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医療に品質管理の思想導入を
カルテの余白 ⑥ 医療に品質管理の思想導入を |
土曜 朝刊 (P.25医療) 2003.3 朝日新聞 掲載 |
科学的な根拠に基づいて医療を進めるEBM(Evidence Based Medicine)という考え方が世界で広がり始めたのは、90年代後半からだ。
手術がいいのか、薬による治療がいいのか、薬はAがふさわしいのか、それともBなのか……。患者さんの診療法を選ぶのに、これまでは、医師個人や医療チームに積み重ねられた経験に頼るところが多かった。
EBMは、それが本当に最善の選択なのかどうかを客観的に判断する根拠として、多くの医学論文を統計的に分析して信頼度を割り出したものを使えないか、という試みだ。ただ、論文は星の数ほど発表されている。どの論文を重視するかによって、結果もずいぶん変わってくる。
ある健康セミナーの講師に呼ばれたときのこと。
がんの予防策として「ビタミンCやベータカロチンを取ることが重要です」と話した。すると、会場からすぐさま手が挙がった。
「先生、最近の文献で、ベータカロチンには、発がんの予防につながる根拠はないと、読みましたが…」
最近はインターネットや医学書が充実している。最新の医学情報をよく勉強している患者さんも多く、講師として、ひやりとすることも少なくない。
コンピューターを駆使し、世界中で次々に発表される医学論文をすべて検索し評価すればいいのだろうが、現実には難しい。とはいえ、医療の世界にもQC(品質管理)の導入は必要だ。
そのためにはEBMに基づく標準治療を確立して普及させなければならない。
勉強を重ねる患者さんにきめ細かく接して一人ひとりに応じたテーラーメード治療を実現するための医療人としての責務だと思う。