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正しい判断と悪い結果
カルテの余白 ⑧ 正しい判断と悪い結果 |
土曜 朝刊 (P.15医療) 2003.3 朝日新聞 掲載 |
赤か黒か。
束ねられたカードの色に賭けるギヤンブル。どっちを選ぶか。
プロのギヤンブラーが教えてくれた。「赤に賭けなさい」。根拠は…彼は赤が20枚、黒は15枚と知っていた。赤の確率の方が黒より高い。しかし、私が引いたのは黒。果たして彼の助言は間違っていたのか?
医療の方針を決める場合にも確率に左右されることがある。賭け事に例えるのは不謹慎と言われそうだが、「不確実さ」をイメージしてもらいやすいよう、あえて単純な例示をした。医療の判断は「0点か、100点か」というものではない。多くの場合、60点と65点の差を慎重に比較して決断することを迫られる。
しかも、どんな判断をしても、結果を比べることができない。正しかったのかどうか、検証も難しい。結果が良かったから正しく、結果が悪かったから間違いだとも単純に言い切れない。
アメリカの医学生は卒業する時にヒポクラテスの誓いをする。
「患者に良いことのみを行い、決して悪いことを行ってはならない」
この当たり前のことを結果のみから判断されるなら、到底、無理な話になってしまう。副作用のない治療法はなく、誤診を一切しない名医もいないだろう。
しかも、科学的根拠だけでなく、患者の心理的な影響や社会的な背景までも考慮して、医療判断ができるように支援する私たちの活動に「模範解答」はあり得ない。
「不確実さ」を理由に不誠実な診療を許したり勉強不足の医療人に言い訳の余地を与えたりするつもりは毛頭ない。「不確実さ」はあっても医師や医学生がヒポクラテスの究極の命題を追い求め続けることは不可能ではない。