一生懸命足るを知る⑨ 意識の低下

 

2003.5~2004.4

一生懸命足るを知る⑨  意識の低下

ばんぶう

2004.1

日本医療企画


最近、電車のなかの広告で「学力の低下より気力の低下が心配」なる予備校のキャッチフレーズを見て共感した。同じことが、われわれの属する医療界でもいえるし、政治や経済の社会にも言えるのではないだろうか。人のつくったコピーを勝手に使うわけにはいかないので、「知識の貧困さではなく、意識の貧困さを憂慮」という独自の(といっても基本パターンは真似なのだが〉コピーを考案した。
 先日、故郷和歌山で兄弟たちが運営する病院の記念講演会で和歌山医大の倫理医学名誉教授の話をお聞きするチャンスに恵まれた。80歳のご高齢ということで、立ったまま1時間以上のお話をされる場の設定に「大丈夫かなあ」と心配をしていた。幹事の気が利かないのでは、と注意しようとまで考えていた。しかし、講演が始まって数分もすればそれが徒労であり、余計なお世話であり、立ってお話するのは講演者の希望だったのだと理解できた。すごい迫力でお話を始められたからである。
世のか弱い若者はこういう方に電車で逆に席を譲ってもらうのかもしれないなあ、と思った。
 講演の題目は「人は何を病むのか?」であったが、印象的だったのは「最近の医者は、科学一辺倒で、テクニックだけなんだよ。『納得』がないんだよ。教育も同じだよ。子供たちに納得がないから、不登校や不良化など体全体で訴えているんだよ。
人間は共鳴体で、五感は共鳴盤なんだ。それらを駆使して初めてテクニックが生かされるんだよ。プロは視野が狭くて鈍感なんだ。素人は360度見て感じるから敏感なんだよ。東大の地震研よりなまずのほうが早く感知するんだ。なまずは超素人なんだ」というお話であった。日頃から「優秀なプロは広い視野で専門を見ることができて、何事にも恐れるぐらい敏感に反応することが大切」と主張している私にとってはまさに「目から鱗」であった。その道のプロを自称するなら、怖がりで謙虚で初心を忘れない自信家を目指したいものだ。

    

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