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医療判断の厳しさを教える
カルテの余白 ① 医療判断の厳しさを教える |
土曜 朝刊 (P.23科学・医療) 2003.2 朝日新聞 掲載 |
慶応大学の医学部の学生に「医療判断学」というテーマで年に数単位の講義と実習を行っている。
ふだんは「主侍医」としての契約に基づいてどんな医療を受けるかを選ぶ手助けをしている私だが、「医療の未来は、医者の卵への早い時期からの教育にかかっている」という、信念を持つ西本征央教授(薬理学)と思いが合致し、7年前から始めた。
講義の冒頭、学生たちにこう問いかけている。医療判断の仮想体験だ。
「あなた方は、がんの専門医です。担当する40代の患者は余命1年以内の末期がん。強力な抗癌剤Aが開発され、癌を80%完治させます。しかし、副作用も強烈で、5%は1時間以内に死亡。残りは変化なし。他に治療法がないとしたら、Aを使いますか?」
- Aは使わずに一般的治療、痛みを緩和する医療を行う
- 副作用覚悟でAにかける
- 迷って判断できない
- 他の判断をする
から選んでもらう。
面食らいながらも、学生たちは真剣な表情になり、そして迷いながら10~20%は1.を、60~70%は2.を選ぶ。
7年間、同じ傾向なのが興味深い。
「患者があなたの親だとしたら」。
すると、 1.が微増、 2.は50%に減り、 3.が増える。
「では、あなた自身が患者なら」。
9割以上が2.を選ぶ。
「最難関の大学入試でほぼ同じ解答を出した仲間ですが、ここでは解答が違い、少し状況が変わるだけで判断も異なります。6年間医学を学んでも長年医師の経験を積んでも、この判断の不確実さは付きまとってくるのです」。
学生たちは医師になる使命感と、怖くなるような医療判断の厳しさを授業で体験し顔つきが変わる。
そんな姿を見て、日本の医療の未来にささやかながらも
意味深い貢献ができたかな、と自己満足に浸っている。