アタッチメント ベビーマッサージ

感性豊かで

幸せな子どもに育つ

アタッチメント

ベビーマッサージ

 寺下謙三 監修

 一般社団法人日本アタッチメント育児協会        

代表理事 廣島大三 著

 2010/7/20

 株式会社保健同人社


親と子どもの心の絆を育てるために…… 特別寄稿 寺下謙三

 

ベビーマッサージは“無条件の信頼のキャッチボール

 

 

子どもはあっという間に育つ……だからこそ

 

 

児童心理学や発達心理学の専門家でもない私が、日本アタッチメント協会代表の廣島さんとご縁が出来て、育児の分野でもお仕事のお手伝いさせて頂く機会に恵まれました。「恵まれた」という言葉が、まさに意を得ていると思っています。何故なら、昔から(どのくらい昔なのかというと、判然とはしないのですが)子供が大好きで、子供の教育に携わりたいとずっと願っていたからです。いつか、医療分野の本来の仕事が落ち着いたら、ボランティアで「子供向けの夢とやる気の育成塾」みたいなものをやりたいと空想のみが膨らんでいたのです。しかし、「いつか、、、たら」などという「たられば」思考では、いつまでたっても思いは実現しないものです。そもそも「医療分野の本来の仕事」自体がそう簡単に、落ち着く訳がないのです。やりたいことは、出来ることから、その折々少しでも実行していくことが大切だと思います。このことは「育児」や「子育て」にも言えるのではないでしょうか。「いつか仕事が落ち着いたら、子供とゆっくり触れ合おう」とか「あの幼稚園に、あの小学校に入ったら、ゆっくり遊ばせてあげよう」と、先延ばしにしているうちに、あっという間に子供は大きくなり、心の間隙はどうしようもなく広まりすぎているかもしれないのです。

 

 

親子の関係が心の問題の要素の一つに

 

 

私は、医学部を卒業後、脳外科を皮切りに、内科のいろいろな分野の研修を行い、特に心療内科に興味を持ちました。長年の臨床医の経験から、国民が安心でき得心がいくためには、個々の医療技術だけではなく、医療の仕組みの向上が必要だと考えました。そんな中で、「医療の決断支援」が大切なことだと思うようになり「医療判断学」という古くて新しい分野の考え方を提唱するようになったのです。最近の日本では、様々な選択肢が出てきて、豊かになった医療技術ですが、その分、迷いも多くなります。迷い、後悔していては「幸せな医療」になりません。多くの悩める患者さん方の「医療決断相談」をしていると「こころ」の重要性を再認識せざるを得ません。そして、病気の相談をしているうちに、ご本人だけではなく、家族との関連性が同等に重大な要素であることに気付きました。親の病気のことで心配する子供たちは当然のことながら、成人した子供たちの心の問題で悩む親たちが意外と多いのです。

子供にとって、小さい頃に親と充分に触れ合うことが大切なことは、誰でも分かっていることでしょうし、この本の主題でもあります。子供に愛着を持って接していれば、前述のような子供の心の問題は全て回避できる訳ではありません。しかし、確実に言えることは、今、社会的で問題になっているような、子供の非行や暴力、犯罪の増加を少しでも食い止める役割を果たすであろうということです。

 

 

子どもは「親」を通じて社会と接する

 

 

最近、「子供手当」支給のことが政策として取り上げられ、いろいろな物議をかもし出しています。「子供は社会のもので、社会が面倒をみてあげないといけない」という考えからの発想です。自分の子供のことだけに固執する親が多くなった昨今、社会における子供たちを考える必要があり、実にその通りだと思っています。しかし、勘違いをしてはいけない部分もあると私は考えています。子供は生まれていきなり社会と直接接するのではなく、他の動物たちと同じく、しばらくの間は「親」を通じて社会と接していきます。「俺はあんたたち親ではなく、社会に育てられたんだから、偉そうなことを言うな」と子供に言われたらとんでもない事になります。まずは親との安心できる絆があってこそ、こどもの心は健やかに育ち、社会に対しても寛大にかつ感謝の気持ちで接することができるようになるのです。

「ベビーマッサージ」「子供とのアタッチメント(愛着)」は難しく考える必要はありません。勿論、多少の技術的なことを覚え習得しておくにこしたことはありません。本書は、当然そのためにも書かれています。でも、大切なことはその心構えです。パソコンの解説書なら、いくらPCに愛情を持っていたとしても、マニュアル通りにしないと、上手く作動しないと説明しますが、ベビーマッサージでは、愛情を注いでいれば多少マニュアルから外れていても通じるものです。反面、いくらマニュアル通りに行ったとしても、根底に愛情がなければ、本来の目的は叶わないのです。

 

 

ベビーマッサージは、穏やかな安定したスキーマの土台になる

 

 

子供であれ、大人であれ、私たちのこころにはいくつかの原則があります。ある出来事や場面に遭遇した時、ある「考え」が浮かび、ある「感情」が形成され、それらに関連して、ある「行動」が惹起されたり制約され、時には「身体症状(体調不良)」が出現します。つまり「考え」「感情」「行動」「身体症状」がお互いに密接に関係し合っているという訳です。そして、これらの「考え」や「感情」の生じかたは、人それぞれに異なってくるのです。ある人は、楽観的に、また別の人は悲観的に、時には強迫的に、被害妄想的に、誇大妄想的になります。ある出来事に対して、自動的に反射的に浮かぶ「考え」は、それぞれの人に固有なものです。その根底にある潜在的判断基準が「スキーマ」や「根底信念」と呼ばれるものです。この、「スキーマ」は、生まれてから幼い間に、大部分が形成されると言われています。だから、親からの愛情に満ちたアタッチメントやベビーマッサージが、穏やかな安定したスキーマ形成の土台になると私たちは考えているのです。

 

ベビーマッサージは「無条件の信頼」 のキャッチボール

 

 

そして、もうひとつ大切なことがあります。このスキーマは、その多くは幼い頃に形成されますが、大人になっても少しずつ修飾を受けていきますし、大事件を経験し大きく塗り変わることもあります。子育ての時期の両親は、社会に出て間もないことが多く、子育て以外にも多くのストレス環境にいます。実は、ベビーマッサージは、親から子供への一方通行の愛情表現ではないのです。マッサージを受けて気持ち良さそうな顔を見たり、可愛い笑い声を聞くことにより親も癒されるのです。子供たちは「ありがとう」「安心しています」「気持ちいいです」とこころから言っているのです。こういった無条件の信頼の返信は、親が勤めている職場などではそう簡単には得られないものです。「無条件の信頼」こそ、私たちの心を癒してくれます。つまり、親の「スキーマ」の安定化にも役立っているのです。

私もそのことはよく知っていますが、私自身の未熟さゆえに滅多なことでは職場で上司や部下に対して「無条件の信頼」を表すことができません。勝手な憶測で申し訳ないのですが、世の中の多くの人がそうではないでしょうか?ここで、「無条件の信頼」を「完全な信頼」と勘違いしないでほしいのです。「完全な信頼」は「間違わない、いつもよい結果を生む信頼」と理解すると分かりやすいでしょう。結果がよければ、嬉しいのは誰にとっても当たり前のことです。「完全な信頼」をお互い期待し合うと、人間関係にほころびが生じやすくなります。「無条件の信頼」では、「結果のいかんにもかかわらず」得心のいく「信頼」のことです。私たち医師が患者さんとの関係で最も望んでいる理想です。

すなわち「ベビーマッサージ」の真髄は、この「無条件の信頼」のキャッチボールにあるのではと私は思っています。

    

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