医療保険柔軟な発想を

カルテの余白

カルテの余白 ⑩

医療保険柔軟な発想を

土曜 朝刊 (P.23医療)

2003.3

朝日新聞 掲載


今日から、サラリーマン診療を受けるときの自己負担が2割から3割に引き上げられた。

受診抑制につながるとともに、「先生、ついでにビタミン剤もください。○○の検査もお願いできますか」「はい。分かりました」といったやりとりも減るかも知れない。
 医療保険は元々、健康診断などのような予防医学的なことには使えない。
予期せぬ重い病気になったとき、家計に重大な影響が出ないように国民がお互いに支え合おうという仕組みだ。
 ただ、医療技術が進歩するにつれ、医療費は増え、保険料も高くなってきた。すると高い保険料を負担するからには、使わなければ損」という悪循環に陥る。これほど単純ではないとしても、保険財政を逼迫ひっぱくさせた要因の一つであることは否定できない。
 私たちは13年前から、自由診療を全面的にとり人れて、健康な時から何でも相談できる「主侍医」制度に取り組んでいる。かかった費用はすべて患者さんに払ってもらう。そうしてみて感じるのは、患者さんの意識の変化だ。
「その検査は必要なのですか?」
「その薬はまだ残っています。足りない分だけ下さい」。患者さんのこんな声が増えたのだ。
 財源が足りないから、医師にも患者にももっと負担してもらう---という政策には、医療の品質を上げようという哲学が感じられない。浪費は抑えられるだろうが、治療が必要な患者さんにも治療への敷居を高くしかねない。
 予防医学にも補助を出したり、患者の病状や経済状況に応じてきめ細かい設定をしたりできないか。英国の家庭医のように、健康な時から登録して一定の報酬を支払うような医療保険の創設など、柔軟な発想が必要だ。

    

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