一生懸命足るを知る① 足るを知りすぎた日本人

 

2003.5~2004.4

一生懸命足るを知る①  足るを知りすぎた日本人

ばんぶう

2003.5

日本医療企画


私事ながら「足るを知れ」とは、亡き父の教えの一つである。そういえば何年か前このコラムで年間タイトルにした「質実剛健」ということも父が口癖のように言っていたから、親の影響とは大きいものだと今更ながらに痛感している。飽くこと無き好奇心でいろいろな商売にチャレンジした父が「足るを知れ」と言うのは、何となくおかしい。きっと自分自身に言いきかせていたのだろう、と思えてくる。つまり実行が難しいことなのである。「立って半畳、寝て一畳」「人の10倍は食えない」「墓場までは持っていけない」。足るを知ることの重大さを、いろいろな言葉が我々に教えている。不況の最中なのに、どこにでもコンビニや、ファーストフードの店はある。親がいなくてもお金さえあれば、文字通り食べていける。高級料亭では毎日のように、十分食べられるような食材も捨てられている。こんなことが常識化している現代日本で「足るを知る」のはかえって困難である。「そんなにシャカリキにならなくてもなんとかなるから」と「ゆとり教育」なども生まれた。週休2日は当たり前、長期休暇をとって海外旅行は日常的なのに、まだ癒されたいと癒しビジネスが横行している。どうやら勉強したり働いたりすることに「足るを知りすぎた」ようである。それでも、多くの日本人は、「今でも日本はアジアのリーダーであり、模範である」と硬く信じている。携帯電話売り場に群がり、格別の用も無いのに一時もそれを離せない人々や、テレビのバラエティー番組に支配される人々が日本人の過半数を占めた今、それは豊かさの証拠と歓喜している場合ではなく、衰退していく兆候だと私は危惧している。心豊かな日本を復活するには、衝撃的な変革を余儀なくされるか、ジャブのように絶え間ない意識改革教育が不可欠と考えている。本当の「足る」を知るには、相当な努力が必要になろう。

    

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