「仮面高血圧」は高リスク

 

昼間は正常、早朝・睡眠中に血圧上昇

「仮面高血圧」は高リスク

朝日新聞朝刊

2007.2.19

朝日新聞社


昼間は正常、早朝・睡眠中に血圧上昇

昼間に病院で測ってもらう血圧は正常なのに、早朝や睡眠中に上がってしまう-こんな人がかなりいるらしいことがわかってきた。病院の検査や診察ではわからないことから「仮面高血圧」とも呼ばれる。

 

本来は下がるべき睡眠中に血圧が高い場合、全体的に高まった「ふつうの高血圧」に比べ、脳卒中や心筋梗塞などが起きるリスクが高いというデータも出ている。対策や治療のポイントをまとめた。

要治療を見逃す心配も

120なら正常とわかるけど、どれくらいから高血圧とされて、治療する必要があるのだろうか?血圧について、そう感じている人は少なくない。

<収縮期140/拡張期90(ミリHg、以下同)>日本高血圧学会のガイドライン(04年)が定める高血圧の基準。診察時は若干高めに出る傾向があるので家庭で測った場合には135/85が目安となる。

血圧はふつう、就寝後の午前3~4時ごろに最低となった後、緩やかに上昇し始め、さらに朝起きた直後に上昇する。

このときに高くなり過ぎるのが早朝高血圧だ。

その指標として自治医科大の苅尾七臣教授(循環器内科)は①朝起きた直後の収縮期血圧(早朝血圧)が就寝前の血圧より15~20程度以上高い⑧早朝と就寝前の収縮期血圧の平均が13~15を超えている、の2点を挙げる。これまでの疫学調査などから「早朝高血圧は高血圧の治療を受けている人の約25%、未治療者でも15%はいる」とみる。

なぜ、早朝高血圧が問題なのだろうか。降圧薬で血圧をコントロールしているつもりでも、実は十分ではなかったり、治療した方がいいケースを見逃したりする心配があるからだ。

早朝高血圧は、血圧の変動パターンなどから二つに分けられる。起床時に血圧が急上昇する「モーニングサージ型」と、睡眠中からずっと血圧の高い状態が続く「夜間高血圧型」だ。

自治医大で高血圧患者500人余りを約5年追跡した調査では、早朝高血圧のグループは、ふつうの高血圧患者に比べ、脳卒中を起こす確率が約3倍高いという結果が出た。

脳卒中の確率高まる

さらに睡眠中の血圧が就寝前より高い夜間高血圧型に絞ると、ほかの人たちに比べて脳卒中が起きる確率が約2倍、突然死や心筋梗塞などは約6倍も高かった。

治療しながらも、夜間に血圧が上がるのは、薬の効果が途切れるケースが多いという。早朝に急上昇する背景には、大動脈の壁が厚くなって弾力性が低下し、血圧の変動を調整する仕組みに異常が起きていることが考えられるという。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)や糖尿病が関係していることもある。

身長165センチ、体重90キロの男性Aさん(54)はSASで同大病院を受診した。

血圧が高めで降庄薬を2種類(ARBとカルシウム括抗薬)飲んでいた。診察時の血圧は138/87。しかし、就寝前は132/85だったの対し、起きた直後は161/108。典型的な早朝高血圧だった。

念のためにSASの発作時に血圧が測れる装置で調べると、一時的に217に上がっていた。SASの治療で睡眠中の血圧も平常に下がったが、「夜間に心筋梗塞などが起きてもおかしくない状態」という。

就寝前・起床時の測定を

早朝高血圧の治療は、就寝前と早朝時の血圧差を15~20以内に抑え、就寝前と早朝血圧の平均を135より下げることが目標だ。

降圧薬は1日1回朝に飲むことが多いが、夜間に薬効が切れるなら、朝夕2回に分けるといった工夫が考えられる。作用時間の長いタイプの薬や夜間に血圧を下げる効果のある利尿薬を少量処方することも検討してもいい」と苅尾さん。

夜間の血圧変動を知るためには、24時間血圧計が必要になるが、早朝高血圧は朝夕の血圧測定だけでわかることも多い。苅尾さんは「血圧が高めの人は家庭でまず寝る前と起きた後に血圧を測ることから始めてほしい」と訴える。

血圧変動は個人差が大きい。生活環境も稜々。一人ひとり合わせた対応が大切だ。山王病院の心療内科で診療する寺下謙三医師(寺下医学事務所代表)は「血圧変動のどの部分に着目するかで患者本人の治療に対する心構えが変わる。本来は治療が望ましいのに、低い部分に目を向けると治療を避けたくなる」と話す。

高い状態が続く場合と、人前で話す際などの急な上昇をわけて考える必要があるという。長く続くと血管などに除々に影響が及ぶ。「ちょっと高めだけど正常範囲だからなどと放っておかず、もっと血圧に注意を払うことが必要です」

仮面高血圧 診察時にはわからない仮面高血圧の一つに、昼間に職場のストレスや怒りが原因で上昇する「職場高血圧」もある。東京都老人医療センターが会社や役所で実施した調査では、健診で血圧が正常と判定された人の2~3割が、仕事中には「140/90」の基準を超えていたと、という結果が出ている。

    

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