予防しよう!明日の大病

ここがポイント30代 40代 50代の健康管理

予防しよう!明日の大病

東洋経済

1996.1

東洋経済新報社 発行


健康にまかせた飲食や運動不足は、確実に明日の大病を招く。日々どう過ごしたらよいか

「忙しい、忙しい」と、健康診断もつい後回しに働き続けるサラり-マン。この無謀な生活を続けるうちに、本人の知らぬ間に、大病がしのび寄ってくる。本当に良い仕事をしたければ、今年こそは「健康第一仕事第二」の精神で、自分なりの“健康哲学”を持ち、これまでとは全く違う人生を歩んでみてはいかが。体は人によって千差万別。かの松下幸之助氏は、病弱にもかかわらず長年の激職をこなし、九四歳の長寿まで得た。これは彼が自分の体を正確に理解し、管理していたからだと主治医は述べている。
 病気の初期の自覚症状は意外に少ない。多くの医師が語るところでは、目に見えない自分の日常の健康状態を、しっかり“見て”、それをコント口-ルするインテリジェンスが大切だという。日常的にどう健康管理をしていくのか、以下、「予防医学」の重要性を説く寺下謙三医師による健康管理の要諦である。

病気というのは、実は細胞レベルの遺伝子でほとんど運命が決まっていくのです。しかし、遺伝子レベルでの医学的な運命とは、いわばピストルに弾丸が込められているか、いないかです。これは体質ともいえるものです。
 かたや、毎日の食事、運動、心のもちようなどは、遺伝因子に対して環境因子と呼んでいます。こちらはピストルの引き金のようなものと考えればよいでしょう。
 単純にいえば、つまりピストルに弾が入っていなければいくら引き金を引いても大丈夫ですし、また弾が入っていても、引き金を引かなければ病気にならないということです。
ただ、世の中には例外もあり、ピストルは暴発もします。遺伝的に体が強いと思っていても、何らかの支障が出てくることもあるので油断は大敵です。
 未来の危険予想をして危険回避ができる人は、どの分野でもインテリといえます。リスクヘッジということです。健康管理の仕事をしていると、三五歳以上の人は、大体半数の人が何らかの成人病予備軍としてひっかかってきます。しかし大抵、自覚症状がないので、注意をしても忙しいのに仕事の邪魔をするなといった気まずい雰囲気になります。しかし痛くもかゆくもない時に、リスクを自分で察知して、行動をとらないといけないのです。健康管理について、自分だけは大丈夫というサラリーマンはものすごく多いのですが、皆さんにはバランスのとれた健康管理をしてほしいと思います。
 健康に気をつけていますかと聞くと大抵、三つの答えが返ってきます。
第一に、人間ドックを受けている、第二に運動をしています、第三に食事に気をつけていますというものです。ぼけないように英会話をやっていますという人もいますが、これは脳味噌の健康を考えているわけです。しかしここにもう一つ付け加えて、教養として医学知識を勉強してほしいのです。それと重要なのは、自分が安心して信頼できるお医者さんを知っておくことでしょう。
人間二〇代まではおおむね健康に過ごせるようにできています。いろいろな無理も利く。しかし二〇歳を過ぎると、頭の中は二〇代でも体がかなり変わってきている。
 実は医学データによると、飛行機に例えれば二〇歳までは上昇過程、二〇歳からは下降していきますが、まだ大きく下がっていくことはない。しかし三〇歳からは、いかに自分の健康を将来に向けてソフトランディングさせていくかでしょう。これは人生を通じてのテーマで、時にはエアポケットで落ちることもあります。
 三〇代最大の問題は、二〇代のイメージの名残りがあることです。まず自分の体力を知ることです。
 僕の経験からすると、四〇代からの突然死には心筋梗塞が多いのですが、三〇代の前半には、原因の分からない突然死が一番多いような気がします。
 突然死する人は、解剖してみると副腎というステロイド・ホルモンを出すところが委縮していることが多いと聞きます。ストレスがあると、そのホルモンがストレスを跳ね返そうとして出てくる。体にムチを打つホルモンです。これを使い過ぎると、それが出なくなってストンと死んでしまうと考えています。
 三〇代は体の変化と、実際に自分のやっている行動に乖離が生じやすいのです。
 普通二〇代までは健康なわけですから、その状態からの変化を少なくするように健康を管理することです。それには、自分の健康な時の体の状態を知っていなければ、比較できません。例えば、体重一つとっても、いつから太ってきたのか、正確にいえるでしょうか。体重は健康管理の重要なバロメータです。
 健康な時の数値からの変化が問題で、これが大きく変化した時、自分の体力がガタっと落ちたと感じるわけです。
 健康という飛行機の高度はなるべく高く保ちたいものですが、年齢とともにゆっくりと高度が下がってくるのではなく、階段状に落ちることが多い。

 三〇代をどう過ごすかで、五〇代、六〇代の肉体のソフトランディングの方向が決まってくる。三〇代はそのための基礎段階です。具体的には三〇代では高脂血症、アルコール性肝障害、肥満傾向などが問題になりやすい。

四〇代は仕事がバリバリできるようになりますが、会社で上下に挟まれ精神的なストレスが一番ある。そのストレスをどう処理するかが最大のポイントでしょう。
 ストレスでタバコを吸わずにいられないとか、アルコールに走る場合も多い。女性の場合はストレスから食に向かう。これらをストレスによる行動反応といいます。心理反応としては不安になったり欝
うつになったりする。そしてストレスの身体反応としては潰瘍など実際に体の変化が起きます。本人は不安もなく行動も変わらないのに、胃がやられているということもあるのです。自覚していないのにそういうことが体に起こる。四〇代に、そういう事例が多いのです。
 四〇代になると仕事が極めて忙しいわけですが、健康管理のために時間を作ることが大切です。それは自分自身のタイムマネジメントです。
日本人は忙しいことを自慢しますが、それはその人に能力がないことです。処理能力が低いとか、タイムマネジメントが下手であるとか。自分の時間をきちっと生み出すことこそが能力です。寝る時間もないなどという人もいますが、これは実は情けないことです。食べる時間、寝る時間は健康管理のうえで基本的なことです。
 僕は四〇代ですが、火曜日の夜はテニスをやることにしています。この予定は動かさないことにしているが、仕事が入ると、「テニスをするから」では理由にならないかとやはり思ってしまいます。しかしこれは自分の健康管理であり、夜の自分の時間でやるのですから、本当は立派な理由なのです。四〇代になったら自分の心の健康管理も含めて、自分の時間を作る練習、方法を編み出していくことでしょう。社会は個人では簡単に変えられませんが、自分の未来は変えていけるのです。
 三〇代後半から四〇歳ぐらいに急に体に脂肪がつきやすくなり、同じ量を食べても太りだし、内臓型肥満になりやすくなります。原因は分からないが、脂肪細胞が内臓の周りに蓄積しやすいのです。
 内臓型肥満は皮下脂肪型肥満と違い、成人病の危険因子の一つですが、四〇代にもなると、急激にその内臓型の脂肪がたまりやすくなる。また成人病の代表である糖尿病や高血圧、高脂血症も初期発症として四〇代に出てきます。
これは将来の心筋梗塞、脳卒中につながります。
 四〇代後半ぐらいから健康管理の積み重ねが外見からも個人差として分かるようになる。人によって年齢と健康状態に個人差が出てきます。
 五〇代は何事も成熱してくる時期です。四〇代から病気の出ている人は長期治療になってくるし、薬の副作用も気になってきます。ガンなどもこの年代から出やすくなってきます。サラリーマンは六〇歳で退職しても、それからの人生は長い。そのためにも、体の再度の調整をする年代です。ここまできたら仕事に焦ってもしようがないし、六〇歳以降を自由に楽しく生きるための心と体の健康を考えることです。
 退職の前に一回、体を人間ドックでチェックすることもお勧めしたい。これには二つの意味がある。一つはガンなどの大きな病気がなければ、それが安心につながるということ。これは何事にも代えがたい。二つには、五〇代ともなれば、コレステロールなど幾つかの数値に問題が出てくるでしょうが、今後の生活への警鐘やアドバイスになる。
 人間ドックはオーダーメードでやることを勧めます。遺伝的に糖尿病の問題があればそれを詳しくやる。
そしてその人間ドックの結果を基本材料にして、問題となる症状があれば、さらにそこを追加して診てもらう。人間ドックを自分の健康管理の指標として使うのです。
 五〇代になると全体として体の機能が低下してくるが、最近では生活レベルの向上で、ガクっと体力が落ちるようなことはなく、安定した年代のようです。しかしいったん、病気をすると崩れやすい年代であることには注意すべきでしょう。三〇代なら回復も早い。体力、それに気力がある。しかし五〇代の場合はそうはいきません。退職、そして明るいパワフルな老後に向けて、大事に過ごす準備の時です。     (談)

    

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