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魂を売らないということ⑨ 「うずしお」に思う
2005.5~2006.3 魂を売らないということ⑨ 「うずしお」に思う |
ばんぶう 2006.1 日本医療企画 |
《信念を通すか、曲げるか、持たないか、それとも》
人間社会にもある渦と凧 信念ある場所に渦が生じる
鳴門の大塚美府館を訪れたついでに、観光船に乗り「うずしお」を見た。鳴門海峡に行けはいつも渦潮か見られると思っていたが、そうではない。一日のうちでも見頃の時か決まっている。潮の干満の時間によるものである。
博識の読者諸氏には聞知のことであろうが、渦潮の出現するメカニズムから考えると当然のことであろう干満の潮の流れと地域的な潮の流れが複雑に路み合って渦潮を発生するというのである。鳴門の渦潮を見た人は多いと思うが、不思議な光景に感じたのは、渦潮の発生する場所が激しく皮立っているのに、ある部分か
ら外側は全くの凪の伏能であるということだ。
「ウーン、何かに似ているなあ」と思った。潮と潮がぶつかり合うところは激しく波立ち、どちらも譲り合わない時には渦を巻いてしまう。ところが少し離れたところては、まるでその波立ちや渦は嘘のよっに平穏な凪である。人間社会でも全く同じではないか。
思想と思想がぶつかり合う。大変な荒波が立ち、双方譲り合わなければ周りを巻き込む旋風となり、時に人は殺し合う。ところがその同時期に、コンビニの前で尻餅をつき携帯電話でたわいもない長話をしている人々かがいるこれは規模の大きな例えだが、卑近な例はたくさんあるだろう。
信念を通して戦わず、魂を売って傍若無人を決め込む輩を非難するために「うずしお」の話を書いていると読者は思うわれるであろう。確かに今までの私のエッセイの流れからするとその通りである。しかしなから、私の心のなかではまさに渦か巻いているのである。
私事で過去を振り返ってみてもなんと数多くの渦をつくつてきたことかと我ながらあきれ返ってしまう。
最近は「年齢のせいか荒皮や渦から離れて、凪の世界でのんびり暮らすのもいいなあ」と家族や友人にこぼすことが多くなった。たいていの場合は「私はそう願いた
いけれど、あんたには無理よ」「そんなことをするとお前は退屈で死んでしまうよ」と言い返されてしまう。今のところは私も修業が足りず、その通りかもしれないが、「今に見ていろ。僕だって優雅な暇を味わう風流人になってみせるぞ」と心のなかで叫んでいる。