腹痛あれこれ

 

メディ スコープ

腹痛あれこれ

はいたっく

1998.7

日立製作所 発行


今回は腹痛を主訴とする病気のうち代表的な4つの病気を解説します。

  1. 尿路結石
  2. 急性膵炎
  3. 過敏性腸症候群
  4. 急性腸炎

1. 尿路結石

◆症例

会社員の男性Mさんは昼頃より右背部の鈍痛を自覚していたが、仕事中のためとりあえず様子をみていた。夕方より痛みは右脇腹に移動し、転げ回る程の強い痛みとなったため近くの病院にかけ込んだ。身体所、尿検査、レントゲン検査及び腹部超音波検査により尿路結石と診断された。

◆病気の説明

尿路結石とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道等の尿路のどこかに、なんらかの原因により石ができてしまう病気であり、結石による尿路の閉塞が生じると痛みが出現する。一般に、腹痛の症状を訴えて病院を受診する患者は多く、かぜに伴う軽症の場合から腸閉塞や胆石など緊急手術を要する重症まで多岐にわたる。尿路結石による腹痛は比較的頻度が高く、強い痛みのことが多いが内科的治療により劇的に改善することも多く水腎症や尿路感染症などの合併症さえ起こさなければ比較的軽い部類に属する疾患と言える。その再発予防には薬物療法以上に食生活等の生活習慣の改善が必要である。

◆症状

主に片側の背中から脇腹にかけての急激な強い痛みで、太もも等に放散することも多い。血圧の上昇、頻脈、発汗のような自律神経症状や、吐き気やおなかの張りなどの消化器症状を伴うこともある。ほとんどの例に顕微鏡的血尿(肉眼には赤い尿でなくても顕微鏡で調べた血尿)を認めることから、典型的な症状と尿検査にてほぼ診断は可能である。また、発作時には大人でも泣き出したくなるような(?)痛みだが、東洋医学で腎愈・志室といわれる患側腰の圧痛点を指圧すると痛みがやわらぐので発作を繰り返す人は試してみると良い。

◆原因

尿道にできてしまう石の約80%は、はっきりした原因もなくできてしまうカルシウム結石である。それ以外の特殊な結石としては、痛風発作の原因ともなる尿酸析出による尿酸結石やシスチン結石といったものがある。

◆治療

まずは薬剤により痛みを除去する。発熱があり、感染症を合併している場合は抗生剤の投与が必要である。尿路結石の存在だけで38度以上の発熱をみることは稀だが、結石に感染を伴うと複雑性尿路感染症となりやすく治療も長引く。閉塞が強ければ外科的処置が必要になることもあるので、できるだけ早く病院を受診することが必要である。一般に5㎜以下の結石は自然に尿に排石されるため合併症がなければ保存療法でよい。すなわち水分を十分に摂り、適度な運動、及び食事療法である。原因のほとんどをしめるカルシウム結石に対しては、再発予防のための有効な薬物療法はないのが現状であり、井戸水は沸かして飲む、炭酸飲料、コーヒー、紅茶、糖分の多いジュース、酒、動物性蛋白、モツ類を控え、野菜類を多くとる、といったことを心がける。また、遺伝も関係するので、家族に尿路結石の既往がある場合には、上記の一般療法、食事療法にいっそうの注意を要する。尿酸結石やシスチン結石に対しては、ある程度有効な薬物療法がある。結石が大きく尿管などに詰まると、水腎症という取り返しのつかないことになるので早期の診断治療が大切である。また、8㎜以上の大きい結石に対して、最近、侵襲の少ない、ESWLという体外衝撃波による治療などが進んでいる。


2. 急性膵炎

新入社員のYさんは最近宴会続きの毎日で、昨日もしこたま飲んで帰宅した。明け方より急に上腹部の激痛を認め、意識も朦朧とした状態で病院にかつぎこまれ、緊急入院、集中治療室に運ばれた。

◆病気の説明

膵臓の急激な炎症により、普段分泌されている膵酵素が異常に活性化を示し、膵臓の自己融解を生じ、更にその変化が血液を介して全身に反応を来した物。
 重症の場合はショック状態となり、他臓器不全となって、死に至る。まずは、絶食、点滴加療と安静が絶対である。

◆原因

もともと胆石や胆道系の異常があって生じる場合と、アルコールや脂っこい物などの暴飲暴食により誘発される場合がある。

◆治療

急性膵炎の大多数を占める軽症は、炎症が膵臓の外に広がって合併症を起こすこともなく、入院による内科的な治療にて軽快に向かう。但し、発作を繰り返して炎症が長期にわたる慢性膵炎となってしまうと、膵臓が荒廃し、治療に苦渋する事も少なくない。原因がアルコールであれば禁酒が治療の大前提であり、飲酒を続ける限り病状は進展し続ける。
 胆石が原因となっている膵炎の場合は、膵炎の治療と並行して、胆石除去等の外科的治療が必要になる可能性もある。また、強力な内科的治療にても軽快しない重症例に対しても外科的治療が適応となる。


3. 過敏性腸症候群

◆症例

28歳のOLのKさんは数カ月前より会社に出勤すると腹痛が始まり下痢となる症状を認めている。週末になると改善する。3カ所の病院をまわり、血液検査や便検査、レントゲン検査等の精密検査をうけたものの「どこも異常ない」「気の病」「放っておけばよい」等と言われ、途方に暮れている。

◆病気の説明

腹痛や、便通異常などの消化器症状が長期にわたるものの、検査をしても腫瘍や炎症など原因となる異常の認められないことが本症の診断の基本条件である。治療の基本方針は、"腸の機能を戻すのは時間がかかるが必ず治る"といった病気への理解と生活習慣の改善、食事療法、心理療法、そして薬物療法である。

◆症状

腹痛は腸の運動異常の結果おこり、食事の直後や排便前に多い。下痢は1日数回から10回以上も認めることがあり、午前中に多い。血便はないがドロっとした粘液が排出されることがある。また同時に全身的な疲れやすさ、不眠、肩こり、冷えなどの自律神経症状を伴うことがある。

◆原因

元々の体質とストレスが第一の原因である。不眠や過労により増悪する。

◆治療

基本的なことであるが、生活を規則正しくし、食事の時間や排便時間を一定にするよう心がける。特に起床時や、朝食後は腸運動などが亢進しており排便を生じることが多い。十分な食物繊維をとることが特に便秘型で有効である。あまり脂っこい物は消化に時間がかかり腹部がはったり、便秘、下痢を増悪させる。ストレスの除去が一番だが、環境を変えることはなかなか難しいので自分が変わることである。気分転換をはかったり、ボランティアへの参加など自分にかまわず他人に尽くす、といったやりがいをみつけることにより軽快するケースもある。


4. 急性腸炎

◆症例

56歳の主婦Sさんは数日前から咳、発熱などの風邪症状を認め、以前医者から処方され余っていた抗生物質を自分で内服していた。一週間ほどたった頃から下痢、腹痛を認め来院した。

◆病気の説明

急性腸炎は様々な原因による急性の腹痛、下痢、などを主症状とする症候群である。その多くは細菌やウイルスによる感染性下痢であるといわれている。中でも特に、ウィルス感染、いわゆる風邪に伴う腸炎が頻度が高いが、実際は、検査をしてもはっきり原因が特定できないことも多い。上記症例は、安易に服用した抗生物質が腸の中の細菌層を変化させ、生じた毒素が腸粘膜を傷つけたことが原因となっており、ただちにその抗生物質を中止することが治療の第一歩である。
 原因の除去や保存的療法で完治する軽症から手術を要する重症まで、その病態にはかなり差がある。

◆症状

原因に関係なく、急性の下痢と腹痛が主なものである。吐き気や嘔吐をともなうことも多い。ほとんどが水のような下痢であるが、高熱、血便、頻回の下痢、脱水は重症の徴候である。

◆原因

感染性や上記の症例のような薬が原因となる他、飲食物(食中毒)や食事アレルギー、放射線障害、腸管を栄養する血管の急性閉塞などが挙げられる。

◆治療

基本的には腸管を休ませ、脱水を改善し、下痢や腹痛などの症状に対する保存的治療が中心である。上記のように、抗生物質を中心とする薬により腸炎が誘発された病態は、特に偽膜性腸炎とよばれるが、原因となっている薬をやめてもよくならない場合特殊な抗生物質を投与する必要がある。稀には、腸に穴があいたり、壊死などにより、手術が適応となる重症例もある。

    

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