「やせてきた」という症状を主訴とする病気あれこれ

 

メディスコープ

「やせてきた」という症状を主訴とする病気あれこれ

はいたっく

1998.2

日立製作所 発行


  1. 拒食症
  2. バセドー病
  3. 結核
  4. 糖尿病

1.拒食症

◆症例

OLのEさん(22)は入社して2年になるが、入社時は身長155cmで体重55kgと、ややふっくらしたかわいい容貌であった。半年前頃より急にやせ始め、最近では30kg台という。生理もとまり、見るからに異常な印象である。ダイエットをしているのかと思えば、急にたくさん食べたりもする。たまりかねたおかあさんが病院の心療内科へつれていき「神経性食思不振症」の診断が下された。

◆病気の説明

やせ願望による節食に端を発する摂食障害である。若い女性に多く、周囲からの「でぶ」などというささいなことばを気にすることから始まり食べることへの恐怖感が進行していくことにより食事を拒否することになる。E子さんの場合も同僚の男子社員から「ふっくらさん」とからかわれたことが最初のきっかけらしい。

◆症状

拒食、体重減少を主体としてその結果、無月経となる。
また、拒食の反動として時に大食いやかくれ食いをしたあと意識的に嘔吐をするようなことがある。本人の自覚がなかったり、少ないのが特徴である。

◆治療

時には致命的な栄養障害を起こすこともあり、慎重かつ根気良い治療が必要である。極度の栄養障害に対しては点滴などで栄養補給をする必要もある。精神的背景まで十分に考慮し、綿密なカウンセリングなど心理療法が必要である。時には精神安定剤や抗うつ剤などの薬物も併用する。本人に自覚が少ないために家族ぐるみの治療が望まれる。

◆予防

普段から物事をまじめに考えすぎる傾向の人が本症になりやすい。悩みを内向させずに、気軽に相談できるような友人を持ったり、何でも話ができる家族の雰囲気作りが大切である。


2.バセドー病

◆症例

会社員のDさん(30)は2、3ケ月前より動悸がして、汗をよくかくようになった。比較的よく食べているのに体重も減ってきた。精神的なものかと思っていたが、念のため病院に行って検査したら「バセドー病」といわれ驚いた。

◆病気の説明

バセドー病は頚の全面にある甲状腺という器官の機能が亢進する病気である。甲状腺では甲状腺ホルモンというからだの新陳代謝を促すホルモンがつくられる。そのためこの病気ではからだの新陳代謝が亢進することによる症状が出る。原因ははっきりしないが、自己免疫異常といわれている。比較的若い人に多く、女性は男性の4倍程度といわれる。

◆症状

からだの新陳代謝がさかんになるため体重減少、頚脈や動悸、息切れ、汗が多くなり、手がふるえたりする。また微熱や眼球突出もみられることがある。甲状腺は大きくなるため、頚の全面がはれてくる。

◆診断

血液中の甲状腺ホルモンを調べればほとんど診断がつく。
また、甲状腺ホルモンに関するいろいろな抗体などもしらべる。

◆治療

大きく分けて3種類ある。抗甲状腺薬治療と手術治療、放射線治療がある。抗甲状腺薬の服用が一般的だが、最低でも1、2年の服用が必要なので、妊娠を希望する女性や社会生活上早い治療を望む人などは、手術が選択される場合がある。もちろん患者さん本人の希望が優先される。

◆予防

原因がはっきりしない病気なので、これといった予防法はない。なるべく早期に治療が始められるように、こういった症状があれば、早く医師に相談して診断を受けるようにするべきである。
 また内科的治療は長期戦なので根気よく治療を続けることが大切である。


3.結 核

◆症例

会社経営のCさん(55)はこの1年で知らぬ間に5キログラム体重が減少した。他に症状といってもなんとなくから咳がする程度である。仲間の会社が倒産する中で、経営を立て直すために日夜走り回っている状況であった。友人の紹介で訪れた病院で、胸のレントゲンを撮り、「肺結核」の診断に愕然とした。

◆傾向

肺結核は戦前は死亡原因のトップとなるほどの病気であった。しかし、日本では予防措置の普及で絶滅するかに思われた。ところが、現在も、頻度こそ少ないが、ときどき見受けられる。免疫力の落ちた老人や癌などの全身衰弱性の病気と合併することが多い。まれに若者でも生活の乱れなどから、肺結核になることもある。

◆症状

咳、喀血、血性痰、疲労感、体重減少など。症状は強くないが、長期間風邪症状が長引いているときなどには本症の存在も考えて検査するほうがよい。

◆原因

結核菌による肺の感染症である。結核菌は比較的感染力が弱く、普通なら簡単には感染しないが、何らかの原因で体力が弱っている場合に感染し発症する。

◆診断

昔なつかしいツベルクリン反応や痰の中の結核菌の検査や胸のレントゲンや血液検査などを行い総合的に診断する。

◆治療

抗結核薬の組み合わせによりほぼ完治する。しかし、粟粒結核といって重傷のタイプのものもあり、手遅れになると死亡することもある。普通、抗結核薬は1年以上服用する必要がある。

◆予防

予防接種としてはBCGが知られている。ツベルクリン反応が陰性の人はBCGの接種を受けることになる。また、結核に感染する人は、体力が弱っているわけであるから、日頃の生活のリズムを規則正しくして、食生活のバランスに気をつけることが、肺結核の予防につながる。


4.癌

◆症例

病院勤務の薬剤師さんのBさん(42)はこの2、3ケ月で4キログラムの体重減少に気がついた。毎年の院内検診で胃のバリウム検査も受けているし、糖尿病もないようだ。そういえば最近右下腹部に何となく違和感がある。同じ病院の院長先生に相談し、血液のCEAという検査値の高値を指摘され、大腸癌を発見された。

◆原因,傾向

大腸癌は最近日本でも増加してきている。食事内容の欧米化が原因とされている。日本の大腸癌の特徴は肛門に近いところ(左下腹部)に発生することが多いことであるが、最近欧米型とされる右側の大腸の癌も増えている。右側の大腸癌は初期の症状が少なく、検査主技も難しいので発見が遅れることが多いので注意が肝要である。

◆症状

下血(便に血が混じる)、腹痛、便秘、下痢。右側の大腸の場合、こういった症状が少ないことが多い。

◆診断

便潜血といって便のなかのわずかな血液を調べることにより早期発見をしようとしているが、診断率はまだまだ低い。肛門からバリウムを注入してレントゲン撮影をしたり、ファイバースコープで検査する方法 がかなり進んできました。40歳を越えたら一度調べてみるのもよいかもしれない。

◆治療

外科的摘出術を基本とするが、ポリープ型のもので、先端のみが癌化している場合は、ファイバースコープによる摘出術で治療が完了する場合があり、比較的治癒しやすい癌のひとつといえる。進行した癌の場合は人口肛門になることもある。

◆予防

最近の研究発表では肉食や動物性脂肪の取りすぎが大腸癌の原因のひとつといわれている。注意すべき点である。また、便秘も癌の発生を助長するようである。注意すべき点である。日頃、便通を整えることも大切だ。


5.糖尿病

◆症例

外科医のAさん(48)は、30歳頃より肥満傾向であったが、この半年で5キログラムもやせてきたので、癌がどこかにあるかもしれないと、胃や大腸の検査をしたが正常であった。父親が糖尿病であったので、糖負荷テストを受けたら糖尿病の診断が下された。

◆症状

糖尿病は高血圧などと同じく軽症のうちは症状が少ない。長い目で見て動脈硬化などを引き起こし、脳卒中や心筋梗塞を招くことになる原因のひとつなので、「静かな殺し屋」と言われる。主な症状には、口渇、多飲多尿、体重減少、疲労感などがある。

◆原因

糖尿病にはインスリン依存型とインスリン非依存型の2種類がある。一般に言う糖尿病は後者であるが、その原因としては、遺伝的に糖尿病の素因がある人が、暴飲、暴食、運動不足、肥満などの誘因を引き金として発症する。インスリンは摂取された糖分(ブドウ糖)を有効に利用するために働くホルモンであるが、糖尿病ではこのインスリンが何らかの機序でその働きが低下する。そのために血液中に利用されない糖が過剰になり(血糖が高くなる)、尿中にも漏れだしてくる(尿糖)のである。

    

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