2007年2月

第5回 医療にさらなる興味を

 

第5回 医療にさらなる興味を

NIKKEI NET
日経WagaMaga

2007.2

日本経済新聞社


「自分は的確な治療を受けているのか?」そんな患者の疑念を一掃するため、「治療ガイドライン」をつくろうと尽力し続ける寺下謙三医師。そんな思いのもとに監修した『家庭のドクター 標準治療』(日本医療企画刊)は、既存の家庭医学書とは一線を画す本となっている。「主侍医」制度と理想の医療を追求し続ける寺下医師に、「標準治療」を知る意味と、患者が持つべき意識を聞いた。


主侍医としてクライアントの健康管理に当たる私の健康管理のポイントは食事です。深刻な事態につながりやすい病気のほとんどは血管系とがんですから、血管をきれいにしてコレステロールを下げるような食品を食べる。何かをやめるより、何かを摂取する方が気分は良いものです。それも嫌いなものより、好きなもので補うという形が望ましいと思います。その方が長続きしますからね。

私自身は食物繊維や雑穀、豆類が好きでもあり多く食べていますが、唯一、酢だけは苦手なんです。それでも、酢は血液をきれいにするので自分で開発したものを飲んでいます。黒糖を入れて口当たりを良くしたり、梅干しのエキスを足しました。梅干しは酢と大変相性が良いんです。

一般の方でも、何らかの形でこうした健康管理はしているでしょう。ただ、もう一歩踏み込んで、きちんと医療のことも勉強してほしいなとは思います。車を購入する際には、その車の燃費はどれくらいかとか、レストランに行くときには店の情報などを仕入れますよね。

ところが、医療に関してはあまり勉強熱心ではないように思うのです。たまに調べたとしても、テレビやネットでちょっと調べて済ましてしまう。そうじゃなく、もう少し本腰を入れて医療を勉強してほしいなと。もう一歩踏み込んで、きちんと患者さんが勉強していけば、医師も襟を正します。医師を育てるのは、患者さんなんです。

第4回 「主侍医」という制度

 

第4回 「主侍医」という制度

NIKKEI NET
日経WagaMaga

2007.2

日本経済新聞社


「自分は的確な治療を受けているのか?」そんな患者の疑念を一掃するため、「治療ガイドライン」をつくろうと尽力し続ける寺下謙三医師。そんな思いのもとに監修した『家庭のドクター 標準治療』(日本医療企画刊)は、既存の家庭医学書とは一線を画す本となっている。「主侍医」制度と理想の医療を追求し続ける寺下医師に、「標準治療」を知る意味と、患者が持つべき意識を聞いた。


天皇陛下の健康を見守る「侍医」を範に、私は仲間たちと「主侍医倶楽部」を設立しました。今から16年前のことです。平時からクライアントの健康管理をすることと、決断のサポートをするのが「主侍医」の役割。病気になってから初めて出会う主治医と患者さんの関係に比べ、健康時から接している「主侍医」とクライアントの関係は、ずっと近いと言えます。会社における会計士さんと考えていただければ、イメージしやすいのではないでしょうか。

主侍医制度は理想的に見えますが、一般化は難しいでしょう。私がものすごく高給取りだったら、後に続く人も出てくるんでしょうが、どう考えても、保険診療で数をこなした方が経営効率はまだましです。それに24時間束縛されるため、体力的にも精神的にも大変です。

クライアントの立場から言えば、通常の保険診療と比べてかなり高額の会費を支払うことにもなります。でも、それで24時間医師と連絡が取れるわけですから、本当は値打ちがあるんですけどね。万が一、何かあった場合には、クライアントのために電話当直の医師を確保したり、紹介先の専門医との生きた人脈作りは、そう簡単にはできません。

つまり、医師にとってもクライアントにとっても、コストが合わないのでビジネスになりにくいのです。まだ実験的な意味合いが強いですね。それでも、例えば、F1カーの技術が普及車に恩恵をもたらすように、主侍医制度も何らかの形で日常的な医療にフィードバックできればと考えています。

一般化できる形としては、自分が信頼する医師に第2、第3の主侍医役を務めてもらうことを考えています。これもコスト問題に加え、混合診療の問題もあってなかなか難しいんですが、そんな中で始めたのが、医師と患者さんの橋渡し役を育成するための「医療決断支援師」の育成です。講座を受けた医師や看護師に、主侍医的役割を担ってもらおうというもので、これは患者さんにとって心強い存在となるでしょう。

第3回 信頼できる医師を探す

 

第3回 信頼できる医師を探す

NIKKEI NET
日経WagaMaga

2007.2

日本経済新聞社


「自分は的確な治療を受けているのか?」そんな患者の疑念を一掃するため、「治療ガイドライン」をつくろうと尽力し続ける寺下謙三医師。そんな思いのもとに監修した『家庭のドクター 標準治療』(日本医療企画刊)は、既存の家庭医学書とは一線を画す本となっている。「主侍医」制度と理想の医療を追求し続ける寺下医師に、「標準治療」を知る意味と、患者が持つべき意識を聞いた。


セカンドオピニオンという言葉が定着して久しいですが、理想を言えば、最初から良い治療を受けることがベストです。セカンドオピニオンも結構ですが、日本は何事も行き過ぎる傾向があり、次から次へと違う医者の意見を求める「ドクターショッピング」につながる可能性があります。

今はインフォームドチョイスと言って、医師が十分な説明をおこなった上で患者さんに治療の選択を委ねます。しかし、これは本来、医師を守るためにアメリカで作られたシステムなんです。医師はしっかり説明をして、治療の責任は選択した患者にあることを明確化するシステム。それを日本では、「医師のごう慢勝手な振る舞いから、患者を守るためのシステム」と勘違いして理解されている方が多いようです。

そもそも、ファーストオピニオンをきちんと受けていれば、混乱を回避できるはずです。医師を決めるとき、テレビや本で見たからと安易な理由で選んだりせず、もっと十分な下調べをし、医師の技術や人となりなどから、総合的に判断するべきでしょう。

そして、もし信頼できる医師を見つけられたら、その人がどんな専門であるかにかかわらず、絶対に放すべきではありません。信頼できる医師には、必ず仲間にも信頼できる医師がいます。「専門外だから」と言って、最初から門前払いをせず、体のことなら何でも相談に乗ってくれる医師を探すことができれば理想的です。

第2回 「標準治療」と違ったら

 

第2回 「標準治療」と違ったら

NIKKEI NET
日経WagaMaga

2007.2

日本経済新聞社


「自分は的確な治療を受けているのか?」そんな患者の疑念を一掃するため、「治療ガイドライン」をつくろうと尽力し続ける寺下謙三医師。そんな思いのもとに監修した『家庭のドクター 標準治療』(日本医療企画刊)は、既存の家庭医学書とは一線を画す本となっている。「主侍医」制度と理想の医療を追求し続ける寺下医師に、「標準治療」を知る意味と、患者が持つべき意識を聞いた。


もしメディアで報道される「標準治療」と、自分が受けている治療が異なる場合でも、一概にレベルが低い治療とは言えません。それには、次のような理由が考えられます。

まず、病気にはさまざまな治療法があり、すべての「標準」を伝えるのは難しいことです。標準的な治療を踏まえた上で、先進的な治療が施されている可能性もあります。薬の投与に関しては、薬の名前は千差万別ですから、同じ系統の薬で違うものを用いられていることもあります。

ただ、一般の方からすれば、「自分は間違った治療をされているのではないか」と思われることもあるでしょう。疑問に思ったときには、医師に聞いてみるのが一番です。言いにくいかもしれませんが、「こういう治療が標準的な治療と本に書いてありましたが、先生は特殊な治療をしていただいてるんですか?」と。そういう聞き方であれば、治療に当たっている医師も快く答えてくれるかと思います。

要は接し方の問題ですね。今は、世の中が問題ある医師の追及に血眼になっていて、医師全体を軽視する傾向にあるように感じます。問題意識が過剰な余りに、挑戦的な患者さんも見受けられ、善良な医師を怖がらせることまであるんです。

そうなると、「医師対患者」以前に、人間対人間の関係として成立しません。より良い関係性構築のためには、良い医者は褒めることです。誰だってそうですよね、挑戦的に来られるより、褒められた方がやる気になります。医師を敵に回すのでなく、味方になってもらおう。そういう姿勢が必要ではないでしょうか。

第1回 標準治療とは

 

第1回 標準治療とは

NIKKEI NET
日経WagaMaga

2007.2

日本経済新聞社


標準治療2006

「自分は的確な治療を受けているのか?」そんな患者の疑念を一掃するため、「治療ガイドライン」をつくろうと尽力し続ける寺下謙三医師。そんな思いのもとに監修した『家庭のドクター 標準治療』(日本医療企画刊)は、既存の家庭医学書とは一線を画す本となっている。「主侍医」制度と理想の医療を追求し続ける寺下医師に、「標準治療」を知る意味と、患者が持つべき意識を聞いた。


日本の医療技術は世界トップレベルにありますが、多くの患者さんは自分が的確な治療を受けているのか、常に疑問を抱いています。医療の分野が進歩し、細分化したため、同じ病気でもさまざまな治療法が用いられているからなんですね。

 こうした患者さんの疑念を拭い去るには、「この病気にはこの治療」というガイドライン、つまり、標準的な治療法というものが何であるのかということが、広く一般に認知される必要があるでしょう。実際、海外でもそうした動きは活発になっています。

一足飛びに「標準」をつくるのは難しいでしょうが、とりあえずの指針をつくることはできないだろうか。そんな思いから、この『家庭のドクター 標準治療』(日本医療企画刊)を出版する運びとなりました。

マスメディアの影響も大きいのですが、人はどうしても先進的な治療に目が行きがちです。しかし、先進的治療には実験的意味合いも込められていますから、誰にでも効果を発揮するとは限りません。保険が効かないケースもあります。その点は注意したい所ですね。もちろん先進的治療を知っておくことも重要ですので、本書でも新しい治療について軽く触れるようにはしています。

本書は広く一般の方に利用してもらう事を念頭に置いていますが、なにぶん医療という特殊な分野を扱っているため、難解な点もあることでしょう。読むのが大変な場合、比較的簡単に病気を説明した「受診のコツ」の部分を読んでいただければと思います。病気のアウトラインだけでも、知ってるのと知らないのでは大きな差がありますから。

2007年2月

「仮面高血圧」は高リスク

 

昼間は正常、早朝・睡眠中に血圧上昇

「仮面高血圧」は高リスク

朝日新聞朝刊

2007.2.19

朝日新聞社


昼間は正常、早朝・睡眠中に血圧上昇

昼間に病院で測ってもらう血圧は正常なのに、早朝や睡眠中に上がってしまう-こんな人がかなりいるらしいことがわかってきた。病院の検査や診察ではわからないことから「仮面高血圧」とも呼ばれる。

 

本来は下がるべき睡眠中に血圧が高い場合、全体的に高まった「ふつうの高血圧」に比べ、脳卒中や心筋梗塞などが起きるリスクが高いというデータも出ている。対策や治療のポイントをまとめた。

要治療を見逃す心配も

120なら正常とわかるけど、どれくらいから高血圧とされて、治療する必要があるのだろうか?血圧について、そう感じている人は少なくない。

<収縮期140/拡張期90(ミリHg、以下同)>日本高血圧学会のガイドライン(04年)が定める高血圧の基準。診察時は若干高めに出る傾向があるので家庭で測った場合には135/85が目安となる。

血圧はふつう、就寝後の午前3~4時ごろに最低となった後、緩やかに上昇し始め、さらに朝起きた直後に上昇する。

このときに高くなり過ぎるのが早朝高血圧だ。

その指標として自治医科大の苅尾七臣教授(循環器内科)は①朝起きた直後の収縮期血圧(早朝血圧)が就寝前の血圧より15~20程度以上高い⑧早朝と就寝前の収縮期血圧の平均が13~15を超えている、の2点を挙げる。これまでの疫学調査などから「早朝高血圧は高血圧の治療を受けている人の約25%、未治療者でも15%はいる」とみる。

なぜ、早朝高血圧が問題なのだろうか。降圧薬で血圧をコントロールしているつもりでも、実は十分ではなかったり、治療した方がいいケースを見逃したりする心配があるからだ。

早朝高血圧は、血圧の変動パターンなどから二つに分けられる。起床時に血圧が急上昇する「モーニングサージ型」と、睡眠中からずっと血圧の高い状態が続く「夜間高血圧型」だ。

自治医大で高血圧患者500人余りを約5年追跡した調査では、早朝高血圧のグループは、ふつうの高血圧患者に比べ、脳卒中を起こす確率が約3倍高いという結果が出た。

脳卒中の確率高まる

さらに睡眠中の血圧が就寝前より高い夜間高血圧型に絞ると、ほかの人たちに比べて脳卒中が起きる確率が約2倍、突然死や心筋梗塞などは約6倍も高かった。

治療しながらも、夜間に血圧が上がるのは、薬の効果が途切れるケースが多いという。早朝に急上昇する背景には、大動脈の壁が厚くなって弾力性が低下し、血圧の変動を調整する仕組みに異常が起きていることが考えられるという。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)や糖尿病が関係していることもある。

身長165センチ、体重90キロの男性Aさん(54)はSASで同大病院を受診した。

血圧が高めで降庄薬を2種類(ARBとカルシウム括抗薬)飲んでいた。診察時の血圧は138/87。しかし、就寝前は132/85だったの対し、起きた直後は161/108。典型的な早朝高血圧だった。

念のためにSASの発作時に血圧が測れる装置で調べると、一時的に217に上がっていた。SASの治療で睡眠中の血圧も平常に下がったが、「夜間に心筋梗塞などが起きてもおかしくない状態」という。

就寝前・起床時の測定を

早朝高血圧の治療は、就寝前と早朝時の血圧差を15~20以内に抑え、就寝前と早朝血圧の平均を135より下げることが目標だ。

降圧薬は1日1回朝に飲むことが多いが、夜間に薬効が切れるなら、朝夕2回に分けるといった工夫が考えられる。作用時間の長いタイプの薬や夜間に血圧を下げる効果のある利尿薬を少量処方することも検討してもいい」と苅尾さん。

夜間の血圧変動を知るためには、24時間血圧計が必要になるが、早朝高血圧は朝夕の血圧測定だけでわかることも多い。苅尾さんは「血圧が高めの人は家庭でまず寝る前と起きた後に血圧を測ることから始めてほしい」と訴える。

血圧変動は個人差が大きい。生活環境も稜々。一人ひとり合わせた対応が大切だ。山王病院の心療内科で診療する寺下謙三医師(寺下医学事務所代表)は「血圧変動のどの部分に着目するかで患者本人の治療に対する心構えが変わる。本来は治療が望ましいのに、低い部分に目を向けると治療を避けたくなる」と話す。

高い状態が続く場合と、人前で話す際などの急な上昇をわけて考える必要があるという。長く続くと血管などに除々に影響が及ぶ。「ちょっと高めだけど正常範囲だからなどと放っておかず、もっと血圧に注意を払うことが必要です」

仮面高血圧 診察時にはわからない仮面高血圧の一つに、昼間に職場のストレスや怒りが原因で上昇する「職場高血圧」もある。東京都老人医療センターが会社や役所で実施した調査では、健診で血圧が正常と判定された人の2~3割が、仕事中には「140/90」の基準を超えていたと、という結果が出ている。

2007年2月

安心と幸福の医学

 

安心と幸福の医学

医療決断ということ
「患者様」が日本の医療を崩壊させる

暮しと健康

2007.3.1

保健同人社


健康なときから身近にいて、さまざまな医療決断をサポートしてくれる「医師患者システム」が究極の安心と幸福の医学だと自ら実践して16年になります。その経験から、最近の日本の医療が進んでいる方向に非常に危機感を感じていることをお話ししたいと思います。

人間のあらゆる知恵は「幸福」を求めています。医療ももちろん同様で、多くの医師や医療人は人の幸せのために頁献したいと日夜がんばっています。

さて、日本の現状はどうでしょうか?「医療不信」という言葉に代表されるようなマスコミ報道が絶えません。その影響で、日常診療でも「挑戦的な患者」「怯えかまえる医師」という不思議な構図が生まれつつあります。残念ながらその傾向は強まる一方で、使命感に溢れた医師たちはそのエネルギーを削がれ、自己利益に敏感な医師たちが台頭し始めたと言わざるを得ません。前者は「患者様」と呼ぶことに違和感を感じている医師たちで、後者はにこにこと「患者様」と呼び、医療もサービス業なのですよ、とわが意を得たりと平然としている医師たちです。極端な意見で、反論もあろうかと思いますが、象徴的なたとえと理解してください。

そもそも病気になることは、生活習慣病のように自己責任であったり、運命のいたずらであり、少なくとも医師の責任ではありません。また、医療はとても不確実な世界に存在するものです。われわれ生物は、とても残念なことですが、老化という逃れられない「一種の病気」のもとに、さまざまな病気やけがに遭遇します厳密な意味では完全にもとにもどる病気はないでしょう。

このようなむずかしい世界にもかかわらず、日夜奮闘している愛すべき医師たちが私の知る限りでもたくさんいます。人は困難に遭遇したときには指導者を求めます。病気という困難を乗り切るために、医療医学の専門家である医師に知恵を求めるのです。学閥を教えていただく教師には「先生」と呼んで尊敬し信頼してこそ深い学びができます。自分の健康回復のために尽力してくれる医師を「先生」と呼んで尊敬し信頼してこそ、病気回復の知恵を本当にいかすことになると思っています。これは医師の傲慢とは程遠いものです。表面的には「患者様」と愛想笑いをして魂を売り渡し「商売」に走っている医師こそ傲慢なのです。

皆さんの身近にも立派な医師はたくさんいます。「患者様」と睦んでもらうことではなく、心から「先生」と呼びたくなるようなかかりつけ医を探しあてたら、「幸福と安心の医学」を手に入れた-とになると思います。日本の良き医療は、官僚やマスコミではなく、われわれ国民一人ひとりがつくりあげていくものです。