい放置しても大丈夫である。できればホルタ[心電図(24時間心電図)で期外収縮の頻度や種類を調べたほうが安心である。

◆治療,予防

検査の上、心配ないと医師から言われれば、過労を避け、十分な睡眠をとるように心掛け、喫煙や過度な飲酒は控えるようにする。自覚症状が強ければ投薬も受けることが必要だが、症状がなければ別段治療はしなくてもよい。同じ不整脈でも緊急に治療が必要なものと、このようにむしろあまり気にしない方が良いものまでさまざまである。普段、自分の脈拍の状態を掴んでおくことが早期診断への近道となる。手首の親指寄りのところに、他方の手指の2、3本を軽く当てて脈拍数(1分間)とリズムをみる習慣を付けておくとよい。


3. 心房細動

◆症例

会社を経営しているMさん(52)は、ときどきめまいがして気持ちが悪くなる発作が起こる。そのとき脈をみると全く不規則、病院で発作性の心房細動といわれた。

◆病気の説明,治療

これは、心臓の心房というところが、一分間に数百回の細かい波うち(細動)状態となり、その一部の刺激が心室に伝わり心臓の収縮となる。そのために脈は全くの不規則になってしまう。心臓弁膜症や心筋症でも起こるが、明らかな心臓病がなくても、加齢とともに発生頻度が増える。これ自体は致命的な病気ではないが脈拍数が増加しすぎると心不全になることもあるので緊急的治療を要することがある。
 また、心房細動を放置しておくと心臓の中に血のかたまり(血栓)が出来やすくなりこれが脳梗塞の原因となることがある。この病気になった人は心臓の超音波検査が必要である。正常の脈拍と心房細動を繰り返すものと心房細動の状態が固定してしまうものがある。心房細動の治療は、薬物が主流で電気ショックなどを使うこともある。
 他によくみられる頻脈性(脈が速くなる)不整脈として「上室性頻拍症」というのがある。突然脈拍が一分間150以上にもなり、不快な気分や動悸、めまいなどが起こる。この場合、脈拍数が徐々に増えるのではなく、突然増加し、しかもその脈は規則的であるのが特徴。これも良性の不整脈で命に別条がない場合がほとんどだが、定期的な専門医のチェックを受けた方が良い。


4.危険な徐脈性(脈拍数が少なくなる)不整脈

◆症例

学生のFさん(20)は、従来から脈拍数が遅かった。ある日友人と話しをしていたら突然意識を失ってしまい救急車で病院に運ばれた。数分以内に意識は戻った。本人の話では以前にも同様のことがあったらしい。

◆病気の説明

難しい名前であるが、洞(どう)不全症候群または高度房室ブロックによる脈拍数低下による急性の脳虚血が疑われる。このような失神発作をまたまた難しくて恐縮なのだがアダムス・ストークス症候群といい、危険な不整脈を示唆する徴候である。いずれも心臓の拍動のリズムを司っているところやその電気信号を伝達する路が機能低下していることが原因である。よく間違われる診断に「てんかん発作」があるが、脳波と心電図により大体鑑別はつく。いずれにしろ意識をなくすような不整脈は要注意である。

◆治療

薬物による根本的治療は難しく、現在最も信頼出来る治療法は人口ペースメーカーの装着である。これは心臓の収縮のための信号を人工的に発生させる小さな機器を心臓の内部に植えつける方法である。いまはこういった技術が進んで足の血管から細いチューブを通してペースメーカーを挿入して設置できる。電池の寿命も長くなり、電池交換も生涯で数回程度で済む。ただ、近年いろいろな医療エレクトロニクス技術が進み、MRIという磁力を使った検査機器が日常的に使われつつある。これは大変な磁場を発生するため人口ペースメーカーに影響を与える可能性があるので注意を要する。こういった注意が必要になったのは科学の発達のうれし悲しといったところであろうか。

腹痛あれこれ

 

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腹痛あれこれ

はいたっく

1998.7

日立製作所 発行


今回は腹痛を主訴とする病気のうち代表的な4つの病気を解説します。

  1. 尿路結石
  2. 急性膵炎
  3. 過敏性腸症候群
  4. 急性腸炎

1. 尿路結石

◆症例

会社員の男性Mさんは昼頃より右背部の鈍痛を自覚していたが、仕事中のためとりあえず様子をみていた。夕方より痛みは右脇腹に移動し、転げ回る程の強い痛みとなったため近くの病院にかけ込んだ。身体所、尿検査、レントゲン検査及び腹部超音波検査により尿路結石と診断された。

◆病気の説明

尿路結石とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道等の尿路のどこかに、なんらかの原因により石ができてしまう病気であり、結石による尿路の閉塞が生じると痛みが出現する。一般に、腹痛の症状を訴えて病院を受診する患者は多く、かぜに伴う軽症の場合から腸閉塞や胆石など緊急手術を要する重症まで多岐にわたる。尿路結石による腹痛は比較的頻度が高く、強い痛みのことが多いが内科的治療により劇的に改善することも多く水腎症や尿路感染症などの合併症さえ起こさなければ比較的軽い部類に属する疾患と言える。その再発予防には薬物療法以上に食生活等の生活習慣の改善が必要である。

◆症状

主に片側の背中から脇腹にかけての急激な強い痛みで、太もも等に放散することも多い。血圧の上昇、頻脈、発汗のような自律神経症状や、吐き気やおなかの張りなどの消化器症状を伴うこともある。ほとんどの例に顕微鏡的血尿(肉眼には赤い尿でなくても顕微鏡で調べた血尿)を認めることから、典型的な症状と尿検査にてほぼ診断は可能である。また、発作時には大人でも泣き出したくなるような(?)痛みだが、東洋医学で腎愈・志室といわれる患側腰の圧痛点を指圧すると痛みがやわらぐので発作を繰り返す人は試してみると良い。

◆原因

尿道にできてしまう石の約80%は、はっきりした原因もなくできてしまうカルシウム結石である。それ以外の特殊な結石としては、痛風発作の原因ともなる尿酸析出による尿酸結石やシスチン結石といったものがある。

◆治療

まずは薬剤により痛みを除去する。発熱があり、感染症を合併している場合は抗生剤の投与が必要である。尿路結石の存在だけで38度以上の発熱をみることは稀だが、結石に感染を伴うと複雑性尿路感染症となりやすく治療も長引く。閉塞が強ければ外科的処置が必要になることもあるので、できるだけ早く病院を受診することが必要である。一般に5㎜以下の結石は自然に尿に排石されるため合併症がなければ保存療法でよい。すなわち水分を十分に摂り、適度な運動、及び食事療法である。原因のほとんどをしめるカルシウム結石に対しては、再発予防のための有効な薬物療法はないのが現状であり、井戸水は沸かして飲む、炭酸飲料、コーヒー、紅茶、糖分の多いジュース、酒、動物性蛋白、モツ類を控え、野菜類を多くとる、といったことを心がける。また、遺伝も関係するので、家族に尿路結石の既往がある場合には、上記の一般療法、食事療法にいっそうの注意を要する。尿酸結石やシスチン結石に対しては、ある程度有効な薬物療法がある。結石が大きく尿管などに詰まると、水腎症という取り返しのつかないことになるので早期の診断治療が大切である。また、8㎜以上の大きい結石に対して、最近、侵襲の少ない、ESWLという体外衝撃波による治療などが進んでいる。


2. 急性膵炎

新入社員のYさんは最近宴会続きの毎日で、昨日もしこたま飲んで帰宅した。明け方より急に上腹部の激痛を認め、意識も朦朧とした状態で病院にかつぎこまれ、緊急入院、集中治療室に運ばれた。

◆病気の説明

膵臓の急激な炎症により、普段分泌されている膵酵素が異常に活性化を示し、膵臓の自己融解を生じ、更にその変化が血液を介して全身に反応を来した物。
 重症の場合はショック状態となり、他臓器不全となって、死に至る。まずは、絶食、点滴加療と安静が絶対である。

◆原因

もともと胆石や胆道系の異常があって生じる場合と、アルコールや脂っこい物などの暴飲暴食により誘発される場合がある。

◆治療

急性膵炎の大多数を占める軽症は、炎症が膵臓の外に広がって合併症を起こすこともなく、入院による内科的な治療にて軽快に向かう。但し、発作を繰り返して炎症が長期にわたる慢性膵炎となってしまうと、膵臓が荒廃し、治療に苦渋する事も少なくない。原因がアルコールであれば禁酒が治療の大前提であり、飲酒を続ける限り病状は進展し続ける。
 胆石が原因となっている膵炎の場合は、膵炎の治療と並行して、胆石除去等の外科的治療が必要になる可能性もある。また、強力な内科的治療にても軽快しない重症例に対しても外科的治療が適応となる。


3. 過敏性腸症候群

◆症例

28歳のOLのKさんは数カ月前より会社に出勤すると腹痛が始まり下痢となる症状を認めている。週末になると改善する。3カ所の病院をまわり、血液検査や便検査、レントゲン検査等の精密検査をうけたものの「どこも異常ない」「気の病」「放っておけばよい」等と言われ、途方に暮れている。

◆病気の説明

腹痛や、便通異常などの消化器症状が長期にわたるものの、検査をしても腫瘍や炎症など原因となる異常の認められないことが本症の診断の基本条件である。治療の基本方針は、"腸の機能を戻すのは時間がかかるが必ず治る"といった病気への理解と生活習慣の改善、食事療法、心理療法、そして薬物療法である。

◆症状

腹痛は腸の運動異常の結果おこり、食事の直後や排便前に多い。下痢は1日数回から10回以上も認めることがあり、午前中に多い。血便はないがドロっとした粘液が排出されることがある。また同時に全身的な疲れやすさ、不眠、肩こり、冷えなどの自律神経症状を伴うことがある。

◆原因

元々の体質とストレスが第一の原因である。不眠や過労により増悪する。

◆治療

基本的なことであるが、生活を規則正しくし、食事の時間や排便時間を一定にするよう心がける。特に起床時や、朝食後は腸運動などが亢進しており排便を生じることが多い。十分な食物繊維をとることが特に便秘型で有効である。あまり脂っこい物は消化に時間がかかり腹部がはったり、便秘、下痢を増悪させる。ストレスの除去が一番だが、環境を変えることはなかなか難しいので自分が変わることである。気分転換をはかったり、ボランティアへの参加など自分にかまわず他人に尽くす、といったやりがいをみつけることにより軽快するケースもある。


4. 急性腸炎

◆症例

56歳の主婦Sさんは数日前から咳、発熱などの風邪症状を認め、以前医者から処方され余っていた抗生物質を自分で内服していた。一週間ほどたった頃から下痢、腹痛を認め来院した。

◆病気の説明

急性腸炎は様々な原因による急性の腹痛、下痢、などを主症状とする症候群である。その多くは細菌やウイルスによる感染性下痢であるといわれている。中でも特に、ウィルス感染、いわゆる風邪に伴う腸炎が頻度が高いが、実際は、検査をしてもはっきり原因が特定できないことも多い。上記症例は、安易に服用した抗生物質が腸の中の細菌層を変化させ、生じた毒素が腸粘膜を傷つけたことが原因となっており、ただちにその抗生物質を中止することが治療の第一歩である。
 原因の除去や保存的療法で完治する軽症から手術を要する重症まで、その病態にはかなり差がある。

◆症状

原因に関係なく、急性の下痢と腹痛が主なものである。吐き気や嘔吐をともなうことも多い。ほとんどが水のような下痢であるが、高熱、血便、頻回の下痢、脱水は重症の徴候である。

◆原因

感染性や上記の症例のような薬が原因となる他、飲食物(食中毒)や食事アレルギー、放射線障害、腸管を栄養する血管の急性閉塞などが挙げられる。

◆治療

基本的には腸管を休ませ、脱水を改善し、下痢や腹痛などの症状に対する保存的治療が中心である。上記のように、抗生物質を中心とする薬により腸炎が誘発された病態は、特に偽膜性腸炎とよばれるが、原因となっている薬をやめてもよくならない場合特殊な抗生物質を投与する必要がある。稀には、腸に穴があいたり、壊死などにより、手術が適応となる重症例もある。

現代病トレンド

 

メディ スコープ

現代病トレンド

はいたっく

1998.8

日立製作所 発行


今月は、「現代病トレンドその1」として最近注目されている病気の話題についていくつか解説します。

  1. パニック障害症例紹介
  2. 胃の病気とピロリ菌
  3. 「生活習慣病」

1.パニック障害症例紹介

◆患者さんの訴え

営業部のAさん(32才、男性)。最近、営業成績が上がらず嫌な上司に毎日小言を言われる。
不眠と過労が続く。ある朝、通勤電車の中で急に呼吸困難、動悸、めまい、手足のしびれ、冷や汗が出現し病院の救急外来へ行ったが、心電図などの検査も異常はなく「過労でしょう」とのこと。
その後、電車の中でたびたび同様の発作が出現するので、恐くて電車に乗れなくなってしまった。

◆Dr.KENZOの解説

最近、外来で診療しているとこういった訴えで来る患者さんに出会うことがしばしばです。この病気は今までは不安神経症や閉所恐怖症などとして扱われていた場合が多いようですが、現在では自律神経系の過敏な反応により発作を起こすと考えられています。ストレスや過労がたまるうちに交感神経が過敏となり、なにかのきっかけで、呼吸困難、めまい、動悸、発汗、しびれ、胸部不快感、吐き気、死への恐怖感などの発作がおこります。一人になるときや乗り物などに乗ることをきっかけとして発作を起こすことが多く「また発作を起こすのでは」という不安感(予期不安といいます)のため外出や乗り物に乗ることができなくなります。はた目には健康そうに見えるのですが、本人はかなり辛いものです。早期治療が大切で、精神科・心療内科的訓練を受けた医師のもとにより早く相談に行くことが望まれます。ある種の抗不安薬がかなり有効です。「精神的な疲れですから、気を楽にしていれば大丈夫です」の一言で片づけると慢性化し、やっかいなことになります。適切な治療を行うと3カ月から1年くらいで乗り物にも一人で乗れるようになります。
 なによりも予防的に、日頃からストレスの解消法を身につけ、過労にならないような生活リズムを作っておくことが大切です。

2.胃の病気とピロリ菌

繰り返す胃潰瘍や十二指腸潰瘍はピロリ菌というかわいい名前の細菌が原因らしいということが分かってきました。また、ごく最近の研究では胃ガンとも密接な関係があるらしいことも指摘されるようになりました。しかし、まだ、最先端の研究段階なので、安定した治療成績の報告などは今後の報告を待ちたいところです。現在でも血液中のピロリ菌の抗体を調べたり、胃内視鏡で胃粘膜の一部を調べることでピロリ菌の感染の有無をチェックすることは出来るようになりました。ただ、ピロリ菌があるからといって必ず胃潰瘍があるとは限りませんし、その逆に胃潰瘍があってもピロリ菌が原因だと断定はできるわけではありません。
 ピロリ菌の治療に関しては、新薬は開発中ですが、現在使われている薬剤の組み合わせでもある程度有効なようです。
 日本では現在('98年8月)、このピロリ菌の検査や。療に関しては保険で認められていないので、自費で賄わなければなりません。私の経験では胃潰瘍や胃炎の慢性的症状があり、ピロリ菌の存在が確かめられた患者さんにおいては、9割以上の方が治療効果の快適性に満足しています。
 でも、費用の点(検査・治療で5、6万円程度)、薬の副作用、再発などの問題点がありますので、専門医と十分な相談をしてから、治療方針を決定するべきでしょう。
 現在のところは、単なる潰瘍や胃炎の治療でも良いし、上記のピロリ菌治療を試みても大きな間違いにはつながらないと私は考えています。近い将来、胃炎・胃潰瘍の治療、胃ガンの予防のためのピロリ菌治療モデルができることを期待しています。

3.「生活習慣病」

ガン、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などのことを厚生省の諮問委員会の勧告で「成人病」改め「生活習慣病」と呼ぶようになり、ほぼ2年間がたちました。
 もともと「成人病」なる言葉は医学用語ではなく、厚生省などで使われる行政用語です。私なども、英訳の仕事の際、「成人病」をなんと訳するか困ったものです。アダルトディジーズではなんかピンときません。
 今回、「生活習慣病」と呼ぼうということになった理由は、「成人病」といえば、「40才以降の年配の病気」というイメージが強く、若い頃からの予防が大切という予防医学の主旨に反するということと、増加しつつあるガンや心筋梗塞などを予防するのに、生活習慣の総合的対策が国家的レベルでも必要だということを強調したかったからなのです。
 実際、若年者の肥満や高脂血症も増え、子供成人病という不思議な言葉も聞かれるようになりました。また、ガンの発症の若年化もみられ、長寿化はいいのですが、有病率の高さも伸びることになり、そのため医療費はウナギ昇りの状態なのです。その結果、今回の健康保険の改正のように国民の負担が増加するのです。なるべく医療保険は使わないで、普段の健康管理を強化することが、結局は個人の負担の減少につながるのです。喫煙をはじめとする、悪い生活習慣は現在発症している病気の9割以上の原因となっているという報告もあるほどです。これは、決して誇張ではないと私は考えています。
 昔から「快食、快眠、快便」が健康の象徴といわれますが、「医食同源」といわれますし、「睡眠不足に効く薬はない」といいます。また、「腹も身のうち」とも言われます。健康管理も温故知新なのです。
 政治家や大企業が「横暴、癒着、搾取、勉強不足、人間性不足」を反省するべき事件が連続するさなか、「暴飲、暴食、喫煙、運動不足、睡眠不足」に代表される悪生活習慣をまじめに見直す時が到来したのです。

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