常識に照らす② 法律と常識

 

2001.5~2002.4

常識に照らす②

法律と常識

ばんぶう

2001.6

日本医療企画


物事の道理を考える上で、常識を働かすということはとても大切だということ検証していこうと考えている。今回は法律について。
「電子カルテ」のシステムを勉強する会議での事である。アメリカの電子カルテ法案の中の個人のプライバシーを守るための条文だけで、10センチもあるような厚さがある。事細かく「こんなことはしてはいけない」「こんな場合はこういった許可が必要」ということをあらゆるケースを想定してかかれている。いわゆる法の抜け穴が無いように規定してあるわけである。 
列席のメンバーが「アメリカ人はこんなことまで決めなければ新しいことは出来ないんだ」とため息をついていると、厚生労働省の若い役人が「法律とは常識的に考えて、多くの人が悪いことと感じれば悪いことで、よいことと感じられればあまり規制してはいけないのです。そのことを基本にして法律は生まれるべきなのです」とコメントした。非常に総論的で、長老格の人が言うならまだしも、法律のエキスパートの若手がそんな発言をしたことに私は心の中で大拍手をしたのである。その役人は、その後随所に見事なまでの専門的コメントを行ったのであるが、そういった専門的知識に裏づけされている人が「常識から判断する」ことの大切さを主張したことに、「若い連中はだめだ」と早計に批判してはいけないと思ったものである。
「法律に違反はしていないが、結構悪いこと」と、「法律では許可されていないが人のため世のためになること」の選択に迫られることが、いろいろな場面で遭遇する。法律の世界だけではなく、医療の現場でも政治の世界でも同じようなことがある。前者は罰せられず後者は罰せられるわけであるが、胸に手を当てた裁きとはしばしば違うのである。

    

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