常識に照らす⑩ 犬の常識に学ぶ

 

2001.5~2002.4

常識に照らす⑩

犬の常識に学ぶ

ばんぶう

2002.2

日本医療企画


我が家で犬を飼い始めてから、丁度1年目になる。家を出る時、帰ってくる時必ず尻尾を振って迎えてくれる。家族の誰に対してもそうである。息子たちは「バディ(愛犬の名前である)は可愛いよな。僕が見えなくなるまでずっと見送ってくれるものな。」といって喜んでいる。一緒に遊んでくれている人に、100%集中することは犬の世界では常識なのであろう。その自分だけに気持ちを集中してくれることが人間にとって、とてもうれしいことなのである。
うつ病などの治療にペット療法という考えがあり、私もその研究をしている一人である。心理学でいうところの「ストローク」という人間の触れ合いのなかでも、最上の「ストローク」は「疑いの無い、条件のつかない肯定の気持ち」なのである。犬の飼い主に対する態度はまさにこれだ。それに引き換え、我々人間の世界ではなんと条件付の肯定の多いこと。「試験に受かれば可愛い子というお受験親子」「私のお客さんならいい人という営業最優先の人」「自分の思い通りしてくれるなら好きな人という自己愛陶酔人間」などである。そして、私が最近の風潮で最も嫌いな一つなのだが、人と話をしている最中に携帯電話のメールを頻繁にチェックする人々である。
携帯電話は人と人をつなげるはずだが、むしろ人と人を引き離すことに一役買っているのである。若い恋人達がデートしながら、お互い他の人と携帯電話で話をしている風景は珍しくない。「今度、食事でもしようね」と彼の前で、一体誰に話しかけているのだろうか?「私にはあなたしかいませーん」という犬の世界の常識を学ぶことがさまざまな人間関係を復活する知恵ではなかろうか。

    

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