温故知新⑬ 過去の遺物は大先生

 

1997.3~1998.3

温故知新⑬
過去の遺物は大先生

ばんぶう

1998.3

日本医療企画


ウイルスが猛威を振るっている。エイズにしろ新しい香港型インフルエンザにしろ怖い相手である。細菌の世界では、耐性菌の出現が我々に様々な警告を与えている。細菌でさえ過去の抗生剤を覚えていて、新しい仕組みを自ら作り出している。 まさに「温故知新」を実践しているのである。 ウイルスは、元来病原性が弱くて、大体放置しておいても自然治癒するものが多かった。一部のウイルスにはワクチンがあり、予防できたり、天然痘のように世界から撲滅したものまである。まさに人類の勝利と凱旋ものなのである。
 ところが、ところがウイルスというものは、摩訶不思議で怖い。姿をコロコロと変える。あの小さい単純な構造なのに、まるで敵のことを知り尽くしたかのように振る舞うのである。しかも、人の細胞を利用して自らを複製していくのであるから気色が悪い。
 最近、ロビンクックという医師作家のミステリー「インベイジョン」というのを読むんだ。
ウイルスは何十億年も前に宇宙から送られてきた偵察隊であり、何億年かごとに活性化し地球上の生物に感染し、地球が住み良い環境なら移住して来ようという魂胆なのである。近年ベストセラーになった「パラサイトイブ」のミトコンドリアの話と少し似ている。その中の共通点は、ウイルスやミトコンドリアが遠い過去を記憶しているということである。
 最先端は、いつしか過去の遺物になるのも必然の理であるが、過去の遺物も最先端の疑問を解決する糸口となることを知っておかなければならないだろう。

    

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