最適な医療・最適な家

世界でいちばん 自分らしい家2

最適な医療・最適な家

2004.11

株式会社扶桑社 発行


川島晴夫

株式会社リビング・デザインセンター住宅ソリューション部長。

建築コーディネーター。建主が主役の家づくりを支援する「OZONE家づくりサポート」を創始し、活動している。


自分にとって最適な医療・最適な家

-建主と患者の決断を支援するシステムとは-

私たちが病気になつたときの治療に欠かせない医師。そして、私たちの生活の場である家づくりに欠かせない建築家。どちらも、私たちが健康で快適な暮らしをしていくのに重要な役割を担っています。しかし、多くの人にとって医師や建築家は、どう選んだらいいのかよくわからない存在です。レストラン選びや美容院選びなら、若い頃から多少の失敗を繰り返しながら選択眼を養っていく機会がありますが、医師や建築家についてはありません。人生はじめての難事に立ち向かうことになった時に、いきなり必要になるのが医師であり建築家なのです。
 その時、どうすれば、自分にふさわしい専門家に出会うことができるのでしょうか。また、本当に一人の専門家を信じていいものなのでしょうか。医療判断医として活躍する寺下謙三さんと、家づくりサポート機関を運営する川島晴夫さんに、お話しを伺いました。

寺下さんは、「医療判断医」を、なぜ始めたのですか?

寺下
かつては「かかりつけの医者」というものがいました。町の内科医が、ふだんから患者さんと接していて、大きな健康上の問題があった時にどうすべきかのガイダンス役を果たしていました。しかし、医療の専門化が進んだために、普通の内科医がその役割を担うことが難しくなりました。私は、当初専門的な医学研究をしていましたが、患者の視点に立って、医学界があまりにも専門化しすぎてしまったことによる弊害を打破することの必要性を痛感し、「医療判断医」という分野をつくりました。

川島さんは、「OZONE家づくりサポート」を、なぜ始めたのですか?

川島
私は10年前にリビングデザインセンターOZONEを開設してから、家づくりをする人のための中立的な情報センターの運営に関わってきました。ここには、家づくりの過程においてさまざまなトラブルを抱えた方々が相談に来ます。しかし、トラブルが発生してから相談に来られても、対症療法的なアドバイスはできても根本的な問題解決はできないことが多い。そこで始めたのが、家づくりの最初の段階で建主に最もふさわしい建築家の選定をコーディネートするサービスでした。しかし、それでもその後にうまくいかなくなる場合があり、問題は完全には解決しませんでした。そこで、建築家を決めてからもスタッフが建主を支援していくプログラムである「家づくりサポート」 に発展させました。
「家づくりサポート」 は、建主が、建築家や工事会社のペースにならずに、自分自身が主体となった自分らしい家づくりを実現することを目的としています。総合的な視野をもって建主をサポートするスタッフが、家づくりの条件整理からはじめて、建築家の選定、契約内容の確認、設計や施工のチェックなど、住宅の完成まで一貫して建主をバックアップしていきます
寺下
「OZONE家づくりサポート」の考え方は、私が提唱する「医療判断医」の理念と、共通することが実に多いと思いますね。「医療判断医」は、医療を受ける際に生じる患者や家族のさまざまな選択や決断を支援することの専門家です。交響楽の演奏をするときに指揮者が必要なように、「医療判断医」は、専門分化した医療の世界における指揮者の役目を果たすことをめざしています。
専門家の選定について

「家づくりサポート」と「医療判断医」は、適切な専門家選びをする、という点についても、共通していますね。

川島
家づくりにおいて、どういう建築家を選定するかはとても大切です。建築家の選択の失敗には、さまざまな要因があります。例えば、建築家自体に問題があるケース。建築家の中には、建て主のためよりも自分の作品づくりのために設計するスタンスの人がかなり多くいます。だから、性格的にはすごくいい人だけれども、思うような設計にならないで困った、という建主にはよく会います。また、建主と建築家と相性があわないケース。建築家による設計には基本形がないだけに、単に技術や発想が優れているだけでなく、デザインの感性、生活に対する考え方、物事の進め方などなど、あらゆる面で相性のいい建築家に設計を依頼しないと、なかなかうまくいきません。
「OZONE家づくりサポート」では、設計コンペを実施するなど、専門スタッフのアドバイスを通じて、約400人の登録建築家のなかから、建主白身が、もっとも自分にふさわしい建築家を探し出せるようにサポートしています。
寺下
クライアントと専門家との相性の大切さについては、医師選びでも同じです。私は、医学界のさまざまな専門分野のなかから、約1000人の医師をリストアップしています。そのなかから、専門性だけでなく、性格や人生観などをもふまえて、患者に最もふさわしいと思う医師を推薦するようにしています。
もうひとつ、重病時の医療決断支援を的確に行うために重要なのは、患者との信頼関係です。そのためには、健康なときから近しい関係を築いていることが大切ですので、私は「主侍医」として、多くの人の医療相談を行っています。
情報開示とインフォームドチョイスについて

「家づくりサポート」と「医療判断医」は、適切な専門家選びをする、という点についても、共通していますね。

川島
家づくりにおいては、建主と建築家のコミュニケーション不足によって問畏が発生する場合も多くあります。建築家から充分な説明がされずに、あるいは建主が設計内容を勘違いしたまま、工事が進んでしまうというのもありかちなことです。
「家づくりサポート」では、建築家や工事会社に対して、建主に対して必要な情報を極力開示するように要請すると同時に、その情報の意味を建主が正しく理解できるように、スタッフが説明するようにしています。建築家が当然と思っていることが建主にとっては予想もしないことだったりすることが、往々にしてあるからです。
寺下
医師の世界においては、かつては、患者に対して父親のように親身に接することが医師の模範的な態度だと考えられていました。父親は子どもに良かれと思って温情的に接する。しかし、時に、干渉的で強制的になりがちです。私は、患者が医師から充分な説明を受けて自分で治療方針を選択する、インフォームドチョイスという考え方が大切だと思います。患者個人の人生観や価値観を医師が尊重することが、とても大切です。
しかし、検査や治療の選択肢が広がるのはいいことですが、それらが目の前に並べられただけでは患者は途方に暮れるばかりです。そこで、患者自身が主体的に治療方法を決断するためには、複数の医師の意見を聞くことも大切になります。医療判断医は、そういう役割も担っているのです。私は、患者の医療決断を支援することが、きわめて大切であると、考えています。専門医の選択、治療法の選択、治療律のフォローアップなど、患者さん白身が決断すべきことは実に多くあります。
川島
寺下さんの「決断を支援する」という考え方は、家づくりサポートにおいても教えられることがとても多いですね。プランの可能性についても、設計の技術的評価についても、一人の建築家の見解だけでは偏ったものになりがちです。建て主は、別の書門家の意見も聞いてみることがとても有益です。工事についても、本当に正しい施工をしているのか第3者の目を入れることが大切です。
「OZONE家づくりサポート」の業務も、まさに、設計の依頼先選定の決断、設計内容についての決断、工事発注の決断、工事完了確認の決断など、建主にとってのさまざまな決断を支援しているとも言えます。
建主と建築家の関係とは
川島
ところで、寺下さんは、数年前に自宅を新築されたときに、OZONE家づくりサポート登録建築家でもある金桝義久さんに設計を依頼していますよね。なぜ彼に設計を依頼したのですか?
寺下
私には建築家の知人が数多くいて、そのなかには、金桝さんよりずっと高名な建築家も何人かいます。しかし、自分の家を設計してもらう専門家を誰にするか考えたときに、まず、私の好みのティストを理解できる感性の持ち主であること、そして、自分が率直に話のできる相手であることが重要だと考えました。そこで最終的に選んだのが、金桝さんでした。全桝さんとは、今、衣食住の「衣」を「医」に変えた「医食住計画」というプロジェクトを一緒にやっています。
川島
建て主と建築家としての相性と、友人としての相性がうまく一致した好例ですね。しかし、一般的にみると、実は、この2つの相性は全く別物で、設計を依頼したばかりに友人関係に破綻を来した、という話もよく聞きます。そうならないことを見定めたのは、やはり、寺下さんが医療判断医として培った人間関係を冷静に見抜く目があったからこそだと思います。
寺下
そうですね。私にはたまたま多くの建築家の知人がいて、そのなかから選べた、ということも大きいと思います。普通の人が家を建てるときは、やはり「OZONE家づくりサポート」を利用するのが一番ですね。
川島
ありがとうございます。本日は、私たちが家づくりサポートを運営していくにあたって有益なお話を伺うことができました。今後、「医療判断医」から学ばせていただくことも生かして、「OZONE家づくりサポート」を更に良いものにしていきたいと思います。
    

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