質実剛健⑧  ピース オブ ヘジタンス

 

1999.5~2000.4

質実剛健⑧  ピース オブ ヘジタンス

ばんぶう

1999.12

日本医療企画


「ピース オブ ヘジタンス」という英語の意味をご存じだろうか。「遠慮のかたまり」という意味だそうだ。先日、英語が堪能な友人から聞いたから、多分本当の話だと思う。大皿料理などで美味しそうなものが、一切れ遠慮がちに残っている例の「遠慮のかたまり」の意味である。「ふーん、アメリカでも遠慮のかたまり、という現象があるんだ。人類似たり寄ったりだ。」と妙に感心した。
話の意味合いは違うが、食べ残しについて考えさせられた一件がある。先日、幸運にも若い女性と食事を共にする機会を得たとき、その女性が出てきた料理を半分くらいしか食べずに残そうとしたので、「頼んだ料理を残すのはよくない。」と注意した。すると「先生は医者のくせに、人がおなか一杯なのに無理に食べろというのですか。食べ物と私の身体のどちらが大切なのですか?」「周りの友人はみんな平気で残しているよ」「食べたくても食べられない人も気の毒だけど、満腹なのに食べないといけないのはもっと辛いのではないですか」と猛烈な反論に出会った。あまりの反論理由に唖然としてしまった。
 昭和20年代生まれの私としてはせっかく作ったものを捨てるということに抵抗を感じるわけだが、価値観というものは変遷していく。「昔の質実剛健」と「今の質実剛健」は異なっているかもしれない。いわゆる昔の人は物の使い捨て文化を批判はしているが、「物」を大切にした戦時中は特攻隊に代表されるように「人の命」を粗末にした。同様に「人の心」も粗末にすることもある。
 中国では、客人の接待の時「食べ残すぐらい」の量が相手への気遣いだと聞く。物を捨てることで誠意を表しているのである。そんなことをふまえても、私は敢えて「物も心も大切にする気持ちは共通でそれこそが質実剛健だ」と言いたい。

    

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