魂を売らないということ③ 魂の維持費

 

2005.5~2006.3

魂を売らないということ③  魂の維持費 

ばんぶう

2005.7

日本医療企画


「医者と弁護士と坊さんは、特に誠実でなければならない。なぜならば『人の不幸をもとにしての職業』だから」。私が尊敬している友人の医師Nさんが生前よく言っていたことである。私自身、職務に苦しくなって「少しぐらい魂を売ってもいいかな」と思いたくなった時に自分に言い聞かせる言葉である。彼のことはこのエッセイで以前に紹介したが、アルツハイマー病の世界的研究者であり、47歳の若さで胃がんにて他界した。その晩年、私は彼の病床で「そうは言っても長く生きていると、お互い徹底的に許せなく嫌な人間ができてきたよね。努力して自分がつくる薬や医療の仕組みがそんな人たちをも同様に助けると想像したら、最近では熱意が急に冷めそうになる気がするんだ」とこぼしたことがある。彼は「そうだね」と笑って同意した。
 その時、医学研究者として鋼鉄の熱意を持つNさんでも、私のような凡人と同じように感じることがあるのだと安堵したものである。「問題は、そういった気持ちをどのように処理して熱意信念を持ち続けるのか、ということだね」と話し合った。その時の答えは、同じ信念を持った仲間だけを見つめることかなあ、ということだったと記憶している。この辺のことが魂を売らないで維持していくことのコツなのかもしれない。
言い換えれば、魂を維持していく費用は相当なものになるということになる。そんな信念を持った仲間を探すのは-朝一夕にはいかないからである。一般に物を維持するには「保存」「手入れ」が必要である。そして何より大事なことは、その物を日常的に適度に使い込むことも大切である。万年筆でも、車でも、家でもそうである。使わないで置いておくだけだとかえって痛みが早いものである。また、使いすぎもいけない。
こうなると物よりはるかにデリケートな魂は制作費より、維持費のほうが高くつくことになりそうだ。神様は、魂の維持可能期限を最大でも80年くらいに設定したのかもしれない。

    

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