温故知新③ 昔の治療、今の治療

 

1997.3~1998.3

温故知新③

昔の治療、今の治療

ばんぶう

1997.5

日本医療企画


他の科学の分野と同じく医学の世界においてもこの20年間を振り返ってみるとそのテクノロジーの進歩には眼を見張るものがある。僕が大学生時代だった昭和50年頃、コンピュータのプログラムの授業を受けたが、その時の東大の大型計算機センターにあった日本でも有数の大型コンピュータでさえ、今や、秋葉原では時代遅れのため特価で売っている旧型モデルの家庭用コンピュータと性能や容量が同等かそれ以下なのである。車の性能や携帯電話なども考えようによってはすごい発達をしている。良いか悪いかは別として。20年前の東大大型計算機センター並の性能のコンピュータを手に入れた家庭はそれだけ生活レベルが上がって、相当の幸福を得ているであろうか?今やたいていの車は200km/hの速度は出るが、御殿場からのゴルフの帰りの時間が短縮され事故の確率も減少したであろうか?携帯電話のおかげでよりよいコミュニケーションが生まれ、ハッピーになったであろうか?よくよく考えてみるといわゆる「文明の利器」というものは、我々をそんなに幸福にしていないようである。昔のよく故障した車は味があって良かったし、海外に行けばなかなか電話が通じないので逆にリラックスできたし、またやっとの思いで通じた国際電話で話したときは感激もした。学生で下宿時代友人に夜中に連絡したいときは、線路づたいで歩いていった、たかが麻雀の誘いのために。「君はピー(PHSのこと)してる?」といつでも何処でも電話ができる。そんなメッセージに感動を盛り込むのは大変だ。

こんなことを考えると、科学文明の急速な進歩には興味は湧くが、疑問も湧く。はたして20年前の医療に比べて現在の医療は我々人間により幸福を与えているのだろうか?100年前と比べるとどうなのだろうか?ヒポクラテスの誓いにある「良いことのみ」で「悪いことはしない」といえるのだろうか?これからはたとえ科学者であろうともやみくもに新しいことの追求をするだけでなく、「良いこと」と「悪いこと」の比率を念頭にこれからの文明を考えていくべきであろう。

    

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