2003年4月

「主侍医」の原点アポロ11号

カルテの余白

カルテの余白 ⑬

「主侍医」の原点アポロ11号

土曜 朝刊 (P.23医療)

2003.4

朝日新聞 掲載


アポロ11号に乗って、人類が初めて月に到着したのは1969年。今のパソコンと 同じくらいの性能のコンピューターが小さなビルほどの大きさだった時代のことだ。 そんな昔に偉業が実現していたことに改めて驚かされる。
私はアポロから9年後の78年に医師になった。脳外科の研修で脳腫瘍(しゅよう)の手術を経験し、がんの基礎を研究したいと内科に転向した。そこで、旧態依然とした大学病院の実態を目の当たりにし、84年、最先端の医療施設をつくろうと、仲間と研究組織を立ち上げた。
電子カルテ、医師間のコンピューターネットワーク、ICカードによる個人医療情報カード、医局以外の医師人事制度……様々な分野の人たちが加わり、深夜まで研究開発に没頭した。だが当時はパソコンもインターネットも普及していない。構想を練っても実現には大きな壁がある。そんな時、思い出したのが、アポロのことだった。 
アポロは既存の技術を上手に組み合わせて「未来の技術」を手にしていた。同じように、今ある技術や知識を上手に組み合わせれば、かなりのレベルの医療システムができるはず。
そして、提唱したのが「主侍医(しゅ・じ・い)制度」だった。治療を担当する「主治医」に対し、健康な時からそばにいるという意味で「主侍医」と造語した。「侍医の役割を顧問弁護士のような契約で」というスローガンは口コミで広がり、契約は50以上になった。 実験的な活動なので契約者数は限定しているが、余裕があれば公開相談会も開いている。


今回で私の連載は終わる。今後は情報提供を続けているホームページの場に移してメッセージを発信していきたい。
(内科医・医療判断医、寺下謙三)

 

睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)

カルテ10

呼吸器内科・耳鼻咽喉科・一部の歯科

睡眠時無呼吸症候群

(SAS:Sleep Apnea Syndrome)

NKH「健康ライフ講座」

2003.4

日本機械保線株式会社 社内報


睡眠中に呼吸の止まった状態が断続的に繰り返される、重度の睡眠障害一つです。

一般にいびきをかく人は少なくないのですが、無呼吸発作を繰り返すようないびきは、様々な問題を生じ、時には命にもかかわります。

症状

「大きないびき」と「昼間の眠気」が主な症状です。

一晩の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上、または睡眠1時間あたりの無呼吸を5回以上認めると、「睡眠時無呼吸症候群」と診断されます。

無呼吸を繰り返すと、血液中と脳で酸素量が減少し、十分な睡眠が得られないため、昼間の眠気や集中力の低下、頭重感などの症状が出ます。

酸素不足は循環器機能にも負担をかけ、不整脈、高血圧、脳卒中などの原因になりますし、日中の眠気は交通事故や産業事故を引き起こす可能性があります。

同じ部屋で眠る人から、睡眠中の体動が激しい、大きないびきをかいている、息苦しいあえぎやうなり声などをあげているなど指摘された場合は要注意です。

診断

最近は睡眠障害の専門外来が増えています。「アプノモニター」という酸素濃度を測定できる装置を自宅に持ち帰り、夜間装着して無呼吸の回数や血液中酸素濃度の低下の有無などをコンピューター解析して診断します。重度の睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、入院して脳波形、眼球運動、いびき音、心電図などを同時に測定する「ポリソムノグラフィー」という精密検査を行います。また、必要に応じて血液検査、心エコー、肺機能検査、耳鼻咽喉科的検査などを行います。

治療と対策

肥満、鼻中隔のゆがみ、ポリープ、扁桃腺肥大、蓄膿症などが原因となっていることが多く、特に肥満中年男性の場合は体重を減らすだけで問題は解決します。

上気道(鼻・副鼻腔、咽頭、喉頭、気管など)の閉塞が原因となっている場合、マウスピースの装着や、空気の圧力で気道を広げる「シーパップ」と呼ばれるプラスチックマスクの装着が有効です。重度の睡眠時無呼吸症候群では、喉を広げる手術などの外科的治療が必要となります。
睡眠時無呼吸症候群は、治療を行うことで生存率の改善はもちろん、活動的な日常生活を可能にし、不整脈、心肥大、高血圧などの疾患の改善も期待できますので、早めの対策が大切です。

かかりつけ医を応援します

カルテの余白

カルテの余白 ⑫

かかりつけ医を応援します

土曜 朝刊 (P.23医療) 

2003.4

朝日新聞 掲載


大学に在籍する後輩の医師から、こう打ち明けられた。
「研究や教育は、少し物足りない。患者さんを診察するのが好きなので、開業して診療に専念したいんですが、開業資金がないんです。」
患者さんの「大病院思考」が強い。高額の医療機器が充実していることも「安心感」をもたらすのだろう。だが、医療の質を上げるには、能力とともに情熱が必要。若い人材が机一つで開業しようとした時に支援できないか。こんな考えから今年2月、高額の機器を開業医が「共有」できる施設を東京都千代田区にオープンさせた。
磁気共鳴断層撮影(MRI)やコンピューター断層撮影(CT)などの医療機器をそろえ、開業医が利用する仕組み。開業医が自分で機械を購入しなくてもすむ。画像をみるのにも専門医が協力する。利用する開業医を1000人~2000人と想像しているが、現在50人~60人。患者さんの保険診療以外の特別な料金はいまのところ不要。
患者さんがいつでも検査データを引き出せる「どこでもカルテ」事業も考えている。実現すれば、セカンドオピニオンも受けやすくなる。
「医師は借金してはいけない。心のゆとりを持ってこそ親身で高度な医療に打ち込める」という私の持論の実現を目指し、患者さんに身近なかかりつけ医を支援しようと、スタッフ数人で小さな事務所を設けた。
まだ「家内工業」の段階だが、「手作りのスーパーカー工房」が目標だ。
小さいながらもスーパーカーのようなモデルを試作・実践してノウハウを公表。制度化を働きかけたい。
「変わった医者」と言われても、こんな医療へのかかわり方もあると確信している。

吹っきりのち復活⑫  ボーダーレスとけじめ

 

2002.5~2003.4

吹っ切りのち復活⑫

ボーダーレスとけじめ

ばんぶう

2003.4

日本医療企画


一年間「吹っ切り」ということを考えてきたが、いかに吹っ切ることが難しいかが、我ながら返って身にしみてきた。考えてみれば、今の世の中「ボーダーレス時代」といわれ、物事や場所などに境界が存在しないことを良しとする風潮がある。航空機事情が発達し、異国の間が短くなった。むしろ、「異国」という言葉自体がエキゾチックではなくノスタルジックな言葉に聞こえる。さて、このボーダーレスだが、文明の発達の証だと手放しに大歓迎するべきものであろうか。確かに、多くの分野で、ボーダーレスの概念は人間に幸せという価値を与えてくれている。バリアフリーやユニバーサルデザインという考えがその代表であろう。一方で、「けじめ」という、日本古来の考え方がある。日本中、いや世界中どこでも同じコンビニがあり、ハンバーガーショップがあることは安心で便利かもしれないが、「ここには絶対にコンビには無い」という町や国があってもよいと私は思っている。そんなことは、都会人や文明国のエゴだという御仁もいらっしゃるであろうが、ただ闇雲に、商売、ビジネスという名のもとに、世界中の片隅まで便利文明を「今やビジネスはスピード」とごり押しするのはどうであろうか。
 「けじめ」の辞書の説明の一つに「節度ある態度」とあった。私自身、自分で言うのもおこがましいが、どちらかというと「マルチ人間」で、境目の無い広い視野が必要だ、と日頃から主張している。その結果、私自身、医師であったり、作家であったり、医療ビジネスコンサルタントであったり、教師であったりと、多彩と言えばかっこよいが、ジプシーのような生活を送りほとほと疲れている。実は、これからの人生、少しけじめをつけてみようと密かに考えている。「ばんぶう」のこのコラムエッセイは、読者の方へのメッセージでもあるが、言うまでも無く自らへの警鐘なのである。

「ドクターミシュラン」は可能か

カルテの余白

カルテの余白 ⑪

「ドクターミシュラン」は可能か

土曜 朝刊 (P.23医療)

2003.4

朝日新聞 掲載


「名医ガイド」「病院ランキング」、医師や病院をランク付けして紹介する本があふれている。医療の世界にも評価制度が導入されれば品質も向上するはずなので歓迎したいが、「これは実際に役立つ」と納得できるものは、なかなか見つからない。
患者さんの医療判断を支援する私たちの活動に、信頼できる医師仲間を増やすことは不可欠だ。患者さんに紹介したり、一緒に診療したりするときに「自分が病気になったらこの人に診て欲しい」という医師なら安心できる。
仲間を増やすのに、知識、技術、そして人間性の三つを重視している。しかし、学閥のほかに、卒業年代、病院系列、医師会、医局などの閥がある。
情報の聞き先によって医師の評価は違ってくる。患者さんにも尋ねるが、「人間性重視」に偏りがちだ。
客観的な評価を求めていつも悩んでいる患者さんの医者選びは至難の業だろう。
私が頼りにしているのは、それぞれの医師の同級生からの情報だ。「物事や人に接する心構え」を聞く。学生時代に人のために尽くす人は社会に出ても変らないだろうと思うからだ。しかも学生時代の評価は利害が絡まないのでより信頼性が高い。同僚の医師や看護婦、患者さんらの情報も加える。そして必ず自分の目で確かめる。
 この20年で千人以上の医師に接触し数百人を自分のリストに載せた。信頼の絆(きずな)で結ばれてこそ、「あいつから紹介された患者さんだ。しっかり診て、きちんと返答しよう」となる。
 我々、医療判断医は患者さんの症状から、最初の見立てを確実に行い、適切な専門医にお願いする。
医師同士の緊張感のある信頼関係が広まれば、医療の品質がきっと向上するだろう。

医療保険柔軟な発想を

カルテの余白

カルテの余白 ⑩

医療保険柔軟な発想を

土曜 朝刊 (P.23医療)

2003.3

朝日新聞 掲載


今日から、サラリーマン診療を受けるときの自己負担が2割から3割に引き上げられた。

受診抑制につながるとともに、「先生、ついでにビタミン剤もください。○○の検査もお願いできますか」「はい。分かりました」といったやりとりも減るかも知れない。
 医療保険は元々、健康診断などのような予防医学的なことには使えない。
予期せぬ重い病気になったとき、家計に重大な影響が出ないように国民がお互いに支え合おうという仕組みだ。
 ただ、医療技術が進歩するにつれ、医療費は増え、保険料も高くなってきた。すると高い保険料を負担するからには、使わなければ損」という悪循環に陥る。これほど単純ではないとしても、保険財政を逼迫ひっぱくさせた要因の一つであることは否定できない。
 私たちは13年前から、自由診療を全面的にとり人れて、健康な時から何でも相談できる「主侍医」制度に取り組んでいる。かかった費用はすべて患者さんに払ってもらう。そうしてみて感じるのは、患者さんの意識の変化だ。
「その検査は必要なのですか?」
「その薬はまだ残っています。足りない分だけ下さい」。患者さんのこんな声が増えたのだ。
 財源が足りないから、医師にも患者にももっと負担してもらう---という政策には、医療の品質を上げようという哲学が感じられない。浪費は抑えられるだろうが、治療が必要な患者さんにも治療への敷居を高くしかねない。
 予防医学にも補助を出したり、患者の病状や経済状況に応じてきめ細かい設定をしたりできないか。英国の家庭医のように、健康な時から登録して一定の報酬を支払うような医療保険の創設など、柔軟な発想が必要だ。

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