現代病トレンド

 

メディ スコープ

現代病トレンド

はいたっく

1998.8

日立製作所 発行


今月は、「現代病トレンドその1」として最近注目されている病気の話題についていくつか解説します。

  1. パニック障害症例紹介
  2. 胃の病気とピロリ菌
  3. 「生活習慣病」

1.パニック障害症例紹介

◆患者さんの訴え

営業部のAさん(32才、男性)。最近、営業成績が上がらず嫌な上司に毎日小言を言われる。
不眠と過労が続く。ある朝、通勤電車の中で急に呼吸困難、動悸、めまい、手足のしびれ、冷や汗が出現し病院の救急外来へ行ったが、心電図などの検査も異常はなく「過労でしょう」とのこと。
その後、電車の中でたびたび同様の発作が出現するので、恐くて電車に乗れなくなってしまった。

◆Dr.KENZOの解説

最近、外来で診療しているとこういった訴えで来る患者さんに出会うことがしばしばです。この病気は今までは不安神経症や閉所恐怖症などとして扱われていた場合が多いようですが、現在では自律神経系の過敏な反応により発作を起こすと考えられています。ストレスや過労がたまるうちに交感神経が過敏となり、なにかのきっかけで、呼吸困難、めまい、動悸、発汗、しびれ、胸部不快感、吐き気、死への恐怖感などの発作がおこります。一人になるときや乗り物などに乗ることをきっかけとして発作を起こすことが多く「また発作を起こすのでは」という不安感(予期不安といいます)のため外出や乗り物に乗ることができなくなります。はた目には健康そうに見えるのですが、本人はかなり辛いものです。早期治療が大切で、精神科・心療内科的訓練を受けた医師のもとにより早く相談に行くことが望まれます。ある種の抗不安薬がかなり有効です。「精神的な疲れですから、気を楽にしていれば大丈夫です」の一言で片づけると慢性化し、やっかいなことになります。適切な治療を行うと3カ月から1年くらいで乗り物にも一人で乗れるようになります。
 なによりも予防的に、日頃からストレスの解消法を身につけ、過労にならないような生活リズムを作っておくことが大切です。

2.胃の病気とピロリ菌

繰り返す胃潰瘍や十二指腸潰瘍はピロリ菌というかわいい名前の細菌が原因らしいということが分かってきました。また、ごく最近の研究では胃ガンとも密接な関係があるらしいことも指摘されるようになりました。しかし、まだ、最先端の研究段階なので、安定した治療成績の報告などは今後の報告を待ちたいところです。現在でも血液中のピロリ菌の抗体を調べたり、胃内視鏡で胃粘膜の一部を調べることでピロリ菌の感染の有無をチェックすることは出来るようになりました。ただ、ピロリ菌があるからといって必ず胃潰瘍があるとは限りませんし、その逆に胃潰瘍があってもピロリ菌が原因だと断定はできるわけではありません。
 ピロリ菌の治療に関しては、新薬は開発中ですが、現在使われている薬剤の組み合わせでもある程度有効なようです。
 日本では現在('98年8月)、このピロリ菌の検査や。療に関しては保険で認められていないので、自費で賄わなければなりません。私の経験では胃潰瘍や胃炎の慢性的症状があり、ピロリ菌の存在が確かめられた患者さんにおいては、9割以上の方が治療効果の快適性に満足しています。
 でも、費用の点(検査・治療で5、6万円程度)、薬の副作用、再発などの問題点がありますので、専門医と十分な相談をしてから、治療方針を決定するべきでしょう。
 現在のところは、単なる潰瘍や胃炎の治療でも良いし、上記のピロリ菌治療を試みても大きな間違いにはつながらないと私は考えています。近い将来、胃炎・胃潰瘍の治療、胃ガンの予防のためのピロリ菌治療モデルができることを期待しています。

3.「生活習慣病」

ガン、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などのことを厚生省の諮問委員会の勧告で「成人病」改め「生活習慣病」と呼ぶようになり、ほぼ2年間がたちました。
 もともと「成人病」なる言葉は医学用語ではなく、厚生省などで使われる行政用語です。私なども、英訳の仕事の際、「成人病」をなんと訳するか困ったものです。アダルトディジーズではなんかピンときません。
 今回、「生活習慣病」と呼ぼうということになった理由は、「成人病」といえば、「40才以降の年配の病気」というイメージが強く、若い頃からの予防が大切という予防医学の主旨に反するということと、増加しつつあるガンや心筋梗塞などを予防するのに、生活習慣の総合的対策が国家的レベルでも必要だということを強調したかったからなのです。
 実際、若年者の肥満や高脂血症も増え、子供成人病という不思議な言葉も聞かれるようになりました。また、ガンの発症の若年化もみられ、長寿化はいいのですが、有病率の高さも伸びることになり、そのため医療費はウナギ昇りの状態なのです。その結果、今回の健康保険の改正のように国民の負担が増加するのです。なるべく医療保険は使わないで、普段の健康管理を強化することが、結局は個人の負担の減少につながるのです。喫煙をはじめとする、悪い生活習慣は現在発症している病気の9割以上の原因となっているという報告もあるほどです。これは、決して誇張ではないと私は考えています。
 昔から「快食、快眠、快便」が健康の象徴といわれますが、「医食同源」といわれますし、「睡眠不足に効く薬はない」といいます。また、「腹も身のうち」とも言われます。健康管理も温故知新なのです。
 政治家や大企業が「横暴、癒着、搾取、勉強不足、人間性不足」を反省するべき事件が連続するさなか、「暴飲、暴食、喫煙、運動不足、睡眠不足」に代表される悪生活習慣をまじめに見直す時が到来したのです。

    

Copyright ©2013-2020 Terashita Medical Office Allrights All rights reserved.