寺下謙三 寺下医学事務所長(内科医)に聞く

 

特別インタビュー

寺下謙三 寺下医学事務所長(内科医)に聞く

近代セールス

1994.5

近代セールス社


金融機関の経営者にもホームドクターをお勧めしたい

総合医療相談とキメ細かさで新システムに挑戦

日本の医療には馴染みの薄い「ホームドクター制度」を広めようとする動きが出てきた。寺下医学事務所がその推進母体。そこで寺下謙三所長に、その狙いと具体的なシステムについて聞いてみた。

メディカルルネッサンス運動の狙いとは
寺下医学事務所というのは主侍医(契約顧問医)制の普及を中心に、医療のシステムづくりを通じて世の中に貢献しようという趣旨で活動されているそうですね。
寺下
そのとおりです。主侍医とは ″ホームドクター”とも言えるわけですが、このシステムは本当は国によってつくられるといいと思っています。しかし現実には様々な問題がある。それなら私がまず実践してみようということで始めたわけです。
なぜ、主持医制なのでしょうか。
寺下
昨年の暮れ、同友館から「主侍医制度 (ホームドクター)」という本を出版させてもらいました。その記念パーティが先日開かれまして、そのテーマにも取り上げたのですが、私の意図するところは「メディカルルネッサンス」運動、つまり医療の原点に戻ろうということです。
「高度な医療から豊かな医療へ」というサブタイトルをつけました。今、日本の医療レベルは世界的に見てものすごく高い。一定の保険料に対して受けられる医療水準がいかに高いものであるか。
しかし、その割に安心している人は少ないのが実情です。タレントの逸見政孝さんのようになったらどうしようとか、患者と医者の関係でも不安の材料は尽きません。
一方、日本の医療技術は心臓移植もできる、遺伝子治療もやろうと思えばできるところまで高度化しています。
世の中のいろいろな分野で、高度なシステムから豊かなシステムヘの移行が言われていますし、それらに比べて医療は遅れたけれど、まさに今、豊かさを求める時代に入ったと思っているわけです。
患者と医者の新しい関係を築く
具体的に何が問題なんでしょうか。
寺下
大きく分けて三つあると考えています。一つは、患者と医者の新しい関係の構築が必要だということです。これまでの主治医、保険制度、患者と医者の関係というのは、病気になってから生まれる、あるいは機能を発揮するものでした。
しかし、逸見さんの問題が指摘したように、それでは不十分です。
まず予防医学に重点を置き、総合的に人間的に診るシステムが求められています。もちろん病気の時には迅速・正確に専門医にアクセスできるシステムです。こういうことがきちんとできるシステムがあれば、医療費の節約にもつながります。医療費は無限大ではないことに目を向けなければいけません。
二つ目は、医療の品質管理ですね。これができていない。
マーケティングを知っている人ならお分かりだと思いますが、自動車にしても家電にしてもQC (クオリティ・コントロール)はできていますね。10年前には、QCができていないのは教育と医療だけと言っていた人がいましたが、教育でも受験産業で見たらQCは進んでいるわけです。
医療の場合、「医者を選ぶのも寿命のうち」と言われるけれど、なかなか選べませんね。大病院に行けば、どの先生にあたるか、運・不運もあるでしょうし、極端に言うと、その先生の気分のいい時に会えるかどうかも分からない。こんな品質管理の世界なんて他にはないでしょう。
受験産業やアメリカの民間医療保険のように、ここの受験ならこの学校とか、この保険はこの病院と決まっていれば納得できると思いますが、日本の医療保険はみんな同じです。同じような料金体系でありながら、異なる品質の医療を受ける。それでいいのかということです。
建て前としては、すべての医者の実力は同じだということですが、実際は違うわけです。
ここでの問題は、第三者による医者の自己評価システムがないこと、これが一番です。
これはどうしてかと言うと、私も含めて医者の権利が強い、保護されているからです。そんなに実力はなくても肩書きだけで一生安泰だなんて、トヨタなら何でもいいと言っているようなものです。しかし、現実にはそんな売り方は通用しない。
ですから、医療の世界にも品質管理の発想を持ち込んで、自己研鑽しなくてはいけないシステムを創っていくべきだと思ます。
もう一つの問題はどういうことですか。
寺下
今の世の中、専門から総合へという考え方がありますね。リエンジニアリングもそうですが、これからの時代は全体を総合的に見られる人が求められています。
医療の世界にも、これは言えることです。みんなが総合化すると専門家がいなくなると心配する人もいるでしょうが、ほっといても専門医は育つから、むしろ総合臨床医を育成しなさいということです。
これらの三つをポイントとして、メディカルルネッサンス運動を提唱しているんですよ。
教警備保障会社の医療版をつくる
主侍医制のセールスポイントはどこにあるんでしょうか。
寺下
『主侍医制』の中にも書いたんですが、防犯と予防医学を比較すると、医療も警察も公的な制度としては世界のトップレベルにあhソます。ただ、警察制度を見ると、その横能が特に発揮されるのは犯罪が発生してからですね。もし、予防の面でも十分にシステムが機能していれば、民間の警備保障会社の今日の発展はなかったと思います。
また、犯罪発生後のシステムが完璧だったからこそ、予防システムが発達したと言えるかもしれません。
なぜかと言えば、犯罪や事故を未然に防止する手を打ち、万一の時にはすみやかに警察に通報し被害を最小限に抑えるようにするからです。
医療は、この警察のシステムに比べても10年から糾年は遅れています。その民尉警備会社はあたるのが、私の考えている主侍医制じゃないかと思うわけです。
今ではホームアラームシステムとして月々2~3万円払えば一般家庭でもサービスが受けられますが、スタート当初は大企業が相当のペイを出して支えたという側面もあると思います。
私の場合も民間版のシステムを創り、広めようと思ったんですが、やはり最初のうちはコストがかかり過ぎる(笑い)。
ですから、私がやろうとしている主侍医制に対して理解していただける法人なり、オーナー経営者の方々から賛同者を募っているところです。
顧問医契約は現状、法人やオーナー経営者に限っているそうですね。対象となるクライアントは今、どのくらいになっているんですか。
寺下
一応100人を目標にしていますが、今現在は29人です。契約者1人につき月5万円の顧客料としていますが、人数的には他の病院との兼務では100人が限界ですし、月々500万円くらいの運営費がないと専用の事務所とスタッフで、医者としてのプライドを失わずにやっていけないでしょうね。
コンサルティングの中で紹介できる専門医のネットワークには、100人くらいの協力者がいるそうですね。
寺下
そうです。今のところ、私の個人的なネットワークが主ですので、はとんどが東京にいる方々ばかりです。
金融機関の研修にも医療教育を
金融機関が法人契約をしているケースはありますか。
寺下
金融機関からのアプローチはこれまでのところ、まったくありません。
ただ、大手の銀行の中に応援してくれる方がいらして、自分のところの銀行の顧客サービスの一つとして、得意先に私のところを紹介していただいているケースもあります。
先程も言いましたように、顧問医契約は法人を中心としていますし、また確実な紹介がなければ受けないことを原則としていますので、誰でもいいというわけではありません。私の考えに一定の理解を持っていただける方でないと、トラブルが発生する恐れもありますしね。
法人ということで考えるならば、金融機関の取引先には中小企業などのオーナー経営者も多いですから、差別化メニューの一つとして金融サービスの中に取り入れることも可能かもしれませんね。
寺下
その点はもう少しホームドクター制度が広がりを持ちはじめたら、面白い展開があるかもしれませんが、現状では難しいのではないでしょうか。
むしろ、金融機関に望みたいのは、これは金融機関に限ったことではないんですけれど、企業内教育にぜひ″医療教育″を取り入れて欲しいということです。
医療は保険証1枚あればタダみたいな考え方は改めていただいた方がいいし、健康なうちから医療に対する知識やシステムの実情をよく理解しておくことが企業人にも必要だと思いますね。
金融機関の経営者の方々はおそらく「主治医」をお持ちだと思います。やはり、「主侍医」をお勧めになりますか。
寺下
そうですね。主治医と患者の関係というのは病気をして初めて発生するケースが多いわけですが、主治医の専門外の病気になると相談できなくなるとか、偉い方すぎて普段の相談はできないとか、そういうことが往々にしてあるんですね。
その点、主侍医は顧問医とクライアントの関係もイーブンですし、キメ細かく幅広く相談できる点が大きく異なります。自分で言うのもおかしいですけれど、医療の世界で総合的に相談に乗れるようになるには、ものすごい努力が必要です。
金融機関の経営者の方にも、ぜひホームドクターをお勧めしたいですね。
クライアントになると、どんな医療サービスが受けられるんですか。
寺下
基本的な相談システムの他にも「ホームメディケーション」や「赤ペンドクター」、「寺小屋セミナー」など、いろいろとあります。
この中では、「健康医学塾」というのがウケていますね。昨年の9月から月2回くらいのペースで、専門医をゲストに呼んで開いているんですが、寺小屋みたいな生きた勉強会、というよりむしろ相談会といった方がいいかもしれませんが、これが人気を博しています。
できるだけ、いろいろな試みをやっていきたいと考えているんですよ。
    

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