「胸が痛い!!」

 

メディ スコープ

「胸が痛い!!」

はいたっく

1998.2

日立製作所 発行


  1. 狭心症、心筋梗塞
  2. 帯状疱診(ヘルペス)
  3. 肋骨骨折
  4. 自然気胸

1.狭心症、心筋梗塞

◆症例

営業マンのMさん(50)は、最近、階段の昇降時やジョギング中に胸部を締め付けられるような圧迫感を認めている。いずれも二、三分間でケロッと治ってしまうが心配で診断を受けた。体格は1m70cm、80kgで1日40本のヘビースモーカーだ。

◆病気の説明

不典型的な狭心症の発作である。狭心症とは、心臓自身に栄養を与えている冠動脈という血管の内腔ないくう)が狭窄(きょうさく)するために起こる。主として、動いた後などに生じる労作狭心症と夜間や早朝に生じることの多い安静狭心症がある。 Mさんの様な労作狭心症は、もともと動脈硬化により冠動脈の内腔が70%以上もつまってしまっていることが原因している。運動により心拍数が増え、血圧が上昇して、心臓により多くの血液を送らなければいけないのに、血管がつまっているため心臓が虚血(きょけつ-血液が足らない)状態になり発作を生じる。安静狭心症は寝ている時などに、冠動脈が痙攣(攣縮)状態となるために、やはり血管が狭窄して発作を生じる。
 この冠動脈が完全に閉塞(へいそく)してしまうと「心筋梗塞(こうそく)」といって、心臓の筋肉 が壊死(えし)という状態になり命が危険にさらされる。

◆原因

肥満、ストレス、喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などがあり、日本人の間でも増加の一途である。日頃の日常生活の改善によりかなりの予防が期待できる。

◆治療法

軽度な場合は薬物療法でよいが、高度になるとバイパス治療といって手術により人工的な冠動脈を作成する方法がとられる。
 また、最近では、足の動脈よりチューブを入れて狭くなった血管を風船のようなもので広げる方法が盛んに行われ、成功している。


2.帯状疱疹(ヘルペス)

◆症例

インストラクタ-のOさん(40)は数日前より右側胸部の付近にピリピリする痛みが出現。その間を振り返っても思い当たる外傷などはない。今朝より痛みのあるところの皮膚にポツポツとした水疱(すいほう)が数個出てきた。

◆病気の説明

帯状疱疹(たいじょうほうしん)による肋間(ろっかん)神経痛である。帯状ヘルペスともいい、いわゆる“水ぼうそう”の原因となるウイルスによって発症。子供の頃“水ぼうそう”をした場合、そのウイルスが神経の一部に潜伏感染する。そうした状態の人が、体調を崩して免疫能力が弱くなった時に、このヘルペスウイルスは再活性化されて神経に沿って病変を及ぼしていく。Oさんの場合も、生活が不規則で疲労がかなりたまっていたようである。その他、カゼや悪性腫瘍、結核など全身の体力が弱っている桙ノ発病しやすいといわれている。診断には、専門医の視診、問診及び血液の抗体価などが有用である。まれに重症例では、脳炎や脊髄炎を発症することもあり、またかなり強い神経痛の後遺症を残す可能性もあるため、なにより、早期の治療が重要である。湿疹が広汎だったり、他の全身症状を合併している場合、日常生活が困難なほどの神経痛を伴う場合、あるいは高齢者では、入院の可能性もあるので、できれば内科の受診が望ましい。

◆他への感染

まれに水ぼうそうにかかった事のない人に水ぼうそうが発症することがあるが、ヘルペスになることはほとんどない。

◆治療

抗ヘルペスウイルス剤の局所塗布と内服または静脈内投与が有効である。また、ビタミン製剤が神経障害に有効とされ、その内服が広く用いられている。原因のウイルスに対してかなり有効なウイルス薬が開発されているが、おそくとも発病5日目ころまでの治療開始が後遺症予防のためにも望ましい。

◆日常生活の注意

可能な限りの安静、十分な睡眠、栄養補給を基本とする。入浴、石鹸の使用は、皮膚症状が強い場合は注意が必要であるが、かさぶたになってしまえば特に制限はない。


3.肋骨骨折

◆症例

会社員のMさん(35)は、職場内の野球大会に備えて素振り練習をしていたところ、およそ三日後から右側胸部に痛みが出現。深呼吸をしたり、寝返りをうつのも痛くて困難。痛みを自覚する前に、特に重い物を持ったり、体をぶつけたりなどはしていない。

◆病気の説明

野球の素振りが原因と思われる肋骨(ろっこつ)の疲労骨折である。骨折なのになぜ時間がたってから痛くなるのかと不思議がられることが多い。肋骨は側胸部から前胸部にかけては肋軟骨といって、軟らかい骨となっている。この軟骨の部位や硬い骨との境界部位の骨折の場合は、ポッキリと折れた感じにはならず、ちょうど若木が折れたような感じになる。各肋骨の下のふちを神経や血管が走っているので、骨折部位の炎症が拡がってくると痛みが増長してくるのである。診断にはレントゲンが役立たない場合もあるが、経験を積んだ医師の診察で比較的容易に判断ができる。

◆治療法

局所の湿布とバストバンドというガードルのようなもので固定をすることである。他の部位の骨折のように、完全には固定できないので安静が大切。一か月程度で痛みは完全になくなり、軽度な運動も可能となってくる。ゴルフ、テニスやスキー、長期の激しい咳も原因となることが多い。


4.自然気胸

◆症例

20歳の男性Yさんがある朝大学に行く支度をしていたところ、突然右側胸部に刺すような強い痛みを認めた。呼吸困難も伴ったためベッドに横になってみたが一向に改善せず来院した。 1m80cm、62kgのやせ型。胸のレントゲン撮影の後、すぐに入院となった。

◆病気の説明

「突発性自然気胸(ききょう)」という肺がいわばパンクしてしぼんでしまう病気である。難しい話になるが、肺が収まっている器である胸腔(きょうくう)は陰圧といって大気圧より低い状態になっているために、肺はふくらんだ状態を保っている。ところが肺の一部が破れることにより、この陰圧が保てなくなり肺がしぼんでしまうのである。

◆原因

ほとんどが誘因のはっきりしない特発性自然気胸で、Yさんのようなやせ型の若い男性に特に多くみられる。体格や年齢的に当てはまらない場合、まれに、タバコの吸いすぎでなりやすい肺気腫や、肺癌、肺結核などに続発していることもある(続発性自然気胸)。

◆症状

突然の胸痛、痰のからまない咳。しぼみ方の程度が強いと肺の機能が失われるので、呼吸困難を起こすが、軽い息切れのみのこともある。診断は、胸のレントゲンと聴診などにより比較的簡単である。

◆治療

軽症の場合は、安静だけで数週間の内に治癒するが、中等度以上では、胸腔内にチューブを入れて人工的に陰圧をかけたり、肺そのものの手術を行うこともある。いずれにしろ、専門家の一刻も早い判断が必要である。

◆予後

再発しやすいこともこの病気の特徴であり、約30%に再発が認められるが、通常は1~数日で再膨張する。両側に発症したものや、元々の肺機能が悪かった症例は予後不良である。

    

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