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「父子関係」からの脱却
カルテの余白 ⑨ 「父子関係」からの脱却 |
土曜 朝刊 (P.25医療) 2003.3 朝日新聞 掲載 |
患者「すみません。また体重が増えてしまいました。それに、実は、薬も飲んでいなくて…」
医師「いけませんね。気をつけて下さいよ」
診察室で、こんな会話をよく耳にする。でも、考えてみると不思議だ。なぜ、患者は恐縮し、謝るのだろうか。薬を飲み忘れて、不利益を被るのは医師ではなく患者本人なのに…。
「父子主義(バターナリズム)」。
これまで医師と患者の関係はこんな言葉で表された。患者に対し、父親のように親身に接することが医師の模範的な態度と考えられた。父親は子供に良かれと思って温情的に接する。医師と患者の関係を言い得て妙だった。だが、時に干渉的で強制的になりがちだ。
先日、大先輩の医師が嘆きながら話していた。「最近、患者さんが怖いんだ。初診の時から『間違いがあったら訴えますよ』という態度ですからね」
医療過誤の報道が相次ぎ、医療不信が問題となるなか、「強制的な父親」への反発なのだろうか。
いま医療の姿が大きく変わろうとしている。医師から十分に説明を受け、患者が自分で治療方針を選択するインフォームド・チョイスの考えも広がってきた。
患者個人の人生観や価値観を医師が尊重する場面も増えてきた。
尊厳死や安楽死はその究極の形だろう。
そんな時代の、医師と患者の健全な関係は?
患者側には情報収集力と判断力が必要になる。「面倒で大変。医者にお任せの方がよかった。」という声も聞こえてきそうだが、確実にその方向に進んでいる。
医師に求められるのは、技術と情報提供サービスのプロとしての自覚だ。
そしてプロとしての責任は、ますます重くなっている。