常識に照らす⑪ プロの常識

 

2001.5~2002.4

常識に照らす⑪

プロの常識

ばんぶう

2002.3

日本医療企画


自己矛盾的ではあるが常識にもいろいろあると書いてきた。どういった人たちの間でCOMMONなのかということになる。 私のすんでる医療界や、政治家の世界でいつも気になるのは「プロ意識」ということ。 そんなことは当たり前で、政治家は政治家らしいし、医者は医者らしいように見える。
先日、友人のお宅で開かれた新人のオペラ歌手のイタリア留学送別会にお邪魔したときに、ある高名な指揮者の娘さんから聞いた話である。そのお父さんのOさん率いる交響楽団の演奏会の最中に、会場が停電になった。これは一体どうなるのかと、娘さんはどきっとしたそうである。我々凡人の常識なら当然演奏は中断され、場内アナウンスが流れ、電気が復旧してから再開ということを予想する。ところが、なんと演奏はそのまま続いている。そして、まもなく電気がついた。Oさんはいつもどおり指揮棒を振っているし、演奏家たちも普段のように楽器を奏でている。「あんな真っ暗な中でも、父は指揮していたのだ」と驚くとともに、「それって指揮者がいらないってこと?」と思った、と冗談を付け加えて みんなの笑いを誘った。一同、「超一流のプロは、オーラが出ているのだなあ」と、感動したのである。突然のトラブルにも動じないのは日頃の鍛錬の賜物だろう。「プロ」の定義を考えてみると、「完全な危機管理」を「さりげなく」できること、といえるのではないだろうか。医療ミスが取り沙汰されている今日この頃、我々医師が心すべきことだろう。「医者は非常識だ」とよく言われる。「そのとおりです。我々医師は、素人の常識では想像できないようなプロの常識を身につけています」と、私も自信を持って、ユーモア混じりの答弁をできるようになりたいし、後輩の医師諸君にも期待したい。

    

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