女性のためのこころとからだクリニック

健康と医療フォーラム

特別シンポジウムパネルセッション

女性のためのこころとからだクリニック

2004.8.8

  • 【主催】・健康と医療フォーラム実行委員会・日本経済新聞社・NHK
  • 【後援】・土厚生労働省・経済産業省・文部科学省
  • 【協力】・日本医師会・日本医学会・東京都医師会・日経BP社・日本医療機器関係団体協議会・日本製薬工業協会
  • 【会場】・東京ビッグサイト
  • 【パネリスト】・髙木博美・対馬ルリ子・野田順子・寺下謙三
  • 【コーディネーター】・野村浩子

寺下謙三 講演テーマ『安心医療のための主侍医システム』

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『信頼するマイドクター 女性の健康管理に重要』

健康と医療フォーラム 健康と医療フォーラム

「健康と医療フォーラム」の特別シンポジウム「女性のためのこころとからだクリニック」が8月8日、東京・江東の東京ビッグサイトで開かれた。対馬ルリ子・ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック院長、高木博美・高木ひろみ乳腺レディースクリニック院長、野田順子・野の花メンタルクリニック院長、寺下謙三・寺下医学事務所所長兼寺下謙三クリニック院長が「信頼できる″マイドクターを持つライフスタイルヘ」をテーマに意見を交わした。司会は「日経ウーマン」の野村浩子編集長。=文中敬称略
ライフステージごとの女性の体の変化と女性特有の病気やその予防法などについて討論


寺下謙三 「患者の決断に支援役を」  2004.9.9 日経新聞 夕刊より

患者は医療とかかわるなかで、さまざまな決断と行動を迫られる。寺下医学事務所では、患者の決断を支援している専門の医者を「医療判断医」と名付けて啓蒙(けいもう)活動をしている。

医師と患者の関係を説明するときに「父子主義」という言葉が不可欠だった。父と子の関係は、干渉的に、時には強制的にというのが基本的な精神。これは世界中の医師と患者の関係を支配していた考え方でもあった。特に日本では「医は仁術」との言葉のように、患者は医師に安心して頼ってきたのが現状だろう。

だがここ二十年くらいの間に、医療情報の開示を求める声が大きくなるなど、さまざまな環境の変化があった。現在の日本の医療は「自分の健康は自分で守る」「医療を提供する側が十分な説明にもとづいて患者が自分の責任で選択する」という流れになっていると思う。また、一人の医師があらゆる分野に専門性を発揮するのもむずかしくなってきている。

こういう状況のもとで、実際に患者が自分で選択しなければいけないのはきついことだと思う。一人の医師の診察では満足できず、セカンドオピニオン、サードオピニオンと複数の医療機関を受診しても結局満足しないことにもなりかねない。よって、専門医の選別などをしてくれる医師がいれば、患者にとっては安心なことだろう。

このようなシステムは皇族の医師団である「侍医」と似ていることから、「主侍医(しゅじい)」と名付けた。主侍医は相談や医療決断の支援のためのプロのこと。治療担当医とは別の存在で、健康なときから患者を見守ってくれる。

主侍医システムは、現在の健康保険のシステムには取入れられていない。このシステムを使おうとすれば、自由診療や保険外の診療となってしまう。健康保険に主侍医制度が取り入れられることを願う。

現在の我々の取り組みは実験的な要素がある。日本のかかりつけ医が主侍医システムを実践できるようにサポートし、患者に安心をもたらしたいと考えている。


  • 寺下氏 患者との愛称を考慮
  • 野田氏 専門に応じ医師紹介
  • 高木氏 自分に合う医師選ぶ
  • 対馬氏 若い人も検診は大切
司会
セカンドオピニオンを重視する女性が増えたが、上手な利用の仕方にコツはあるのだろうか。
寺下
日本の現状では、セカンドオピニオンという言葉だけが独り歩きしていると思う。むしろ、まずは一人、信頼できる医師を見つけて、その意見を信頼すること。セカンドオピニオンはその意見を支援するもの、と考えた方がいいだろう。選択肢が多いと、どんどん迷って苦しくなることもある。セカンドオピニオンを求める場合は信頼できる医師からの紹介で診てもらうと確実だろう。
対馬
私のクリニックでは「コンシェルジェ」といって、その人かどういうふうに受診したらいいのかを手助けする電話相談をしている。ここに例えば、「今かかっている医師に手術した方がいいといわれた。どうしたらいいか」という相談があった場合は、女性が医師に納得するまで質問をしたか、その医師からもらった検査データを持っているのかどうかなどをまず確認する。そのうえでセカンドオピニオンを求めている場合は、検査データや紹介状を主治医からもらって来ると早いというふうに助言している。
司会
いたずらに不安に陥る前に、最初の医師ときちんとコミュニケーションを取る力を身につけることが第一歩かもしれない。
高木
注意したいのは、女性の医師であれば必ずしも女性にとっていいとは限らないこと。むしろ女医の一言で傷つく場合もある。男性でも、女性の気持ちに配慮し、きちんと鋭明してくれる医師はたくさんいる。性別にとらわれず、自分の気持ちをくんでくれる医師を選んでほしい。
対馬
最後に婦人科医として、女性たちには若いうちから検診の習慣を身につけてほしい。今は若い女性の婦人科がんも増えている。医師とコミュニケーションができるようになっていれば、重病になった際も早く対処できる。いざ病気になってから良い医療を短時間で選ぶのは難しい。お気に入りの美容院を見つけておくように、普段の検診を通じて、何でも相談できるマイ・ドクターを探しておくことを提案したい。
司会
婦人科、内科など、女性が分野ごとのかかりつけ医を持つのは難しい。
対馬
まずはかかりつけ医を一人見つけて、その個人的なネットワークから紹介してもらうのも一つの方法だ。私は女性外来に携わる医師が問題点や認識を共有し合い、勉強していくためのネットワークづくりを進めている。このネットワークには産婦人科、内科、外科、皮膚科、口腔(こうくう)外科など様々な医師が参加している。こうしたネットワークも生かし、患者さんと、ずっと友人のようにお付き合いしていきたいと思う。
寺下
我々の進める「主侍医」活動でも、医者のネットワークは必需品だ。自分と同じように友人のような立場で患者さんを診てもらうには、相手の医師と顔なじみであることが欠かせない。さらに相手の医師について、例えば「内科の循環器系でバイパス手術が専門」といった得意分野の情報から、その医師の趣味に至るまで細かく情報を管理し、紹介する患者さんとの相性などを考慮する際にも役立てている。主侍医システムでは健康な時から契約してもらう。実験的実践で利用者はまだ少人数だ。直接お手伝いできる患者さんの数は限られるので、間接的なお手伝いとして数年前から標準治療に関する本を出版している。この本を通じ、自分の受けている治療が今の日本のスタンダードな治療かどうか調べてもらう狙いだ。
高木
乳がんは特殊で標準治療がどこででも受けられるわけではない。100%告知する疾患のため、手術を避けようとする余り、科学的な裏付けのない民間療法に走ったり、乳房を温存できるといってくれる医師を求めてドクターショッピングしたりして、本来は治せるのに数年後に残念な結果が伝わってくる患者さんが後を絶たない。ぜひ、科学的根拠に基づいて自分の年齢や体質に合った助言をしてくれるかかりつけ医を見つけてはしい。
野田
医師のネットワークという点でいうと、精神科は入院が必要な例もあるので、私のクリニックから病棟がある開かれた病院を紹介することなどがある。さらに精神科もパニック、ADHD(注意欠陥多動性障害)など細分化されているため、専門性に応じ医師を紹介し合っている。日本では精神科はまだ敷居が高いが、企業の健診でストレスチェックなども導入されてきた。かかりつけ医としての機能も徐々に認知されていくのではないか。
月経異常 企業の理解欠かせぬ

月経の異常は、ホルモンバランスの乱れや無理なデイエットのほか、精神面での不安定さなど、様々な要因が影響して起こる。症状もさまざま。月経前から月経期間中にひどい腹痛や腰痛、おう吐などの柱状がある「月経困難症」や、月経がない状態が続く「無月経」。月経のような出血が頻繁に起きる「頻発月経」のほか、月経前にいら立ったり、気持ちが落ち込むなどの精神的症状が出る「月経前症候群(PMS)」など多岐にわたる。
対策としては基礎体温をつけ、月経の周期や血量、痛みなどを記録し、具体的に説明できる準備をして、女性外来や婦人科などを受診すると効果的だ。
こうした月経異常については、男性や企業の理解不足が課題の一つ。厚生労働省の研究班は200年に20~40代の女性の27.3%が生理痛のために仕事や家事を休み、半年間で約1.890億円の労働損失が生じているとする調査をまとめた。
生理痛の苦しみに対して、「周囲の理解がない」が全体の4割以上あり、職場の理解がないために、痛みがあっても受診を控えて、症状を悪化させているケースが目立つ。男性や企業の認識を高める対策や女性への支援策強化が求められている。

女性の乳がん健診 エックス線撮影が効果的

女性の乳がん検診は1987年以降、態勢の整った市町村から順次実施されて来た。これまでは30歳以上が対象で、検査方法は専門医による問診と視触診のみだった。だが、視触診では「1.2㌢程度のがんは発見できても、それより小さいがんを発見するのは困難。女性のがん罹患(りかん)率で乳がんがトップになるなど患者が急増する中、小さながんを見落とす事例も出ていた。このため、厚生労働省は乳がん検診の指針を今年4月に改正。検査方法を視触診に加え、乳房エックス線撮影(マンモグラフィ)との併用にするよう市町村に求める一方で、対象年齢は40歳以上に引き上げ、30歳代の検診を廃止した。マンモグラフィーは乳房を上下、左右から器具で挟んで固定し、エックス線撮影するので発見の可能性が高い。マンモグラフィーでの検診が普及した米国や英国でも、乳がんの死亡率減少に効果を上げている。ただ現在、国内には検診の基準に適合したマンモグラフィーが不足気味。マンモグラフィーの撮影技術を持つ放射線技師や、エックス繚撮影したフィルムを分析する読影医も不足しており、マンモグラフィーによる検診を実施していない市町村が多いのが現状だ。

女性ホルモン バランスの乱れ、影響大きい

女性ホルモンは「エストロゲン(卵胞ホルモン)」 「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類あり、いずれも卵巣の中で作られる。エストロゲンは排卵の準備をするホルモンで、生理の終わりごろから排卵前にかけて分泌が高まる。プロゲズテロンは排卵後に分泌され、排卵を抑制する働きがある。 2つの女性ホルモンは波のように一定のリズムを保って分泌されており、脳や心臓、血管といった身体の機能や臓器を調整する役割を果たしている。月経も女性ホルモンによって調整されており、ストレスや急激なダイエットなどによるホルモンバランスの乱れは月経異常など女性の体に大きな影響を与える。更年期障害も卵巣の老化によりエストロゲンの分泌が減少し、ホルモンバランスに急激な変化が起きることが要因だ。それまで、女性ホルモンの働きで守られていた臓器や機能が老化し、肩こりや頭痛、発汗などの身体的な症状や、不眠や抑うつ、気力減退などの精神的な症状も引き起こす。こうした症状に対しては、減少した女性ホルモンを補うホルモン補充療法などの治療法がある。女性外来や婦人科への受信が必要だ。

セカンドオピニオン 法整備求める声も

治療法の選択肢が限定されることなどを避けるため、主治医以外の医師に治療法などの意見を聞くことを、セカンドオピニオンという。医療技術の向上で治療法が多様化する疾患が増えたことで必要性か高まった。劣悪な治療による医療被害を回避する効果もある。近年では、セカンドオピニオン外来設置する病院も増加、ホームページなどで受診体制を紹介している。今月からは市民団体「セカンドオピニオン・ネットワーク」(東京都西東京市)か、乳がんや血液がんについて協力医リストのホームページでの公開を始めるなど、セカンドオピニオンの協力医探しを手助けする動きもある。ただ、セカンドオピニオンは公的医療保険の適用対象外で医療機関の収入に結びつかないという課題もある。医師のボランティア精神に支えられているのが現状で、普及に向けた法整備を求める声もある。患者が上手な活用法を知ることも大切。セカンドオピニオンを受ける際には、主治医にその旨をきちんと告げ、カルテや検査画像などの資料を入手しておきたい。複数の医師の意見を聞いても最終的な判断は患者本人が下さなければならない。

    

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