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魂を売らないということ⑧ 夢をみるには力が必要
2005.5~2006.3 魂を売らないということ⑧ |
ばんぶう 2005.12 日本医療企画 |
《医師や医学生の夢を育てる社会のまなざし》
力のある医師は夢をみなくなる?
「ホネツギマン」という可笑しいタイトルの映画を観た。好きな脚本家の一人であるイーサン・コーエンが製作に加わっているということで興味を持った。しかし、今日のテーマはそのあらすじにはあまり関係ない。登場人物のセリフのなかで「夢をみるには力が必要なんだ」というようなセリフが気になったからである。
夢をみるだけなら空想力以外の力なんか必要ない、と思っていただけになるほどと思った。医療を少しでもよくするために、あれこれ試みてきた私が疲れ果てているのは、これだったとわかったからだ。夢をみがちな私にとって、その力があまりにも不足しているから困難を乗り切った直後はへとへとになってしまい、肝心な時にエネルギー不足になるのだ。
どうしたらよいのか? 答えは二つ用意されている。「夢をみない」か「力をつける」かという単純な二者択一である。若干、負け惜しみの嫌いがあるが「力があると夢をみなくなる」のではないだろうかとうすうす感じていた。国のために犠牲奉仕の精神でと思っていた政治家が議員バッジをつけたとたんおかしくなるように、医師も免許を取った途端に傲慢になるのであろうか? 人の命を救うことが夢であると医学生や医学部を目指す子どもたちは心に誓っていたはずだ。
私が医学生に医療判断時の心構えについての集中講義をはじめて一〇年、その生徒は総勢一〇〇〇人になるが、多くの生徒たちの純粋な心に触れて感動してきた。この子たちが、マスコミで叩かれるような傲慢な医師に変貌するとは信じがたい。そもそも私の知りうる限りでは日本の医師の多くは非常にモラルが高く、彼らの献身的な努力により日本の医療レベルの水準が保たれていると私は信じている。一部の医師のモラルの低さや傲慢さが余りにも注目され、マスコミによりミスリードされているのではと苦慮している。
現場で実際に働く多くの医師は、患者さんの健康回復という夢のために腕を磨き、時間と労力を捧げている。私利私欲のために医師稼業をしているのは圧倒的少数派であることを国民はもっと理解し、国民全体で心ある医師や医療スタッフを支えていくことこそが安心できる医療を築く唯二の道であり、ハイテクによる医療システムに、最終的には答えはないと私は考えている。